【第二章「おもてなし作戦」!】

第九話「射撃練習と不思議な幼女ヤマブキ」


 魔族の襲来から五日が経過した。


 幸い、魔王軍は現れていない。モンスターは出現したが、それはいつものように容易く蹴散らすことができていた。


 なお、道也は、毎日、初雁球場に作られた射撃訓練場で射撃練習をしている。

 最初は、こんなにも射撃が難しかったのかと思うほど的に弾が当たらなかった。


 しかし、一日目が終わる頃になると、格段に命中率が上がるようになった。

 そして、三日目となる命中率は自分でも驚くほどに上がっていた。


(こんなに短期間で上達するものなんだな……)


 これまで毎日のように富士見櫓に昇って敵の動きを見ていたのがよかったのか。

 それとも絵を描くときの集中力が生かされているのか。

 あるいは才能があったのか。


 なんにしろ、道也の銃の腕は実戦レベルに到達していた。

 今では、小江戸見廻組が放り投げる石ですら正確に撃ち抜くことがきる。


「すごいです、雁田くん……」

「……ん。弓矢を扱う茶菓が自信を無くすレベル……」

「はぇ~、雁田っち、すごい才能があったんだねぇ~」


 傍らで見学していた川越娘たちは、ただただ感嘆するばかりだ。

 ちなみに、そろそろモンスターが出没する時間帯なので川越娘たちは外に出ていた。本丸御殿と初雁球場は目の前にあるので演習からすぐに実戦へ移れるのだ。


「ああ、自分でも驚きというか……これで、少しでもみんなの役に立てるかな。戦場じゃ、ここまでうまく撃てるかわからないけど……特に、誤射は絶対にしちゃいけないし」


 なお、実弾の入ったライフル銃は、敵襲に備えて傍らの台の上に置いてある。

 と、そこで――。


 ――カンカンカンカン!


、富士見櫓から、鐘がけたたましく鳴らされ始めた。

 道也の射撃練習時には、小江戸見廻組が詰めて警戒しているのだ。

 空を見上げると、モンスターたちが次々と出現し始めているところだった。


「モンスターですかっ!」

「……ん。魔族の軍勢ではなさそう……」

「よっしゃ! ちゃっちゃと倒しちゃおっか! あ、そうだ。雁田っち、試しにモンスター相手に撃ってみれば? 練習になるじゃん!」


 確かに、実戦を積む良い機会だ。


「よし、それじゃ、ちょっと待ってくれ。まずは、射撃する」


 味方が飛び出してからだと誤射する危険性が高まる。

 なので、先制攻撃で試してみることにした。


 道也は傍らに置いていたライフル銃をとると、照準を合わせる。

 こちらに向かって真っすぐに飛んできていたので、狙いはつけやすかった。


 ――ダァン! ダァン! ダァン!


 空気銃のときよりも反動が大きかったが――過(あやま)たず、銃弾は三匹のモンスターを撃ち抜いていった。三匹は光の粒子となって霧消。クリティカルヒットだ。


「わあ、すごいです!」

「……とんでもない威力……」

「はぇー、銃ってすっごい!」


 川越娘たちは、自分たちの戦闘も忘れて感嘆していた。


「ありがとう、もう試し撃ちは十分だ。銃弾ももったいないしな。あとは、頼んだ」


「はい、あとは任せてください!」

「……ん。同じ遠距離攻撃担当として、茶菓も負けてられない……」

「よっしゃ! いっちょ、暴れてやるかぁ!」


 初音は、刀を手に次々とモンスターを斬っていく。

 茶菓は、初音とは別方向のモンスターたちに矢を浴びせる。芋子は、攻撃をかいくぐってきた敵に向かって拳と蹴り、さらには投げを繰り出していった。


 道也も、銃弾節約のために空気銃に装備を変更して戦闘速度で動くモンスターたちを狙撃していった。


(空気銃じゃ殺傷力はないけど、いい練習になるな)


 的や単純な動きで投げられる石とは比べものにならないほど実戦での射撃は難しい。だが、徐々に慣れていって複雑な動きをするモンスターたちの軌道を予測して射撃できるようになっていった。


『……雁田くん、やるねぇ~! ボクの目に狂いはなかった! キミにライフル銃を託して正解だったよ~』


 市役所屋上の拡声器にスイッチが入って、のんびりした三富新の声が響き渡った。

 どうやら、市長室から戦況を見守っていたらしい。


 その間にも、初音たちは次々とモンスターを撃破していった。

 通常出現する程度のモンスターなら、もはやほとんど問題なく倒せる。


 もちろん、こちらの被害は皆無。その間、道也は何度も空気銃による狙撃をして、モンスターを怯(ひる)ませることができた。


やはり才能があったのか、途中からはモンスターの顔面――しかも、目のあたり――に弾を当てることもできるようになっていた。


 ほとんど威力がないといっても、さすがに目のあたりに向かって弾が飛んできたら行動が鈍る。場合によっては、墜落にまで至るダメージを与えることもできた。


「よし、こんなもんかな」


 練習用の弾が切れたところで、道也は空気銃を下ろした。


 と、そこでー―。

 ひょこっと木陰から小さな影が走り寄ってくる。


「うわっ!?」


 モンスターかと思って身構えたが――目の前までやってきたのは6歳ぐらいに見える小柄な幼女だった。お姫様カットの金髪ロングヘアーで、真紅のドレスを纏っている。肌は灰色に近い。


(……魔族か?)


 先日、攻めてきた魔族と雰囲気が似ている。

 その金髪幼女はこちらを見上げると、ニパッと笑った。


「お兄ちゃん、初めましてなの♪」

「え、あ……は、初めまして?」


 ニコニコする金髪幼女に釣られて、思わず挨拶してしまう。


(な、なんなんだ……?)


 見た目はかわいらしい幼女なのだが、なにか底知れぬ威圧感がある。

 向かいあっているだけで、背すじに寒気が走るのだ。


「ふふっ♪ そんなに緊張しなくてもいいの♪ ヤマブキ、お兄ちゃんのこと取って食べたりしないの♪」


 そう言って『ヤマブキ』と名乗った金髪幼女は、牙のような犬歯を露わにしておかしそうに笑う。


(そ、そうだ……角は?)


 先日やってきた魔族の偵察隊は、みな頭に角が生えていた。

 すべての魔族に角が生えるのかは不明だが、今はそれぐらいしか判断材料がない。

 道也はヤマブキの頭を確認してみたが……角は生えていなかった。


「お兄ちゃん、ヤマブキの頭が気になるの? なら、特別に撫でさせてあげるの♪」

「えっ、あ、いや、これは……」


 ヤマブキはさらに近づいてくると、こちらの腰のあたりに抱きついてきた。


「ほら、撫でるの♪ そうしないと、手を離してあげないの♪」


 ヤマブキは両手を回して、ぎゅっと抱きしめてくる。

 見た目よりも、かなり怪力だ。


(わけがわからないが……ここは従うしかないよな……)


 道也はおそるおそるヤマブキの頭を撫でてみた。


「うにゅっ……♪」


 ヤマブキから気持ちよさそうな声が漏れ出る。


「……こ、これでいいか?」

「もっと♪ もっとなのっ♪」


 ヤマブキは催促するように、グリグリと顔を押しつけてくる。

 なんだか猫でも撫でているような気分だ。


(ほんと、小動物みたいだな……)


 魔族かどうか判断はつかないが、とりあえず危険性はなさそうだ。

 道也は、そのままヤマブキのおねだりに応えて、頭を何度も撫でてやった。


「ふにゅ~……♪ 極楽なの~♪」


 ヤマブキは声だけでなく身体も脱力させてゆく。

 こちらに全体重を預けるような形になり、ますます密着度が上がった。


 こうなるとヤマブキから抱きついているというよりも、体格上、道也がヤマブキを抱きしめているようなものだ。


 と、そこへ――。



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