52.制御方法
「――うっ……?」
「「「「あっ……」」」」
すっかり風が収まった長閑な丘の上、あの病的なパワーの子が目を覚ますのがわかった。
何故すぐに回復術で起こさなかったのかというと、もちろんアイシャたちに追いかけられて疲れていたからというのもあるんだが、あんまり気持ちよさそうに眠っていたからしばらくそのままにしていたほうがいいと思ったんだ。
なんせ、鎧を着たままじゃ熟睡なんて到底できなかっただろうからな。寝不足気味で戦ってたってことも考えると、彼女がどれだけ規格外に強いのかがよくわかる。
「私は……そうか、負けてしまったのだな……」
「ああ、約束通り自分をプレゼントしてもらうぞ」
「も、もちろんだ。私にはミスティという尊敬する父から授かった名前があるのだが、この際あなた方が名づけ親になってくれてもいい……」
「い、いや、それはさすがに遠慮しておく。それより、あんたの異常なパワーを治療したいんだが」
「パワーを治療……? ほ、本当にそんなことが可能なのだろうか……?」
「絶対に治せるとは言えないが、可能性なら間違いなくある」
「うーむ……それはさすがに難しいように思うが、私を倒したあなたなら可能かもしれない。是非お願いしたい。この通りだっ!」
「あぁ――って、うわっ!」
依頼人のミスティから頭を下げられただけで強風が発生し、俺は体勢を大きく崩して丘の上から転げ落ちそうになった。寸前のところでバランス感覚を回復したからよかったが、危ない……。
俺は気を取り直して、ミスティの病的なパワーを抑えるべく回復術を試行する。なんせ彼女の場合、歩くだけで風が発生して近くの木が揺れるレベルだから、一緒に行動するにしてもまずここをなんとかしないといけない。いくら俺たちが制御できるとっても限界があるからな。
「――はっ……!?」
俺は依頼人のパワーを半分ほど抑え込んでいたところ、急に跳ね返るような衝撃を覚えて回復術が途切れてしまった。ダメだ……。そもそもパワーそのものは病気じゃないから、回復術とは相性が悪すぎる。
一体どうすれば……って、そうだ。あの甲冑は確かにミスティのパワーだけでなく、巨躯をも抑え込んでいたわけで、あれを参考にしてみよう。早速鎧の欠片を探してみると、それらしきものが転がっていたので触診で成分を回復することで調べてみる。
――こ、これは……。鎧の破片には特殊な魔法が施されていて、それはパワーを直接抑え込むのではなく、分散させるという形を取っていた。なるほど、これなら反動を恐れる必要もなく、自然に力を弱められる。
「ミスティ、今から俺を思いっ切り殴ってくれ」
「えっ……い、いいのだろうか?」
「ああ、問題ない」
「で、では、遠慮なくっ……!」
ミスティが立ち上がり、息を深く吸い込むのがわかる。さらに中腰、それも最短距離から腰の入った拳が俺の顔面に向かって繰り出されるところで、俺は風とともに発生した病的なパワーを痛みになぞらえ、それを発散させる――様々な方向に逃す――イメージで回復術を行使した。
「ぐはっ……!」
「あっ!」
凄まじい衝撃が顔面に伝わってきて俺は倒れ込んだわけだが、風もそうだし痛みもそこまで感じなかった。よしよし、明らかに上手くいってる。
「す、凄い。もろに命中したのに、首がもげていないとは……」
「……」
いやいや、滅茶苦茶怖いことをさらっと言わないでほしいもんだが……。さて、気を取り直して今度は意識の部分だ。
「ミスティ、今度は俺を殴るときに寸前で引っ込めるようなイメージを持ってくれないか?」
「りょ、了解した! ふんぬっ……!」
同じように、彼女が拳を出してきた瞬間、俺は力を回復術で分散させる。殴る、止める。その繰り返しによって、彼女は徐々に自分の力を制御し始めているのがわかった。
ミスティがパワーをコントロールする術を知らなかったのは、強すぎるがために対象がすぐに壊れてしまい、制御という概念すら得られなかったからなんだ。
ここまで手加減を知らないのは、ほかにも彼女の全力を出さなきゃ相手に失礼という高すぎる意識も関係していたように思う。
「だっ、大分力を抑えられるようになってきたっ! 凄い、凄いぞっ!」
「「「「……」」」」
子供のようにはしゃぐミスティが微笑ましく、俺を含めてみんな笑顔だった。とはいえ、やっぱり怖いのでちょっとだけ青ざめてはいるが。
「本当に、ありがたいっ。特に、私はあなたのことが大好きだっ!」
「ちょっ……もふぁっ!」
俺は安堵したところを突かれる形でミスティに抱き付かれてしまったわけだが、幼児と大人以上に体格差があり、窒息死が頭をよぎるレベルだった。
「「「お助けっ!」」」
「……ふうう……」
アイシャたちに救出される格好になったわけだが、どうしようか。確かにミスティの病的なパワーは彼女自身が制御するという形で治ったが、この体格は目立ちすぎるし……って、そうだ。あの方法があった。
「アイシャ、シーカーを出してくれないか? 目玉のやつ」
「えっ、ラフェルさん、それはどうしてなんですかぁ?」
「例の鎧の欠片をかき集めてほしいんだ。風で破片が大分飛ばされちゃってるだろうからな」
「あっ、はい! いでよっ、ホムンクルスッ!」
『キイイィィッ!』
「シーカーさんっ、この鎧の欠片を集めてきてっ」
『キィッ』
アイシャの落としたフラスコから煙とともに翼の生えた大きな眼球が現れると、彼女の指示を受けて鎧の破片を探し始めた。俺の考えが確かならば、これで全て良い方向へ行くはず……。
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