Self-sacrificing Self-defense

Soh.Su-K(ソースケ)

1

 腕の中で喘ぐ彼女を見ながら、俺は釈然としない気持ちを抱えたまま、無様に腰を振るしかなかった。

 間接照明すらない真っ暗な室内で、飢えた獣の様に互いの身体を求めあっていた。

 彼女の名は宇和島うわじま 亜美あみ、同じ大学に通うクラスメイトだ。

 彼女の美しさは既に完成されていた。

 去年のミスコン覇者よりも明らかに美人である。

 しかし、友達と呼べる人間はほとんどいない様だった。

 女子には珍しく常に一人で行動し、群れる事をしない。

 何処か近寄りがたく、同じ室内にいるのに、まるで彼女だけが別次元から映し出されたホログラムなのではないかと思う程だ。

 何処か儚げで、少し触れただけで壊れてしまいそうな印象だった。

 クラスの他の奴等は、初めこそ彼女に話し掛けていたが、入学して3ヶ月も経つと幾つかのグループが出来上がり、彼女は何処にも所属しなかった。

 美人だけどノリが悪いという彼女の評価は、時が経つにつれ気取ってるだの、悲劇のヒロインを演じてるだのと、顰蹙へと変質していった。

 そんな彼女を俺はずっと見ていた。

 正直、最初は美人だったからだ。

 男なら誰しも美人には目が吸い寄せられる。

 勿論、何人もの男達が彼女を口説こうとしたが、結局は玉砕した。

 ちなみに、俺と彼女は付き合っている訳ではない。

 いわゆる肉体関係、セフレという奴だ。

 こんな関係になったのにも理由がある。

 まぁ、一番はお互いの自宅が近かった事だろう。

 大学の最寄駅から5駅程離れた住宅地。

 俺が住む安アパートから、道路を挟んで向かいのアパートが彼女の住むアパートだ。

 オートロック付きで、ハッキリ言ってマンションだ。

 とは言っても、彼女の自宅に行った事はない。

 俺達の逢瀬は、いつも俺の自宅だった。

 そして、いつも彼女から連絡がある。

 彼女にとってはという事なのだろう。


「何考えてたの?黒瀬くろせ


 あられのない姿のまま、俺達はベッドに横たわっていた。

 彼女はこういう所だけ鋭い。

 俺が性行為の間、別の事を考えているとすぐにバレる。


「別に、大したことじゃないよ」

「気持ちよくなかった?」

「気持ちよくなかったらイってないだろ……」

「ならいいけど……」


 俺はテーブルの上に置いた電子タバコを手に取る。

 既に日付は変わっていた。

 真っ暗な中、俺が煙を吸い込むのに合わせて、電子タバコの先端が蛍の様に光る。

 彼女は黙ってそれを見つめていた。


「そういや、レポートの提出期限って月曜だったな」

「あぁ、実験レポート?」

「それそれ。終わった?」

「終わってるよ、後回しにすると厄介だから」

「亜美は真面目だよな」

「真面目だったら、黒瀬とこんな関係になってない」

「ハハハ、確かに」


 吸い終わったたばこスティックを本体から抜き出して、灰皿に放る。

 ペットボトルに入った市販のお茶を一口飲んで、再びベッドへ戻った。


「それって美味しいの?」

「電子タバコの事?」

「そうそう」

「うーん、紙巻の方が美味いかな。まぁ、ゴミが少ないってのは長所だね」


 俺がそう言うと、彼女は無理矢理唇を重ねてきた。

 いきなりの事で俺はビクリと身体を硬直させる。

 彼女は俺をベッドへ押し倒し、貪るように濃厚な口付けを続ける。

 ひとしきり堪能したのか、彼女は一方的にキスを辞めると、ムクリと起き上がった。


「味分かんない……」


 どうやら電子タバコの味が知りたかった様だ。

 まるで幼い子供の様な姿に、俺は思わず吹き出してしまった。


「なに?」

「いや、そんなんで味が分かる訳ないじゃん」

「やっぱり無理か」


 そう言って再びベッドに横になる。

 2人並んで何もない天井を見つめる。

 何かあったのだろう、俺と行為に及ぶのはそういう時だ。

 だが、何があったのかは聞かない事にしている。

 聞いた所で教えてはくれないと分かっているからだ。

 それに、こんな美人とセックス出来るのだ、不誠実だと分かっているがそのには感謝すべきだとすら思う。

 そして何より、陰鬱とした感情を抱えながら肉欲に身を任せる彼女の姿が何よりも美しく、俺は度し難い程それが好きだったからだ。

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