44.盛り上がり
ランク:B
依頼者:匿名希望
期限:無期限
報酬:自分
依頼内容:
町の北部、郊外にある見晴らしのいい丘で私は挑戦者を待っている。誰でもいいので私と勝負していただきたい。強くなりすぎてしまった私を誰か倒してほしい。もし私に勝てたならば自分をプレゼントしよう。奴隷にでもなんにでもなろう。私は自分を倒す者が現れる日が来ることを心の底から切望している……。
「ご覧になりましたでしょうか? ラフェル様方に、この依頼を是非受けてほしいのです……」
「「「「……」」」」
あれから、俺たちは受付嬢にとあるBランクの依頼を見せられることになった。最初はFランクだったそうだが、挑戦する冒険者があまりいないにもかかわらずBランクまで上がったのだそうだ。
というのも、挑戦した人間がいずれも自信を喪失して冒険者を辞める事態まで発展するため、母数が少ないのに難易度が極めて高いと判断された稀なケースなんだそうだ。
なおかつ、ギルド協会にしてみたら頼みの冒険者が次々と心を折って辞めてしまうというなんとも不気味で迷惑な依頼だという。それでも剥がさないのは、この受付嬢を含めて係員の鬱憤が相当に溜まっているので、今乗りに乗ってる俺たちにこうして頼み出たという格好らしい。
「どうか、この依頼者を叩き潰してください、お願いします!」
「「「「「お願いします!」」」」」
受付嬢と、その周りにいるギルド協会の係員らしき者たちから一斉に頭を下げられてお願いされてしまった。これで断れるやつが果たしているのかと。もちろん、断るつもりなんて毛頭ないわけだが……。
「よしわかった、やろう!」
「やりましょう!」
「やるぜえ!」
「漲ってきやがりましたよおぉっ!」
どうやらみんなも受ける気満々だったらしい。
「あ、ありがとうございますっ!」
「「「「「ワーッ!」」」」」
受付嬢が感激の余りか声を震わせた瞬間、地鳴りのような歓声が沸き起こった。正直酔いそうになるが、まだまだ、今から喜んでるようじゃやる前から勝負は決まってるようなもの。
おそらく敵は想像以上に強いし、何より今回の依頼人が一部の建物や武器、人々の心を折ってきた相手であることはもう疑いの余地がない。
それに、勝つだけで終わるつもりもない。俺のメインはあくまで治療だし、これだけの病的なパワー、俺の回復術で飼い馴らすが如く大人しくしてみせるつもりだ……。
◇◇◇
「「「「……」」」」
フェリオンのギルド協会にて、回復術師のラフェルとその連れの者たちの人気振りを目の当たりにして呆然とするクラークたち。
彼らは甲冑姿の人物に挑んだものの返り討ちにされ、仕方なくほかの依頼を受けようとここに戻ってきたばかりであった。
「ラ、ラフェルのやつ、こんなところにいたのかよ……!」
「てか、メンバーが増えてる……って、あの子、例の受付嬢の子じゃない!?」
「うわ……間違いないですね、あれは……聞こえてくる周りの声から察するにジェシカっていう名前らしいです」
「ふーん、あんなじゃじゃ馬まで手懐けるなんてやるもんだねえ」
「「「「「ワーッ!」」」」」
何かの依頼を受けたということで、ラフェルたちを中心にしてさらに盛り上がる協会内の様子に、クラークがふと我に返った様子で手を叩いた。
「こ、こうしちゃいられねえ。おめーら、屈辱的なのはわかるがよ、ラフェルに直接ギルドに戻ってきてくれって頼むしかねえぜ!」
「ちょっ……それは別に構わないんだけどさ、同じ回復術師のあたいはどうなるんだい……?」
「カタリナは、巨乳枠として残留決定だ!」
「あははっ、それなら安心だねえ……」
豊かな胸を撫で下ろすカタリナ。
「クラークさん、いつからそんな枠ができたんですかねえ?」
「ケイン、それはな、聞いて驚け……今さっきだ!」
「「わははっ!」」
「ちょっと、なんなのその無駄すぎる枠……最低。女の子なんてあたし一人いれば充分でしょ!」
「エアルはよお、なんか中途半端なんだよなあ。ケインもそう思うだろ?」
「確かに……」
「はあ!?」
「――ちょっと、ラフェルたちが出発したみたいだけど、追いかけなくていいのかい?」
「「「あっ!」」」
カタリナの声ではっとした顔になるクラークたちだったが、協会内は大勢の冒険者で賑わっていたために、彼らはしばらく立ち往生する羽目になるのであった……。
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