第3話 ハロウィーンですね
もう一か月以上が過ぎていた。
クマの指示通り行動し森川とぶつかって以来、未来のアプリから何の音さたも無かった。なので、すっかりアプリの事もクマの事も勝は忘れかけていた。
鮮明に記憶に残っているのは、あの日見た委員長の素顔が可愛かった事だけだった。
今までより挨拶を交わす頻度は増えたが、彼女とはそれ以上の関係に発展していない。
気になっていても、現在彼女にとって勝は友達未満のクラスメートに過ぎない存在なのだ。
大学受験が近づくにつれ全ての時間を犠牲にしてでも勉強に勤しめと、親からも塾の講師からも言われていたが、週末ぐらい自分の好きに過ごしたい。
勉強を忘れダラダラ過ごしたいからこそ、今は寝ていたい。お昼を過ぎても、勝はベッドの中から出てこなかった。
「ジャ、ジャジャジャ、ジャーン・・・ジャジャーン」、遠くでベートーヴェンの運命が聞こえる。
そうだ運命とは、一体何なのだろうか?
寝ぼけて頭の回らない勝は、哲学的な内容とは真逆の思春期の男子が抱く邪な欲望を満たす夢を見ていた。
「いい加減、おきろー!!!」、クマの大声は、勝にとって遠くで誰かが騒いでいるぐらいにしか聞こえていなかった。
「起きないなら、今見てる夢の内容をバラしちゃうよ。どうせ、嫌らしい夢を見てるだけなんだからね」
ガバーと布団を蹴り上げて起きた勝は、机の上のスマホを掴みゴミ箱に放り込みそうになった。
クマの話した内容は、図星だったのだ。
その通り、健全な男子は嫌らしい夢を見る。
「ちっ、くしょう。久しぶりに出て来たと思ったら、何て事を大声で話すんだよ!」
スマホに向かって捲し立てる口調で話す彼は、すっかり目が覚めた。あまり良い目覚めではないにしろ、これでちゃんと会話が出来る状況になった。
「急いで! 早く着替えて駅前のショッピングセンターへ向かうのです」
駄々をこねながら布団の中に再び潜り込むが、スマホからしつこく鳴るアラーム音とクマの声に観念したのか、ベッドから起き上がり出掛ける準備を始めた。
ムスッとしかめっ面の彼は、良くも悪くも自分に関係する何かがショッピングセンターで起こるのだろうと、未来のアプリの目的を思い出した。
自転車に乗りショッピングセンターに着くと、週末だけあって人が多かった。
何が起こるのかまだ分からないが、この後はどうしたら良いのだろうかと思いスマホの画面を見た。管内図が表示され、小さな案内役のクマがナビを始める。
「さあ、僕の後について来てください」
「マッピング機能なのか、便利なんだな」
クマの後を付いて行きながら館内を歩き回っていると、クマは星印の付いた場所で止まった。
「目的地に到着しました。案内を終わります」、何とも味気無い音声が流れた。
立ち止まり辺りを見ると、仮装する子供達が館内を走り回っていた。ハロウィーンイベントだ。お菓子を集める子供達の様子を眺めていると、後ろからふくらはぎを蹴られた。
「いっ、痛い!! 誰だ人の足を蹴るのは」、振り返り下を向くと小さな男の子が彼の足を蹴っていた。
吸血鬼に仮装した男の子は、「お前は、悪の一味だな。えい、えい、えい」
「態度の悪い子供だな。何だよ、お前の両親は一緒に居ないのか?」、目線を子供に合わせてしゃがんだ勝は、柔らかい彼のほっぺを指で軽く摘まんだ。
「う、うっ・・・、うわぁーん」
「勘弁しろよ、泣くなよ。男の子だろ、悪の組織を倒すヒーローなんだろ。どうしたんだよ」
「ひっ、ひっく・・・、居ないの。お姉ちゃんが居ないんだよ!」
「迷子か、仕方がないな。一緒にお姉ちゃんを探してやるから、泣くな」
うんと頷いた子供を肩車した勝は、ショッピングセンター内を適当にうろつく。
2メートル以上の目線から見渡す光景に男の子は、泣き止み興奮しながら勝の頭を叩いていた。
「あっちだよ、あっちに行って」
「へいへい、分かったよ」
男の子の言う通りに進んで行くと、前から人を探す様に右往左往する女性を見つけた。
「なあ、君のお姉ちゃんは、彼女かな?」と、前から歩いて来る女性を指さした。
男の子の呼び声に気が付いた女性は、小走りでやって来た。深々とお辞儀をした彼女が顔を上げると、直ぐに委員長の森川だと分かった。
「あれー、委員長じゃないか。この子は、君の弟か?」
「えっ、田中君。そうなの、弟の
「良かったな、お姉ちゃんが見つかって」
「有り難う、助かったわ。ハロウィーンイベントに参加したいって言うから、私が寛人を連れて来たの。ちょっと目を離した隙に見失って・・・」
「気にするなよ、こうして無事見つかったから良かったじゃないか」
森川と一緒に手を振る寛人と別れた。今回は、彼女に年の離れた小学生の弟が居るのを知る機会だったのだろうか。
首を傾げる勝はスマホ画面を見たが、案内役のクマの姿は無かった。
イベントの結果を知りたかったのに。
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