014話 何なんだよマジで
あの心臓頭発狂のトリガーだけじゃなくて、トバリがああもぶっ飛ぶだけの遠距離攻撃まであんのか!?
見た限りHPは全損してない。でも確実に落下ダメージで死ぬ!
この囚人どもを捌きながら渓谷の底まで降りて受け止める……無理だ!!
《レベル上昇:9→10》
今は出てくんな気が散る!!
トバリは!?
空中で何度も羽ばたき、落下の勢いを殺す。そしてもう一度強く翼を動かして体勢を立て直した。流石だ!
……いや、さらに面倒がやってきた!!
「後ろだぁぁぁ!!!」
俺の声が届いたのか、回避行動と共に振り返るトバリ。
背後から迫っていたのは、腫瘍のように目が無数にある、大型トレーラーみたいなデカさのワイバーン!
あいつは別に発狂はしてない!
だが簡単な敵じゃない!
トバリは紙一重で攻撃を躱し、こちらに向かってくる。
トバリを標的にしたワイバーンは、唸り声を上げながら喰らいつこうと後を追う。
ああなるほど!
「コガラシ!! MPK!!」
「MvMのが正しいんじゃねぇの!!」
ワイバーンを囚人の群れにぶち当てようってか! いいねぇ!
突っ込んできたワイバーンを闘牛士のような空中ターンで躱し、そのままこちらに来るトバリ。
え、ちょっと待て今はお前が着地できるスペースを確保する余裕はねぇぞ!?
だが心配はいらなかった。
「“バーニングバレット”!!」
トバリの杖から放たれた魔法の爆発弾が、器用に俺の周囲の囚人だけを吹き飛ばす。
熱……くないな。爆風も青いし、これ炎じゃないのか。
「ワイバーンは……」
突進の勢いで囚人たちの列を吹き飛ばし、壁に突っ込んで破壊し……。
囚人たちはそれでもワイバーンを無視してこっちに来る。ワイバーンも囚人に目もくれない。
「えぇぇぇ!! 何で食い合わない設定なのさ!!」
「何で仲間意識あるんだよおかしいだろが!!」
邪魔者は引きちぎってまでこっち来てたじゃねぇか! なんでワイバーンはいいんだよ!
……ああ違う!
俺たちを殺すことが最優先。
ここのモンスターは全てそのためにいるってことか!
俺たちに何の恨みがあるんだよクソッタレ!
と、風切り音と共に飛んできた何かが、ワイバーンの目玉の一つに突き刺さる。
……矢!
「聞こえるか!! その先の橋まで行け!! こちらには橋を落とす火力がある!! 橋を落とせば追ってこられないだろう!!」
対岸からの大声。囚人を斬り捨てる途中ちらと目をやれば、弓矢を構えた人影が。
……なんか聞いたことある声だな!
「アキカゼじゃん!! やっほー!!」
え、マジ? どおりで!
だが助かった! 弓矢じゃ囚人の群れは対処できないだろうが、ワイバーン相手には別!
目でも羽でもいい。
対岸からなら狙いやすいだろ!!
「ワイバーンは受け持つ!! オウカが目標地点の橋を使ってそちらへ援護へ行く! 持ちこたえろ!!」
「了解ッ!!」
オウカもいるのか! 図らずも『ゲームのトバリ』全員集合だな!
「んで、トバリは大丈夫か!」
「HP2割!」
「何があった!?」
「心臓頭に魔法反射された! あと囚人が上から来たのかまだいた!」
「はぁぁ!?」
それはおかしいだろ!?
マジで何なんだあいつ!
チッ、思考が揺らいだ!
って上!?
建物の崖の上方に空いた道から飛び降りてくる囚人。
なりふり構わねぇなこいつら!
だがそこに飛んでくる矢。
降ってきた新手は頭を縫い付けられ、ポリゴンの破片と消えていく。
助かる!
その間に俺たちは下をくぐり抜ける。
抜けてしまえば、結局の所ここは一本道に過ぎない!
続けてワイバーンの目が二つ射抜かれる。
ナイスエイム!!
「“ライトニングブラスト”!! 心臓頭に他の魔法使ったからあと1!」
MP切れか!
だがあんな高威力貫通だもんな。そりゃ消費が激しくて当然!
「何? この数」
「オウカ!!」
赤鬼の見た目をしたオウカがいつの間にやら到着していた。
びっくりするわお前!
「コガラシ、代われ(スイッチ)!」
「OK!!」
オウカはハンマーをぶん回し、囚人を全力で殴りつける。
ゴシャ、と吹き飛ばされた囚人は、谷底に落ちる前にポリゴンになって消えていく。
「物理攻撃力900の力を見ろ……!」
900!?
火力エグいな!
オウカが殿なら……俺は前方だ!
ああやっぱな! 長い直線だ! 絶対もっと横道があると思ってたぞ!!
帰れ帰れ! 出てくんな!
二人がこの辺りに来るまで押し止めろ!
「これで撃ち切り! “ライトニングブラスト”!!」
「サンキュー!」
「先に飛んで対岸に逃げろ!!」
もう何度目か覚えていない紫電が敵を焼く。貫通ってだけじゃ説明つかないような範囲だが……そうか電撃だから伝播するのか!? エグいな!
「ギオオオオオ!!」
クソ、邪魔だ!
飛び上がってアキカゼを狙っていたはずのワイバーンが前方、俺たちの行く道を塞ぐように飛び出してくる。
飛んで逃げたトバリと対岸のアキカゼより、俺たち二人の方が仕留めやすい。
それが分かってやがるなコイツ!?
目がハリネズミみたいになってるのはいい気味だがなぁ!
「二人共、あとちょっとで橋にたどり着くよ!」
トバリの声が聞こえる。ならコイツを殺せばいけるはず!
「コガラシ、私が叩き潰す!
「わかった!」
囚人を押し留めていたオウカとすれ違う。
「“斬撃拡大”!!」
交代した瞬間、オウカを追う群れを斬り伏せる。
振り返りちらと様子を見る。
……ッ、やばい!
ワイバーンの長い首による薙ぎ払いがオウカに直撃していた。
あれじゃ谷底に落とされ……いや、耐えた!?
踏ん張っていた様子もなく不自然に耐えたオウカ。その体の表面を薄い光が覆い、すぐにガラスのようにひび割れ消える。代わりに、赤く刺々しいオーラがオウカを包む。
「ぶっ飛べぇぇぇえええ!!!」
ハンマーがしなって見えるほどのフルスイング。
ワイバーンの頭が冗談のように吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。
やるねぇ!!
「コガラシ!!」
「斬れるかどうかは分かんねぇけどな!」
囚人はもう無視、道を塞ぐコイツを最速で殺して離脱する!
「“斬撃拡大”!!」
首を切られて無傷じゃいられねぇだろ!! 鎧みたいな鱗に覆われてたなら別だが、コイツはまだ柔そうな表皮だ!!
ザグ、と半ばで切り裂いた俺。
続くようにオウカが再びのフルスイング。
今度は、ハンマーがさらに赤黒く、炎にも似た光を纏っている。
「“リベンジ……ストライク”!!!」
胴体にめり込んだハンマーが肉を骨ごと粉砕。
ワイバーンがポリゴンになって爆散する。
やるなぁ!
《レベル上昇:10→13》
おっしゃあとは逃げ切るだけだ!!
橋は目の前!
「ッ、まずい二人共! 走れッ!!」
渡り始めた瞬間、アキカゼの焦燥に満ちた声。
言われなくとも分かってるよ!!
「ワニがお前達を狙っている!!」
分かってなかったぁ!!
視線を下に少しだけ移せば、そこには背中の鱗……いや、瞼を見開き数百の巨大な目玉でこっちを見るクソデカワニが。
何なんだよマジで!! モンスター寄せの香水みたいなもん使った覚えなんて無いぞ!!
グオ、とワニが巨体を起こす。
そしてさっきのワイバーンを数匹丸呑みにできそうなほど超巨大な口を開く。
橋ごと俺らを食うつもりだ!!
ここまでやったんだ。最後の最後で食われてたまるか!
敏捷の差か、先に渡りきったオウカがこちらを振り返る。
背後が気になるが振り返ってる余裕はない。
巨大な破砕音が響く。
同時に橋を全力で踏みしめ……。
跳んだ瞬間崩落する橋。
「だあああ間に合った!!」
転がり込むように対岸へたどり着いた。
「死ぬかと思った……」
「危なかったね……」
疲れた声のトバリの視線に釣られて振り向けば、囚人たちが橋ごとワニに食われたらしく、ワニの口の端から手や脚が覗いていた。半ばから食いちぎられた橋は構造上脆かったのか、端の方の支えも巻き込んでガラガラと崩落している。
対岸を見れば、まだ山程いる囚人が橋の手前で急停止した囚人を突き落としていたり、迂回を始めていたりした。
「流石に落下死するみたいだな……」
「ワニももうこっちには興味ないみたい」
「だが囚人は諦めていないようだ。おそらく下から回ってこちらに来る」
「あ、ホントだあそこのやつら階段降りてる……」
マジで執念深いな……。ホント俺たちが何したってんだ。
「それで、なぜ追われていたんだ? あれはどこにでもいる囚人だろう?」
「なんつーかな……心臓でできた頭したキモい何かが発狂のトリガーになった。あんまり数が多いんで逃げてきたら周りのも巻き込んで発狂させてあのざまだ」
「心臓頭は魔法反射持ちっていうのは確定だよ! 一回だけとかそういう制限はわかんないけど」
「なら殴ればいい」
脳筋isジャスティスな感じのオウカの言葉だけど、今回ばっかりは正しい。
「多分心臓頭を仕留めないとあれ解除されないぞ」
「なら仕留めに行こう」
「いやどうやって仕留めるかが問題なんだよオウカ」
「どこにいるのかは分かるのか?」
「うん。ほぼ場所変わってなかったから、そんな大きく移動はしないんだと思うよ! でも通路の途中に出てきたから、ボスみたいな感じじゃないんだと思う」
あれが徘徊型ってのはキッツいな……。
「心臓頭を仕留めようと思ったら、あの囚人どもを掻き分けて進む火力と、足止めできる何かが必要だな」
「さっきレベル上がったし、MP回復手段も積めそうだよ!」
「私も使えそうなアニマに心当たりがある」
そうか、レベル結構上がったんだったな。色々できることが増えそうだ。
というか俺結局マトモにスペル作れてないんだよな。《飛斬》っていう、明らかに遠距離攻撃できそうなパーツもあったはずだ。それ使って威力上げるかすれば俺も突破力のある攻撃は作れる。
……あ、いやそれよりも。
「俺は連結アニマとかを探して、設置技が作れないか見てみる。毒の霧でも巻いておけばあいつら勝手に死ぬだろ」
「確かにそれは有効だ。屋内戦となると俺は現状それほど役に立てない。何か貢献できる手段を探そう」
「そうと決まれば、一旦祭壇に行きたいね! そこでぱぱっと準備整えてリベンジだ!」
「こっち。アキカゼと一緒に見つけたのがある。行こう」
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