017話 VS心臓頭 ②


「アキカゼ、ナイス! 螺旋階段の目の前!」


「やるなぁ! 作戦大当たりだ!」


「登るよ! オウカちゃん引き続きお願い!」


「地形状態が通路とは全く違う! 警戒を怠るなよ!」


「漫画かアニメのセリフみてぇだな!」


「一度言ってみたかったからな!」


 わかる。


 何というか、今までのゲームはここまでの緊迫感なかったしな。


「トバリ! お前、あのバインド魔法でうまいこと通路を封鎖できねぇか!?」


「毒で封鎖しないの!?」


「ここだと遠距離から仕留められねぇ! 爛れが毒吸収して近くで爆発したら躱しようがない! 近距離で毒になったら多分全滅確定だ!」


「なるほど……! わかった! “チェインバインド”!」


 トバリが床に何発も放った紫の弾が、弾けて鎖で道を封鎖した。あんまり持つとは思えねぇけど、多少の時間稼ぎにはなるだろ!


 目論見は上手く行った。定期的に通路を封鎖したお陰で、20巻きぐらいされている螺旋階段を登っている最中、追いつかれることはなかった。


「ちゃんとした封鎖用魔法も作るべきだね!」


「そんなパーツあんのか?」


「新しいアニマ取ればいいんだよ!」


 キャパシティ足りんのかよ?


「登りきった! 次は橋!」


「道を開け! コガラシ、反対側の入り口を封鎖しろ! 念の為にトバリはバインドを追加!」


「OK! 《毒霧》!」


 橋の正面、壁の中への入り口からも溢れてくる囚人。当然爛れもいたが、出てくる前にアキカゼに撃ち抜かれた。


 オウカが橋の上を駆けていく。撃衝で囚人をぶっ飛ばし、並べた空のペットボトルを弾き飛ばすように囚人を掻き分け、突き落としていく。


「ボウリングのピンみたいだな!」


「ふふ、何点入るかな?」


「100点は加算できそうだ!」


 俺たちの軽口にふん、と鼻を鳴らし、手も足も緩めず進むオウカ。


「ワニもワイバーンも見当たらない! 進め!」


「オウカちゃん、交代! 向かいから来るやつらの中にまだ水晶肌がいない! 私が一気に焼く!」


「了解!」


 自前の翼で空を飛び確認したらしいトバリ。恐らく最大射程の紫電が迸る。


「一気に渡りきって橋を崩すぞ!」


「了解! アキカゼ、ここからどう探す!?」


「虱潰しだ!」


「近くに祭壇あるって話だった。ならそこで一旦リスポーン更新したほうがいいかも知れない」


「やられてもゾンビ戦法できるからか! 了解!」


 渡りきり、前方の視認が難しくなった。水晶肌が混じってたら溜まったもんじゃないから、交代し俺が広範囲斬撃で薙ぎ払う。


《レベル上昇:13→14》


 流石にさっきほどレベルアップは早くないな。


「“マキシムストライク”!」


 オウカの攻撃で、凄まじい破壊音と共に橋が崩落していく。よし。これで後顧の憂いは断った。前方の敵をなんとかして、まずは祭壇に行く。


「オウカ、そこの右だ!」


 道を壊し出ると、見覚えのある通路だった。よし、この先だ!

 トバリと再会した祭壇の付近には、まだ何もいなかった。急いで祭壇に触れてリスポーン更新。


「提案! この先で心臓頭に出会った。それで、逃げて横道に入ったんだよね。だからわたしも、多分コガラシもこの先未探索なの。そっちに行ってみない?」


「アテもないし、アリかもな。じっくり見れてないから碑石とかあってもスルーしてるだろうけど」


「それはしょうがないじゃん!」


「私はトバリの案に賛成」


「ではそれでいこう。そろそろ先の封鎖が突破されそうだ。前方からも来ている!」


「“ライトニングブラスト”!」


 トバリの紫電に続いて走る。


 あ、水晶肌が混じり始めた。オウカが前に出る。捌きながら進む必要があるぶん突破速度は遅くなるけど仕方ない。


「前方に広めの空間があるようだ! 生命反応が広範囲に渡っている!」


「あー、あんまりなかったケースだな。面倒だから迂回するか?」


「いや、突っ込もう! 最大威力の爆発弾でふっとばす! 反射されても通路に逃げ込めばなんとかなるでしょ!」


「トバリ?」


「“バーニングバレット”!!」


 ちょ……。

 止める間もなく、トバリがオウカに並び立ち、部屋の中に爆発弾球を投げ込んだ。


「にっげろー!」


 俺たちは慌てて引き返し通路に逃げ込む。広間への入り口が立て続けに爆風に飲まれた。

 お前、お前なぁ……。


「残党の処理よろしく!」


「トバリ、覚えておいて」


「こわ!」


 オウカがジト目でトバリを睨みつけ、部屋の中に飛び出していく。俺も続く。


 ……なんだここ。コンサートホールか?

 ……んぁ!? 奥の舞台に心臓頭いるじゃねぇか!


「結果論だが助かった!! コガラシ、通路を封鎖しろ! 俺が爛れを仕留める。定期的に毒を撒いて囚人を入れさせるな! 通路の箇所はここ、右奥、左手前だ!!」


「了解ッ!! 《毒霧》!!」


 椅子の背を蹴り、オウカと反対方向の残党を仕留めながら《毒霧》を飛ばす。毒液が弾け飛んで通路に立ち込める。


「トバリ、魔法反射の条件は分かるか!?」


「わかんない! だから私はコガラシが封鎖するまでに抜けてきたやつを仕留める! アキカゼも弓矢で心臓頭狙って! 爛れは魔法を吸収しない!」


「了解!! オウカは心臓頭の相手だ!!」


「わかった!」


 背後と左手前を封鎖! オウカが押し留めに行った奥へ向かう。


 いや待て。厳しくないか? 

 《毒霧》の発生時間は恐らく1分程度。持続時間の項目を最大に設定してあっても、明確な時間が出るわけじゃない。ここまでの戦いからの予想になるが、恐らくこの程度だ。


 そして、ここまで10発は確実に撃ったはず。祭壇で少しだけ休憩したにしても、あの短時間なら2発分回復できてればいいだろ。

 三箇所同時に塞ぐとなれば、押し留めてられるのはたった4分だ。


 4分であの未知の塊を殺せるか?


 ……厳しい。


 俺は最後の通路を塞いでから、トバリに向かって叫ぶ。


「トバリ!! 通路の床をぶち抜くか、天井を崩すかして物理的に塞げ!! 《毒霧》で塞いでいられるのは四分間だけだ!」


「そりゃ厳しいね! でも、ふさいでもそのうち突破されるよ!?」


「それでいいんだ! 魔法反射がある以上、お前の攻撃は有効打にできない! なら役割交代だ!! バインドで塞げ! 後続が勝手に殺す! それか雷で焼け!」


 俺には比較的強力な物理攻撃がある。それを使わず毒で封鎖するより、心臓頭に有効打を与えられないトバリが足止めをした方が効率的だ。


「なるほど! アキカゼもそれでいい!?」


「問題ない! だがもう一つ厄介な点がある!」


 俺たちの言葉に返事しながら、弓を引き絞るアキカゼ。


 ヒュン、と風切音と共に心臓頭に矢が向かう。


 だが、それは一瞬浮かんだガラスのような壁に遮られ、カィンと弾かれた。

 続くオウカの全力攻撃も、凄まじい音と共にその透明な壁に遮られる。


「魔法反射の障壁が、物理的なバリアにもなっている!!」


 ク、クソすぎる!!


 《毒霧》は……ダメだ! 毒液をぶつけて破裂させるっていうシークエンスが必要なせいで、確実に魔法反射の対象になる! もっと言えば霧も壁を通さなかった場合、毒で苦しむのは俺たちだ!


 《反撃毒》はどうだ!?

 ……こいつ攻撃して来ねぇ!! 耐えてるだけだから発動しようがねぇ!


 つーかそもそもさっき外したじゃねぇか! アホか俺は!


「“マキシムストライク”!!」


 ドガギャ!!

 オウカが橋を落とした一撃をお見舞いする。


 ガラスを金属で全力でぶっ叩いたような音。でも障壁は健在だ。

 ……いや! ヒビが入ってる!


「見えたか!」


「見えた。このまま叩き割る!!」


 と、その瞬間、心臓頭が口を開く。中から出てきたのは目玉だ。

 その目玉は上を向き、パッと光を放つ。


 頭上に広がる光の輪。読めない文字や図形が次々と浮かび上がり……。


「二人共!! 魔法陣だ!! 逃げて!!」


 トバリの声に、速攻で離脱する俺とオウカ。


 くそ、どんな攻撃が来る!?


 魔法陣が一層強く輝く。

 ……攻撃は来なかった。


 だが、天井付近に広がった光の輪をゲートにして、何かがゆっくり降りてくる。

 翼を持った、人の三倍ほどの身長の人型。右手には槍。仮面をつけた頭が三つ。


 オウカが叫ぶ。


「三つ首天使!! 魔法に注意!!」


 あのグロいのがなんで天使呼ぶんだよ!!


 ……待て。

 仮面をつけた、頭。


 まさかッ!!


「ギィィィィィァァアァァア!!!」


 叫ぶ心臓頭。

 三つ首天使の仮面が吹き飛ぶ。露わになる悍ましい素顔。


「発狂させやがった!!!」


 狂乱する天使が襲い来る。

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