第2話 種別 プロトA-3715

 優しいのはあなたです。出会いは二百年前、地球上のことでしたね。

 あなたは私を見るなり言いました。腕をうしろに組みながら、私を見下したように『こいつは冷たそうなやつだ』って。私をまっすぐ見もしませんでした。たった数秒の出会い。

 それでもあなたは私を選びました。そしてわたしはこうしている。2270.12.-3



 あなたが私を選んだ理由は、『冷たそうなやつだから』でしたね。船の航行には冷静なヒューマノイドが必要だと、あなたは何度も言いました。だから私は常に冷静でした。ロボットらしく、平坦に。あなたはそれを気に入っていました。船のAIの方が人間らしくてケンカもしていましたね。--.--.--.



 私には5つの頭部スペアと、3つの体幹部があって、一か月ごとにメンテナンスをしなければならないのに、あなたはいつのころかそれを嫌がりましたね。教会の像を思い出すから、これがいい、と。

 私の記憶はそれからずっとつながっています。あなたは特別なプログラムを組んで、スペアを使わずにそれから五十年も。足は壊れてしまいましたが。227-.6.--



 あなたは人間で、家族のない軍のパイロットで、最初から片道切符の調査に志願したけれど、私はちがいました。百年目、あなたは私を気の毒がった。あなたが選んでこの船に乗せられたから。私はアンドロイドのプロトタイプ。原型。あなたは私がどのように航行の役に立つかをデータとして送りました。2-73.--.16



 私は冷たいとあなたは言いました、ユウマ。たぶん、私は二百年、ずっと冷たいままでした。プロトタイプA-3715。金属の四肢はアンドロイドのように柔らかくはありません。性別も人格もなく、あなたはそれが航行に必要だと言いました。私は役にたったようですね? 後継機が量産されたのですから。2-83.--.16



 でもあの日、あなたは私をあたたかいと言いました。おぼえていますか?

 ほとんど聞き取れないぐらい、小さな声だったけれど。私は言いました、あなたを失望させましたか、と。あなたはゆっくり首をふりました、そしてありがとうと言いました。

 それを聞いたとき、私の回路の電圧は通常より少し上がりました。理由はわからない。

 私たちは穏やかに暮らしました。地球との通信も途絶えて。--.--.--.



 こうしてあなたと船から宇宙を見ると、かならずあなたは言いましたね。あれはどれほど昔の光なんだろう、って。私には時間の感覚がありません。私とあなたは、私とあなたのいない世界の光をみました。

 あなたがいて、私がいる。それが私の日々。

 でもきっといつのころからか私は気が付いていた。あなたがもうスリープポッドから目覚めることはないと。229-.12.--.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る