ハロウ・アンハッピー
隠井 迅
第1話 教室の中の異世界
教室の敷居を越えると、そこは――
異世界であった。
左には、人の体に、頭が牛の牛頭鬼や、人身に馬の頭の馬頭鬼がいた。牛頭馬頭とは、地獄で亡者を責め立てる獄卒だ。
そして右には、面長の顔に縦と横に手術痕が刻まれ、左右のこめかみにボルトが捻じ込まれた人造人間や、青白い病的な顔に、先細りの細い顎、口端には牙を煌めかせ、黒色に赤い裏地の外套を纏った吸血鬼や、焦茶色の髪の毛を逆立たせ、頬に三本髭が書き込まれただけの、只のおっさんがいた。その焦げ茶頭のおっさんは、教室に入って来た男と目が合うと、いきなり右手に持っていた棒を掲げた。その棒の先には真ん丸の黄色い円が取付けられていた。その月を見た瞬間に、隣の吸血鬼が、おっさんに覆面を被せた。その覆面は、顔中が毛むくじゃらで、獣耳に鋭い犬歯の狼男の仮面であった。
中央には、女の子たちの集団が固まっていて、火の赤、水の青、風の緑、土の黄色などの衣装を身に着け、耳先が尖った、麗しい四大元素の精霊たちが、その場を彩っていた。
そうかと思うと、後方には、白衣の女性看護師や、ミニスカートの女性警察官、あるいは、飛行機の客席乗務員の制服を着服している女生徒の姿が認められた。
「これは、いったい何事かっ!?」
教室に入ってきたばかりの担当教師がそう生徒たちに問いかけた。
「「「「「「「「「「「「ハッピー・ハロウィ~~~ン」」」」」」」」」」」」
クラスの三十名全員が、こう唱和してきた。
教壇から振り返って、黒板の右端を見ると、そこには「十月三十一日(木)」と書かれていた。
「あ、なるほど、<ハロウィン>ってことね。でもさ、君ら、今が未だハロウィンじゃないって分かってる?」
昼休み開け直後の授業ということもあり、太陽は未だ空高い位置で輝きを放っている。
「えっ!? 十月三十一日がハロウィンじゃないんですか!? フンガ、フンガ」
右の最前部にいた人造人間が、驚いて、疑問を教師に投げかけてきた。
「ま、いいか。授業も、ここまで滞りなく進んでいるし、雑談でもしましょうかね」
「待ってましたでガンス」
「こうゆうのが、この授業の楽しみザンス」
「フンガ~」
そう狼男と吸血鬼と人造人間の三人組が反応した。
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