39.出来過ぎ


「「「「……」」」」


 俺たちの視線が一気に茂みのほうに注ぎ込まれるわけだが、それから幻であるかのように一切の動きがなくなってしまった。


「妙だな……確かに動いたような気がしたんだが」


「う、動きましたよっ、私も見ました……!」


「俺も……ってか、ジェシカが悪戯したんだろ?」


「はあぁ? ルアン、その動機はなんですの動機はっ!」


「一度やらかしてるじゃねーか!」


「さ、さすがに何度もやるほどお転婆じゃありませんわ! ラ、ラフェル様、信じやがれ、ではなく信じてくださいまし……」


「……」


 確かに俺に怒られて間もないだけに、ジェシカがこの場面で悪戯を仕掛ける可能性は低いように思う。見たのは俺だけじゃないから気のせいってわけでもないし、あそこに何かがいるのは間違いないはず。よーし、ちょっと調べてみるか。


「アイシャ、茂みに何がいるのか調べてくれないか?」


「え、ええっ……!?」


「いや、アイシャが自ら行くんじゃなくて、ホムンクルスを使うんだよ」


「あっ……! ラフェルさん天才すぎましゅうっ……!」


「マジ、ラフェルすげーって……!」


「ラフェル様の知力には誰もがひれ伏しますわ……」


「ははっ……」


 みんな大袈裟だなあ。まあ俺はあくまでも普通の回復術師だと思ってるから、いくら煽てても無駄なんだけどな。


「ではっ、いでよっ、ホムンクルスッ……!」


 アイシャが意気揚々と鞄からフラスコを取り出すと、早速もくもくと煙が立ち込め始めて、そこから大きな影が姿を現わした。エスカディアの試験場でも見たゴーレムだ。これなら何が出てきても安心だな。


「ゴーレムさん、あの茂みを調べてくださいなっ!」


『ゴオオオォッ……』


 アイシャの言葉にゴーレムがうなずいて茂みへと歩み寄っていくと、両手で中を掻きわけるようにして調べ始めた。いよいよ正体が判明しそうだから楽しみだな……。


「――うわああああああぁぁぁっ!」


「「「「っ!?」」」」


 耳をつんざくような悲鳴が墓地中にこだましたかと思うと、茂みからが猛然と飛び出し、ゴーレムをバラバラにして墓石を破壊しながらどこかへと去っていった。な、なんだありゃ……?


 あそこに何かいて、ゴーレムの姿を見て驚いたのか逃げていったことは確実だが、煙がまだ残ってたのも災いして正体がまったくわからなかった。目に見えないスピードにしてもゴーレムや墓石をもろともしないパワーにしても化け物すぎる……。




 あれから俺たちはどこか釈然としない思いを抱えながらもギルド協会へと戻ったわけだが、受付嬢に例の依頼を達成したことを伝えると、とんでもない事実を聞かされることとなった。


「今回の依頼では、あの墓地を荒らした犯人を追い出すだけでなくということで、喜びの声が沢山届いております。本当にありがとうございました!」


「「「「えぇ……?」」」」


 俺たちは呆然とした顔を見合わせていた。やっつけていただいた……? あれかな、墓荒らしの犯人が茂みから飛び出して、あの勢いでどこかにぶつかって失神し、墓地の管理人が兵士に連絡して無事確保したってことなんだろうか。だとしたらなんとも都合よくいったもんだなあ。


「ということで、今回も特例によって冒険者様の【悠久の風】ギルドは、EランクからDランク昇格となります!」


「「「「おおっ……!」」」」


 またしても一度だけの攻略でワンランク昇格とは……。まさにトントン拍子ってやつだな。あまりにも上手くいきすぎだから若干怖さもあるが、この調子でガンガン上げていきたいもんだ。




 ◇◇◇




「だっ、出してくれっ……! 俺たちは墓荒らしなんかじゃねえっての……!」


 フェリオンの駐屯地にある牢獄にて、鉄格子を握りしめて血眼で叫ぶクラークだったが、手前にいる兵士は呆れたように首を横に振ってみせた。


「いい加減白状しろ。墓地がこれでもかと荒らされている現場でお前たちだけが倒れていたのだ。しかも、夜にお前たちが墓地に入るところを目撃したという者も複数いた。ここまで証拠が揃ってるのに言い逃れができると本気で思っているのか……?」


「だから、さっきから何度も言ってるだろうが! 俺たちはあそこで野宿してて、起きたらなんか茂みのほうで物音がしてさあ……んで、なんだなんだと思って注目してたら、変な物体が墓ごと破壊しながら猛スピードで俺たちに迫ってきて、それに巻き込まれる格好で気が付いたら倒れてただけだっての……!」


「はあ……よくも恥ずかしげもなくそんな見え透いた作り話を披露できるものだな。それではいくらなんでも都合よすぎだろう……」


「ぐっ、ぐぐっ……! このわからずやがのアホカスがよおっ! おっ、おめーらも黙ってねえでなんか言ってくれ――」


 完全にバカにしたような目線を兵士から送られ、クラークは歯軋りしつつ仲間たちのほうを見やるが、その表情は徐々に陰鬱なものに変わっていった。


「「「――くー、くー……」」」


 なんとも気持ちよさそうに大の字で眠っているエアル、ケイン、カタリナの様子に、兵士は薄笑いを浮かべながら溜息をこぼした。


「こんな冷たい牢獄の中でこんなにスヤスヤ寝てる連中なんて珍しいもんだぜ。あれだ……お前たちは正直こういう場所に慣れてるんだろう? 早くも答えが出ちゃったなあ」

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