013話 どうこれに対処しろってんだ


「足止め!!」


「“チェインバインド”!!」


 誘導弾が命中した囚人から、ジャララと鎖が飛び出、周りの囚人を巻き込んで拘束する。

 でもその奥から次から次に新手が押し寄せてくる。


「さっきまでこんなにいなかったよなぁ!?」


「コガラシ、そこの牢屋の中! 曲がるよ!」


「了解!」


 直進して祭壇に戻っても、その先の道の構造からして逃げ場がなくなる可能性が高い。

 死中に活を求めよってわけじゃないが、迷宮内の方が少しだけ詰む危険性は低い。


 突出してきた囚人を斬る。なるべく致命傷を狙えるよう、頭か首、体を狙って。


 あっちの方が足が速い!

 追いついてきた奴をしっかり処理しないとダメだ。


 状態異常マシマシビルドで助かった!!

 多少なりとも手傷を追わせれば、高確率で何かが発動する。


 毒ならそのまま殺せる。他の二つでも足止めには十分だ!


 囚人のうち何匹かが、不自然に立ち止まる。

 ……待て。てめぇ何をするつもりだ!


「ギィィィィィィイイイ!!!」


「てめぇも吠えるのかよ!」


「ヤバい! コガラシ、前にいた囚人が反応した!」


「ハァ!?」


 見ると、前方にいた囚人の仮面が弾け飛んでいた。


 手枷足枷を引き千切って向かってくる。

 ふざけんなよ発狂を感染させんな!!


「殺れるか!?」


「いける!」


 複数のゲームでランキングトップ100に入るプレイヤースキル持ちだ。そのトバリがいけるって言うならいける!


 牢屋の中を通る道を逃げながら行く。よし、入り口が狭い。多少なりとも足止めを……。


「そんな腕力してたか!?」


 鉄格子を腕の一振りで針金のように曲げ、囚人が雪崩込んでくる。

 だぁぁぁ!! 俺らレベル一桁だぞ!! どうこれに対処しろってんだ!!


「逃げるほど囚人を釣っちゃう!」


「立ち止まるのもよくねぇだろ! 火力がおかしい!」


「仕方ないね……! チェインバインド!」


 囚人が玉になってたお陰で、多数を一気に拘束できた。道も大部分が塞がって……。


 だが狂える囚人は、障害物となったものは同じ囚人でも容赦しなかった。

 邪魔になった仲間を引き裂き無理やり向かってくる。


「ダメだ! あいつら構いやしねぇ!」


「数はちょっとでも減らせるけどね……! 階段!足元注意!」


 下り階段を飛び降りるような勢いで進む。


 途中で階段が曲がりくねってて助かった! 一直線ならすぐに追いつかれる!


 建物の様相が流れるように切り替わっていく。

 牢屋、豪華な部屋、木の継ぎ接ぎ、石の地下室……。


 だが今の俺達はそんなものを気にしている余裕なんかない。


 俺は追いついてきた囚人を片っ端から処理し、トバリは前方の邪魔者を排除する。


「邪魔!」


 トバリが進行方向にいた看守を杖で殴り飛ばした。俺たちが通り過ぎた直後、囚人の波に飲まれ看守が見えなくなる。


 二人しかいない以上、先頭を走るのはトバリになってしまう。魔法職故に敏捷が高くないトバリが殿をするのはリスクが高い。魔法を放つにも、距離が空いてないと飲み込まれる。


 だから前方の露払いを魔法職にさせることになってるが……トバリなら心配いらない。


 トバリはこのゲームでこそ魔法職だが、別ゲーでの経験を含めると、マジでどんな戦法でも使えるオールラウンダーだ。

 だから魔法職だろうと、近接戦闘用の魔術を当然のように用意している!


 発光する杖の一撃が、新たに立ち塞がる看守の頭を打ち砕いた。やるぅ!


 通路を曲がり、独房の並ぶ一直線の通路を走る。クソ、左右から出て来ねぇだろうな!!


「直線通路!! 端まで行ったら直線貫通使うね!!」


「頼む!!」


 俺もただ斬ってるだけってわけにもいかない!

 こんな場面で初使用になるとは思わなかったけどな!


「“毒撃拡大”!!」


 MPを余らせておくのは勿体ない!


 範囲と毒を強化した斬撃が囚人を斬りつけ……。

 同時に、自分の中から“何か”が抜ける、ぞっとしない感覚。


 MP消費の感覚か!? いやそんなもんは後だ!


 ってオイ!


「あぁ!! 斬撃の威力減らしたせいで先頭にしか当たってねぇじゃねぇか!!」


 斬れてないせいで表面撫でただけだ!! ただ射程伸びただけになってんじゃねぇかよ!


 だが毒になった囚人が倒れ込み、後続が躓き転ぶ。


 さらにその上を、他の囚人たちが容赦なく踏みつけにして向かってくる。

 呪縛か麻痺の方がいいな!


「コガラシ!!」


「ぶちかませ!!」


「“ライトニングブラスト”!!」


 迸る紫電が空を焼き、直線上にいた囚人全てを貫く。

 肉の焼ける嫌な匂い。


「いい威力だ!! 名前は安直だけどな!!」


「わかりやすさ重視!!」


 クソ、死体がポリゴンになるせいで、死体で足場を悪くする足止めはそんなに期待できねぇ! 奥から奥から湧いてきやがる!


 そして案の定、牢屋の途中からも出てきやがった!


 そしてもって追加の金切り声!

 だああああ!! 死ね!!


《レベル上昇:8→9》


 今はんなもんどうでもいい!!


「MPの残量は!!」


「拘束魔法なら40発! 直線貫通7!!」


「貫通で効率的に減らす方がいいな! 集まったらもう一回かまして逃げるぞ!」


「OK!」


 ライトニングブラストを撃つトバリを守るよう、俺が前方の警戒をする。現状気配なし!


「“ライトニングブラスト”!!」


「ナイス!」


 再びトバリが先頭になって直線通路の終わりを左に曲がり走り出す。


 ってここの右通路向こうから繋がってんのかよ!

 すでに囚人たちがそちらから溢れるように向かってきていた。


 さっきせっかく距離稼いだのに!


「“毒撃拡大”!」


 あ、やっべ呪縛の方使おうと思ってたのに!

 それでも毒の斬撃を喰らい、さっきと同じよう倒れていく囚人ども。


 いや、むしろ……。


「“斬撃拡大”!」


 ザク、と拡張された斬撃が囚人を纏めて切り裂く。

 威力重視で効率的に仕留める方がいいか?


 そう思って試しに使った斬撃拡大だが、思わぬ副次効果を生んだ。


 仕留めるには至らなかった囚人たちのうち何匹かが、明らかに動きを鈍らせた。さらに呪縛状態を示す、紫色の鎖じみた模様が表面に浮かぶ。


 これは……!


「いいことを知ったぜ!! スペルにも常時アニマ適用か!!」


 スペルパーツとの併用、つまり毒撃拡大とかより効果は落ちるだろうけどな!


 これなら、範囲内の敵を確実に処理しながら状態異常を付与できる!

 今は多少なりとも足止めできたらいい!


「やばい、外に出ちゃった!!」


「しゃあねぇ! 道なんかわかんねぇもんな!!」


 視界が開け、光が目を眩ませる。


 前方には真っすぐ伸びた崖沿いの道。

 ……外は建物の中より強力なモンスターが多い。


 正直かなり危険だ。


 だが、さっきの直線通路よりも長い道だ。纏めて焼くって意味ならさらに都合がいい!


 どこかで何度目かの金切り声。


「やっば前からも来たよコガラシ!!」


 うっげ。


 崖の横に空いた道から溢れ出てくる囚人。

 先回りされた!


「打開できる程度に迎え撃つか!?」


「いや、両側に貫通を撃つ! 前方はまだ少ないから、そっちを押し込んで突破するよ!!」


「博打だな!! 了解ッ!!」


 紫電が迸る。それが前方から来た大多数を焼き……。


「残党狩りだァ!!」


 すぐに俺が残りを斬る!!


 数が多くないなら、火力が異常な速いだけのモブだ!

 追加が来る前に前方の敵を掃除する!


 一匹、二匹、三匹! てめえで最後だ四匹目!


 囚人が出てきた横穴発見!

 奥から新手!


「出てくんじゃねぇ! “斬撃拡大”!」


「ありがとうコガラシ! まっすぐ行くよ!」


「外を走るのか!?」


「長い直線だしね! それに外なら飛べる!」


「そう言えばお前翼生えてるな!」


「まだ長時間は無理だけどね! “ライトニングブラスト”!!」


 紫電に貫かれ崩れ落ちる囚人。それなりに長い直線の道なおかげで、ほんの少しだけ休憩できた。


 このアバターにスタミナ要素が実装されてなくて助かった……!


 このゲームは変にリアルだが、再現されてないものは部分再現じゃなく完全にない。心臓の鼓動と息切れもその一つ。

 ゲーム的な都合か? 何にせよありがたい!


「MP回復手段はねぇのか!」


「キャパシティが足りなかった!」


 ならしゃあねぇ!


「これ絶対あの心臓頭倒すまで続くよね!」


「十中八九そうだろうな」


 ……と、すれば。

 逃げたのは失敗だったか?


 いや、あの状況で四方八方から湧き出てくる囚人を処理しながら心臓頭と戦う……。

 無理だな!


「本当ならわたしだけなら逃げられないこともないと思うんだけど……」


「俺が死ぬ、と。ならお前が飛んで上まで戻って、あの心臓頭を仕留めてきてくれ! この様子じゃ囚人は全部こっちに来ただろ!!」


「コガラシは!?」


「気合で耐える!! 死んでもリスポーンするだけだ!」


 むしろリスポーン地点が上だった以上、心臓頭に近づけるかも知れないしな!


 こういう状況を作り出す張本人は、決まって直接戦闘能力は大したことねぇんだ!

 一人でもやれるはず!


「了解!!」


 さぁ頼んだぜ!

 俺はこの地獄を乗り切ればいい!!


 クソみたいな状況だが、これはこれで楽しめる!!


「掛かってきやがれゴミども!!」


 大振りは避ける! 後退しながら確実に攻撃を捌いて避けて、隙間に手傷を作ればいい!!


 毒と呪縛と麻痺で動けなくなれば、倒れて躓いて踏まれて勝手に死ぬからな!

 そして集まってきたら纏めて斬り捨てる!


「“斬撃拡大”!!」


 検証用に作ったスペルがこんなにも役に立つとはな!


 ああでもMPの残量分かんねぇ! あと何発撃てる!? クソ、検証だけのつもりだったから消費MPどれだけの設定になってるか見てなかったのが痛い!


 幸い背後からはまだ来てない。被弾も数発。あと十分ぐらいなら耐えてやる!!


 と、上空、崖の上の方から爆発音。

 トバリが心臓頭を仕留めたか!?


 ……いや!!


 目に入ったのは、力なく落ちていく翼の生えた人影。


「トバリ!!」


 クソ、失敗した!?

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