私の存在証明

恋桜

第1章 1話 出会いこそ、運命

今ここから飛び降りたら、私の人生に終止符を打てるのだろうかーー



私は、中学2年生である。


人見知りがあり、内気、影も薄い……それなのに正義感だけは強くて小学校からの友達がいじめられているのを放っておけなかったのが運のつき。いじめは、所謂ストレスの発散場所。それを奪われた者たちが次に誰を対象に選ぶのかなんて私は予想できなかった。

助けたと思っていた友達は、不登校になり、私とも会わなくなった。

いじめは、どんどん悪化する。クラスメイト全員が私を無視した。給食当番では、ペアになってくれる人が居ないから、重たい荷物でも一人で頑張って運んだ。クラスマッチではチームに名前がないから、具合が悪いと言って保健室に入り浸る始末。

唯一大好きな読書もおちおち出来ない。本を隠される、破かれる、取り上げられるのオンパレード。暴言なんて日常……。


こんな日常を変えたくて、私は今学校の屋上の扉を開けた。普段は鍵がかかっている。なのに、この日だけは開いていた。まるで、『さあ、おいで』と手まねいているみたいに。


「風が気持ちいい」


学校を最後の場所に選んだのは、知らしめてやりたいから。こんなに苦しかったんだ、痛かったんだって。誰も見ようとしてくれない、こんな世界なのに、私はそれでも誰かの瞳にその姿を写してみたかった。『希望』という言葉を体感してみたかった。無理だったが。


「そうかな?僕には、鬱陶しい風にしか思えないけどね」


まさか、返答があるなんて思っていなかった私は過去を振り返っていた思考を止めた。

そして勢いよく振り返る。

そこには、どう見てもここの学生服ではない青年が立っている。よくある救済物語のようだとさえ思った。


「どうしたの?どうぞ、続けて」


私は身動きできない。貴方は、誰?なんでここにいるの?鍵は閉めたはず……。なにより、何故貴方はそんなに笑顔なの?


「声、掛けない方が良かったね。せっかくの幕引きを邪魔しちゃったみたいだ。でも、僕も続きが気になるし……気にせずに最後まで演じてごらん?」


「誰……」


「君は、そこから風に身を委ねて幕を閉じるのに僕の名前が気になるの?おかしな人だね」


そう言った彼は、扉から離れると私の隣までゆっくりと歩いてきた。

そばで見る彼に、とても魅力を感じる。どうして、そう感じるのかこのときの私には分からない。ただ、かっこいいとかイケメンとかそういう問題ではなく、彼から滲み出る雰囲気に飲まれそうだった。


「飛び降りないの?」


「あのっ……あなたを知りたい」


私は気がつけば、そう言葉を紡いでいた。

彼は驚いた様子もなく、どこかつまらなそうに柵に手をかけ体重を預けながら帰宅していく生徒たちを見つめている。


「あの……」


「僕は、君の幕を引く姿を見たかったんだ。残念だなあ、君が飛び降りないなら興味はないよ。さようなら」


もう興味がないと言わんばかりに私の方を見ようともしない。この人も、皆と同じ……。私のなかで彼もまた絶望の1つになった。その瞳に写してくれないなら私は必要ないと断定されたも同じ。


私はなんの躊躇いもなく、柵に手をかけよじ登ると両手を広げた。


「見て!!私を見て!!」


特定の誰かに言う言葉でもない、不特定多数の下を行く生徒たちに投げ掛ける。でも、ここは4階。私の声を拾うことなく、楽しそうな笑い声や話し声が耳に届くだけ。

隣の彼は気になる。失望してしまった視線が私を見ているのか分からない。でも、もういい。もういいんだ。


私は踏ん張っていた足の指から力を抜いた。


その瞬間風が私を大空へ拐う。

彼は、鬱陶しいと言ったけど澄みきった空はこんなにも綺麗で、私を拐ってくれた風はこんなにも心地いい。


「ありがとう」



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