第75話 思い出の場所へ。
「…懐かしいな。桜の花が綺麗。」
キッドが虹の橋に向かってから1年半過ぎ。
私は原点である「いつものお散歩コース」へと来ていた。
一人での散歩。リードも、横をテクテクと歩いてくれるパートナーも今はいない。それでも、私はあの頃を懐かしむ為にこの場所へと来た。
「…風間さんの所にご挨拶に行こうかな。」
手持ち無沙汰ではあったが、私はミルキーちゃんにも会いたい思いもあり、気付けば風間さんの家のインターホンを押していた。
「かおりさんっ!!」「来てしまいました。」「上がって上がって!!ミルキーも喜ぶわっ!!」
風間さんに歓迎を受け、私はリビングへと足を運ぶ。すると、いつもの定位置…ソファーにはミルキーちゃんが私の顔を見ながら一生懸命立とうとしている姿があった。
「ミルキーちゃん、久しぶり!」「かおりさん、抱っこしてあげて!?」「大丈夫ですか?」「えぇ。ミルキーも喜ぶわ。」
私はミルキーちゃんの腰に負担が掛からないように優しく抱き抱えると、ミルキーちゃんは私の服をクンクンと嗅いだ後、何度も何度も首もとへと顔を伸ばしていた。
「…あ、ペンダントか…」「キッドちゃんとお話したいのかもね。」
私はメモリアルペンダントを外し、ミルキーちゃんをソファーに戻してから首もとから外したペンダントをミルキーちゃんの側に置いてあげた。
動物でも感情が沸き上がるのだろうか?
会いたいと願っていた感情が溢れだしたかの様に、ペンダントに顔を刷り寄せながら「クゥン」と小さく鳴きながら姿の見えないキッドと会話を楽しんでいるように私には思えた。
「かおりさん、座って!」「突然すみませんでした。」「いいのよ。ここまで来れるように落ち着いたのね。」「ふと、ここに来たくなったんです。」「キッドちゃんがここに来たかったのかもしれないわね…。」
悲しみが増すかと思っていた。
辛くてまた泣いてしまうのではないだろうかと不安だった。
でも、何故かこの場所に来ても「懐かしい」「楽しい」という思いだけが込み上げてきていた。
きっと、これは間違いなくキッドの感情…
あたしの思いを越えて、キッドの「ここに来たい」という願いが、風間さんの言うとおりあたしを原点へと運ばせてくれたんだと改めて実感した。
「これからどうして行くの?実家に戻るの?」「いえ。あのアパートにはキッドとの思い出が沢山詰まってるので、ずっとあの場所に住むつもりです。」「そう…微力ながらにも何かあればすぐに相談してね。」
今のあたしはすべてが「たられば」状態。
過去ばかりを振り返り、あの時あぁしておけば、あの瞬間にこう動いていればキッドが助かったかもしれない。
心は少しずつ穏やかにはなってきていたが、拭いきれぬ後悔は一生消えないのだと思う。
「じゃぁ、そろそろ失礼します。」「もう帰るの?」「キッドと少し散歩してから帰ります。」「そう…、またいつでも遊びに来てね。」「ありぎとうございます。」
ミルキーちゃんにも別れを告げ、メモリアルペンダントを首に掛け…私は風間さんのお宅を後にした。
程よく心地よい外の気温。肌寒いようで天気が良いのもあり、何処かポカポカしている。
私はゆっくりゆっくりキッドと歩いた思い出のコースを歩き、昔の光景を思い出しながら首に手をやると、ついさっきまであったはずのペンダントがない事に気が付いた。
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