私の気持ちを知っているくせに
+ + +
「本当に、会いに行くの?」
「もちろん」
玄関で靴を履いている茜に、私は顔を思いっきりしかめる。
「なんでそんな顔するの」
茜が苦笑いを浮かべて私を見上げる。
もしも。
もしも私が舞白のような立場だったら。
彼は、同じように助けに行くのだろうか。
ふと、そんな疑問が頭をよぎって目を閉じる。
そんなこと、考えたって仕方ないのだから。
「私は本当に、元恋人になったんだなって思って」
「元恋人って……親が勝手に決めたことじゃない」
「……わかってて言ってるでしょ」
じとっとした目で睨めば、茜は曖昧に微笑む。
そんな顔を、してほしいわけじゃないのに。
「薫は、一緒に行かないの?」
「あの子はもう、雪だから。他人の所有物を勝手に守ることなんてできない」
「そうじゃなくて、せっかく友達と久しぶりに会えたんだから、話に行かないのかなって」
純粋な笑顔だった。
一緒に公園でも行こうよ、と誘うような、そんな、太陽が似合うような笑顔。
小さくため息を吐いて、私は彼に背を向ける。
「薫?」
「支度してくるから、ちょっと待ってて」
「わかった」
嬉しそうに、目を細めて笑う茜。
羽でくすぐられるような、そんなそわそわした心地に、心が急激に冷めていくのを感じる。
その笑顔は、私に向けられたものだ。
だけど、その理由は。
自室に入って、着替えを始める。
ふと壁を見れば、時計が夜の十時を指していた。
もういい時間だ。
茜がまだ人間だった頃は、もう今くらいの時間にはベッドに入っていた。
私たち狩人は、三時間も寝たら十分すぎるくらいだけれど、吸血鬼も人間も、それ以上の時間を寝ないといけない。
舞白は、ちゃんと寝ているのだろうか、とふと疑問が浮かぶ。
吸血鬼を誘うとしたら、たいていこれくらいの時間になる。
生きていくためにはお金も必要だろうし、あんなことを続けているのなら、夜間の仕事はできないだろう。
だとすると、太陽が出ている時間に仕事をすることになるけれど、そうすると睡眠時間の確保が課題になってくるのではないか。
そこまで考えて、私には関係のないことだと、首を横に振る。
たとえ彼女が睡眠不足で倒れたとしても、関係ないのだから。
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