ぼく、異世界転生召喚士。

そうま

第1話 異世界転生も楽じゃない。

 女王は嘆いていた。

 眼前には魔物の大群が、城下町を突き進み、彼女の居城へと猛進していた。

「女王陛下、このままでは……」

 女王の前には何人もの大臣が跪き、彼女の勅命を待っていた。

 彼女が座している玉座に本来座っているべき人物は、既に敵の手にかけられていた。

「もう、どうしようも出来ません」

 女王は崩れ落ちた。王国の兵士たちは必死の抵抗を続けていたが、一人でも多くの国民の命を守ることで手いっぱいだった。迫りくる軍勢に対抗するための手段は、もう残されていなかった。

「一体、彼はどこに行ったのです。私たちが召喚した、あの男は……!」

 あの男――。床に伏し、絨毯を爪で掻き毟る彼女の怨念が向けられているのはそう、数週間前、国を救う者として異世界より召喚された、一人の若い男だった。



「ベルさんどうしますか。このままだとこの国、ヤバい奴らに乗っ取られちゃいますけど」

 悲嘆に暮れる女王たちの様子を、僕の隣で見ていた男がそう言った。

「彼らも彼らで、別の世界からやって来た見ず知らずの青年に、一国の命運を背負わせたんだ。こうなっても仕方ないだろう」

「冷たいっすね」

 僕たちは下を見下ろす。足元に埋まっている巨大な球体に、魔物たちに立ち向かう剣士たちの姿が映し出されていた。

「フウト。お前はとりあえず、新たに送り込む転生者の候補を何人か用意しておいてくれ。この様子だと、女王がまた転生者召喚の儀を行うのも、そう遠くなさそうだ」

「了解です。ベルさんは?」

「姿をくらました転生者を見つけてくる。彼を送り込んだのは我々だ。我々にも、責任の一端はある」

「ベルさん、相変わらず真面目っすね。一回ダメになっちまった奴は、もうどうしようもないと思いますけど」

 フウトは球体に映し出された男の姿――、森の中の小屋で膝を抱えている男を一瞥し、去っていった。

「お前はどこへ?」

「トーキョーっす。あそこは別の世界に行きたがってる人間がうようよいますから」

 彼は振り返って答えると、そのまま空の下の雲めがけて落下していった。

 どこかの世界の空に浮かぶ雲を突き破ったそのさらに上空。剥がれた大地がいくつも浮遊している場所、そこが我々の住む世界だった。

 我々はここをからの世界と呼んでいた。

「俺もそろそろ行くか」

 彼、転生者のいる森の中の小屋には見覚えがあった。小屋が建っている場所の検討も粗方ついている。

 球体が埋まったこの大地は案外狭い。球体から離れ、数十秒ほど歩くと崖際にたどり着く。目の前は果てしない青。真下には雲の海が広がっている。

 一歩、二歩と踏み出し、後は重力に身を任せる。

 

 空に身を投げたベルペトは、雲の中にぽすりと潜っていった。

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