第3話 説明してもらおうか

 うちのパーティーは、王都でも最強と謳われている。そのため、入団希望者が後を絶たず、メンバーも大勢いる。


「貴方は本日付で解雇です」


 ……当然、その中には役割を果たせずクビになる者もいる。


「なぜだ! 理由を話せ!」


 目の前で、ヒゲを貯えた年配の男性が怒鳴り声を上げた。


「理由も何も、貴方は、長年王都の最大手パーティーでタンクとして働いていたから新人の指導ができる、と入団面接のときにおっしゃいましたよね?」


「ああ、その通りだ!」


「その言葉を信じて、新人たちのダンジョン探索の引率を任せた結果、どうなりましたか?」


「むっ……それは……」


 俺が尋ねると、男性は目を泳がせて言葉を詰まらせた。


「一応、なぜあんなことになったのか、言い分は聞きましょうか」


 今日も、答えの見当がついている質問を口に出す。


「それは、あいつらがたるんでいるからだ!」


 ……言うと思った。


「新人たちがたるんでいるから、全滅の危機に陥った、ということですか?」


「そうだ! そもそも、弱いモンスターしか出ない初心者向けのダンジョンに連れていってやったというのに、一階層目でスライム相手にワシ以外全員戦闘不能になるなど、最近の若造はまったくけしからん!」


「ちなみに、貴方は探索に向かったダンジョンについて、下調べをしたのですか?」


「するわけないだろう! ワシが駆け出しだった頃から、あのダンジョンは初心者のレベル上げに使われていたんだぞ!」


「そう。そうやって、貴方たちの世代があのダンジョンの弱い個体を狩り尽くしてくれたおかげで、今は強い個体しか寄りつかなくなっているんですよ。それこそ、スライムですらね」


「な……に?」


「俺とルクスが助けに駆けつけなければ、新人たちはもちろん、貴方も歯すら残らないくらい溶かされていたでしょうね」


「そんな、ことは……」


 男性は再び目を泳がせながら口ごもる。


「あるわけない、と言いたいんですか? しかし、貴方の装備も一部溶かされていましたよね? ベテランである自分の装備が溶かされるくらいなら、レベルが低い新人たちには危険かもしれないと気づけなかったのですか?」


「だ、だが、若造どもを前に、撤退する、など気弱なことを言えるわけないだろう!」


「はっ! そんな見栄のために、仲間を危険に晒したんですか? それなら、解雇以前に、タンクとして失格ですね!」


 ……しまった。

 同じ職ということもあって、つい感情的になってしまった。だが、今更我に返っても、遅いか。


「なんだと! この若造が!」


 男性は真っ赤になりながら、床を踏みならして怒鳴った。


「最近評判が良いから前のパーティーを捨てて、お前のパーティーに来てやったというのに、この仕打ちと言い草はなんだ!?」


 少しでも穏便にと思っていたが、もう無理そうだし、取り繕うのはやめよう。


「それは、メンバーを危険に晒した貴方の自業自得でしょうに」


「黙れ! こんな無礼な奴のパーティーなど、こちらから願い下げだ! 今日のことは、国王にも伝えてやるからな!」


 男性はそう怒鳴りながら、部屋を出ていった。


「……先生に言いつけてやる! って、いい歳したじいさんが、まるで子供だな」


 そんな独り言を呟いていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「入れ」


 声をかけると、予想通りルクスが現れた。


「ベルム、ちょっと良いか?」


「うん、どうした?」


 まあ、どうせまた辞表云々の話だと思うが……。


「あのさ、昔パーティーにいた、回復術士のマリアンって覚えてるか?」


 予想に反して、ルクスの口から出たのは、懐かしい名前だった。


「当たり前だろ。彼女は、結成時の仲間だし、色んな狩りや探索で苦楽をともにしたんだから」

 

 そんな彼女は、今まで貯めた報酬金で喫茶店を開きたいからパーティーを辞めてゼロから修行してくる、と言って数年前に退職していた。正直なところ、彼女がいなくなるのはかなりの痛手だったが、夢に向かって歩き出すのを止めることはできなかった。


「そうか。それでな、マリアンから、ようやく自分の店を開けた、って手紙が届いたんだ」


「本当か!? それは、こっちも嬉しくなるなぁ」


「ああ、本当だな。あと、格闘家のヒューゴにも声をかけてあるから店で四人で集まろう、ってお誘いも書いてあった」


「また、懐かしい名前が出てきたな」


 ヒューゴも既に退職した仲間だった。魔法と打撃を組み合わせた攻撃を使うかなりの実力者だったが、サーフショップを開きたい、という夢を諦めきれず、マリアンと同時期に辞めていった。


「そういえば、ヒューゴの店も、それなりに繁盛してるらしいぞ」


「ああ、そうらしいな。この辺りでも時々あいつの店の広告を見かけるしな」




「そんなわけで、俺は辞表を出そうと思います」


「うん、どんなわけなのか全く分からないから、説明してもらおうか」




 今回は完全に油断していた。だが、この話の流れで辞職云々の話になると言うことは、コイツも本当にやりたいことが見つかったのだろうか?


「ほら、四人ではじめてダンジョン探索にいったとき、俺おもいっきり顔から転んだだろ?」


「ああ、木の根につまずいたとかだったな」


「そう。マリアンから手紙をもらって、そのことを思い出して不安になったんだよ。今よりも若かった頃にそんな調子だったなら、これから歳を取るにつれてもっとまずいことになるんじゃないのだろうか? むしろ、今も既に気づかないうちに迷惑をかけてるんじゃないだろうか? それなら、今のうちに辞め……」


「はい! 俺の目を見て! 今から言うことを復唱!」


「え、あ、うん」


 今日もまた、固有スキルをコイツのために使うことになった。

 引き際が見苦しいのも問題だが、引き際が見切り発車すぎるのも問題だと思うんだ……。

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