私の気持ちを知っているくせに

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「本当に、会いに行くの?」

「もちろん」

 玄関で靴を履いている茜に、私は顔を思いっきりしかめる。

「なんでそんな顔するの」

 茜が苦笑いを浮かべて私を見上げる。

 もしも。

 もしも私が舞白のような立場だったら。

 彼は、同じように助けに行くのだろうか。

 ふと、そんな疑問が頭をよぎって目を閉じる。

 そんなこと、考えたって仕方ないのだから。

「私は本当に、元恋人になったんだなって思って」

「元恋人って……親が勝手に決めたことじゃない」

「……わかってて言ってるでしょ」

 じとっとした目で睨めば、茜は曖昧に微笑む。

 そんな顔を、してほしいわけじゃないのに。

「薫は、一緒に行かないの?」

「あの子はもう、雪だから。他人の所有物を勝手に守ることなんてできない」

「そうじゃなくて、せっかく友達と久しぶりに会えたんだから、話に行かないのかなって」

 純粋な笑顔だった。

 一緒に公園でも行こうよ、と誘うような、そんな、太陽が似合うような笑顔。

 小さくため息を吐いて、私は彼に背を向ける。

「薫?」

「支度してくるから、ちょっと待ってて」

「わかった」

 嬉しそうに、目を細めて笑う茜。

 羽でくすぐられるような、そんなそわそわした心地に、心が急激に冷めていくのを感じる。

 その笑顔は、私に向けられたものだ。

 だけど、その理由は。


 自室に入って、着替えを始める。

 ふと壁を見れば、時計が夜の十時を指していた。

 もういい時間だ。

 茜がまだ人間だった頃は、もう今くらいの時間にはベッドに入っていた。

 私たち狩人は、三時間も寝たら十分すぎるくらいだけれど、吸血鬼も人間も、それ以上の時間を寝ないといけない。

 舞白は、ちゃんと寝ているのだろうか、とふと疑問が浮かぶ。

 吸血鬼を誘うとしたら、たいていこれくらいの時間になる。

 生きていくためにはお金も必要だろうし、あんなことを続けているのなら、夜間の仕事はできないだろう。

 だとすると、太陽が出ている時間に仕事をすることになるけれど、そうすると睡眠時間の確保が課題になってくるのではないか。

 そこまで考えて、私には関係のないことだと、首を横に振る。

 たとえ彼女が睡眠不足で倒れたとしても、関係ないのだから。

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