書くという旅路〜カクヨムコン6体験記〜

蜜柑桜

物語の始まり

 北に山の稜線を望む城下町に燈が灯り始める。日が落ちてしばらくたち、夕餉も近い頃になれば、秋深まるこの時節は刻一刻と冷え込んでいく。

 今年は妙な天候で、夏の訪れは遅く、猛暑ののちの秋は気温が乱高下した。草花は季節を忘れてしまったのか、ようやく最近になって銀杏も紅葉も全ての葉の色を変え、街路を華やかに染め上げる。常の暦ならばもう初冬、というところだが、街を彩る景色は盛秋。このシレア国が最も美しさを誇る季節である。


 城下町をやや離れたところに立つシューザリーン王城にも、政務のある昼の慌ただしさは止み、くつろいだ空気が満ちていた。

 その一角の部屋の中である。秋晴れを楽しませた窓には覆いが降り、ほんのり照らされた机の上で、この城の主人の一人が書物を開いていた。長身の美丈夫である。端正な顔立ちを際立たせるのは先代から引き継いだ蘇芳の相貌。シレア国を統べる王位継承者の一人、カエルム・ド・シレアである。

 この人物にしては珍しく、羽織を着崩して椅子の背もたれに体重を預け、カエルムはゆっくりと頁をめくると、机上の茶碗をとって口につけた。久方ぶりのしばしの休息だ。



 ——どのみちあまり長くは続かないのだが。



 それを察知しながら、なおも書から目を離さない。その間に、廊下の話し声はどんどん自室に近づいていた。


「お兄様、昨年のものをもう今年の版に改めたいのだけれど、いまいいかしら? もうロスったら昼の政務で言えばいいっていうのに」

「それは姫様の準備が終わらなかったせいでしょう! お休みのところ失礼します殿下、でも急ぎで」

「今年も前々から書いてはいたのよ! 忙しかったの!」

「機を掴むとかどうとかしてくださいよ、今年は他国へ伝達引き継ぎがあるんですからね!」


 戸をたたきもせずに勢いよく開けた二人——ともに国の王位継承者である妹王女とカエルムの側近である——の方へ顔を向けると、カエルムは眉尻を下げて微笑した。


「もう一年か。しかし……相変わらず、準備が遅いな。でも一応、日付が変わる頃にことを行う準備はできたのだろう?」


 一年前。カエルムとロスが赴いた隣国訪問時の奇譚は、不可思議な現象により書に綴られたのである。そして同じ頃、数千という数の奇譚、叙事詩めいた物語が、各地で書かれていた——その様子を観察し、思うところを記録してからはや一年。今年は他国と連携し、その任を依頼する予定である。


 ***



 はい、今年はどういう体裁にしようかな(舞台と登場人物を)と迷ったカクヨムコン体験記ですが、前回からの引き継ぎで行くことにしました。

 ここまでは前回参加した『天空の標』(カクヨムコン5の講評に取り上げていただきました)の登場人物(王女は出ません)による、カクヨムコン5で行った体験記の引き継ぎです。昨年から、今年へ、橋渡しです。

 前回の体験記が、こちらのすっかり楽しんだ体験記だったもので!

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892599712


 今年の参加作品は『楽園の果実』。主人公も国も世界も異なります。

 異世界ファンタジーですが、いわゆる(なのでしょうか?)テンプレと言われるものではなく、冒険記(?)恋愛(?)はたまた? という代物です。伝説の果実を求め、旅路へいざ。


 12月1日の夜中に投稿予定です。



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