42.力持ち
「「「わははっ!」」」
「……」
悠然と大手を振って歩くクラークたち。彼らは気怠そうなカタリナを除き、いつになく上機嫌の様子であった。
「ありゃ、俺たちが受けられる依頼の中じゃ最高の依頼だな。あれならちょっとの労力でがっぽり金が入るぜっ!」
「まさか、Cランクであんなに良さげな依頼が見つかるなんて……最近は最低なことしかなかったけど、今夜は久々にご馳走にありつけそうねっ!」
「フェリオンの特産物は最高に美味しいらしいですから楽しみですねえ」
「んー、でもさあ……早い者勝ちみたいな依頼だし、もっと急いだほうがいいんじゃないかい?」
「「「あっ……!」」」
カタリナの冷静な発言を境に急ぎ足になる【聖なる息吹】ギルドの面々。その甲斐あって、予定より早く目的地の屋敷前まで辿り着くことができたのだった。
「――はぁ、はぁ……確かここだよな……?」
「ね、ねえ、あれじゃない?」
「あ、ありましたねっ!」
「わお、あれが例のやつなんだねえ……」
屋敷の入口の前には武器や盾を持たない騎士の銅像のようなものが横たわっており、クラークたちがしばし息を呑むほどに異様な空気を醸し出していた。
「クラークはバカみたいに力持ちだもんね。楽勝でしょ?」
「おう、エアル。俺はバカみたいに力持ちだぜ……って、バカはいらねえだろバカは! ふざけんなバカカスッ! 少しは気にしてんだからよ!」
「頑張ってください、クラークさん。それしか取り柄がないんですから」
「おう、ケイン。俺にはパワーしかねえんだ……って、それしか取り柄がねえって、おめえ、そんな言い方はねえだろうがゴミカスがよおっ!」
「わかったから早くしとくれよ」
「あっ……」
カタリナの呆れたような声で我に返った様子になるクラーク。横たわった騎士の銅像らしきものに向かってずかずかと歩み寄っていく。
「よーし、見てろよ。こんなもん、俺一人で持ち上げてやんぜえ……」
「クラーク頑張れー!」
「クラークさん頼りにしてますよー!」
「精々頑張りなあー」
「う、うぐぐっ……ち、畜生っ、なんで持ち上がらねえんだ。お、重すぎだろ、この野郎がよ……」
「「「……」」」
クラークが例のものを持ち上げる気配が一向にないので、応援していた三人の顔が徐々に沈んでいく。
「――お、重すぎんだろ。な、なんだこりゃ。おめーらも眺めてねえでとっとと手伝え!」
「「「はあ……」」」
その後、魔術師エアルの補助魔法の効果もあって四人がかりでようやく持ち上がったのだが、彼らはまもなく揃って神妙な顔でお互いを見合うことになる。
「い……今なんか聞こえなかったか? 寝息みたいなのがよ……」
「そ、そういや……」
「聞こえたような気がしますねえ」
「……あ、悪いね。それあたいかもしれない。ちょっとウトウトしちゃってたよ……」
「「「はあ……」」」
薄笑いを浮かべるカタリナの発言でクラークらは呆れ顔になるも、安心したのか再び歩き始めたのだが、そのせいで騎士の銅像らしきものが僅かに動くところを見逃す羽目になってしまった。
◇◇◇
「「「「……」」」」
目的地の屋敷へと歩く途中、俺たちの足がピタリと止まる。
「今、悲鳴が聞こえなかったか……?」
「そっ、そういえばあ……」
「俺も聞こえたぜ。まさかジェシカの仕業か!?」
「はあ!?」
「しかも俺たちが向かってる目的地のほうだ。何かあったのかもしれない。急ごう!」
「「「了解っ!」」」
あれから俺たちは急いで目的地らしき屋敷の前までやってきたわけだが、入口には何もなくて、その代わり地面には銅像があったことを示す痕跡だけはあった。なのでおそらくここで間違いないだろう。
これだけ形がくっきり残ってるってことは相当重いものだったんだとわかる。俺たちのほかに依頼を受けた誰かが運んでしまったんだろうか? 引き摺ったあとも周辺にはまったくないし、相当な力持ちなんだろうな……。
「――おおっ、もう運んでいただけましたか。ありがとうございます!」
「「「「あっ……」」」」
屋敷の中から、依頼人っぽい人が出てきて頭を下げられてしまった。別に俺たちは何もやってないんだが、やたらと歓迎ムードなもんだから今更そういうことを言えるような空気じゃなかった。
「どうぞ、報酬ついでにご馳走を用意しておりますんで!」
「わあっ!」
「ご馳走だっ!」
「わたくしが先ですわっ!」
「ちょっ……!」
瞳を輝かせたアイシャたちが屋敷の中に雪崩れ込んでしまった。特産品だけじゃ足りなかったらしい。まあいいか……。
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