24.因果応報
「――なあ、試験官、今の記録は?」
怨霊騎士を倒してからずっと試験官が黙ってるので、俺のほうから促してみる。
「……えっ、あっ……いっ、今の記録はっ……よ、よよよっ? よ……41秒おぉぉっ……!? ば、バカなあぁぁぁっ……!」
おおっ、41秒だったか。思ったより速かったな。よほど認めたくない事実だったのか試験官の悲鳴にも似た声が響き渡り、場を支配していた重い沈黙に穴が開いたかのように、どよめきがまたたく間に広がっていった。
一気に一位に躍り出たので気分は最高だが、まあ今回の場合は相手が不死属性のモンスターだったので幸運に助けられた部分も大きいんだろう。あくまでも俺は平凡な回復術師なんだしそこは勘違いしないようにしないと――
「――ラフェルさん、さすがでしゅうぅっ! ぎゅー!」
「さすがはラフェルだっ! 俺の旦那なだけあるぜっ!」
「ちょっ……! 二人とも苦しいって……!」
駆け寄ってきたアイシャとルアンに同時に抱き付かれて、俺は体が軋みつつも至福の一時を味わうわけだが、これで満足するわけにはいかない。まだここからがエスカディアの町の病巣を取り除く上で本当のスタートみたいなものだし気を引き締めないと。見回りとしていち早く結果を出せば、いずれは親衛隊への道も開けてくるはずだからな。
「……そ、そんなっ……ぼっ、僕が……この天才剣士の僕が回復術師なんかに負けるなんて……ぢっ、ぢぐじょう……」
剣士アルバートが放心した顔で両膝を落とすのが見える。がっくりと項垂れてる試験官もそうだが凄まじい落ち込みようだな。二人とも滅茶苦茶悔しかったらしい。
特にアルバートの場合、最後の最後で見回りになれる三枠から漏れたんだからさぞかし無念なのかもしれないが、試験中にああいうグレーな行為をしてたんだしこっちからしてみたら可哀想なんていう気持ちは欠片も湧かない。
しかも俺の出番まで奪おうとしてきたんだから、そんなやつに勝利の女神が微笑むとは到底思えない。これを機に真人間として更生してもらいたいもんだ……。
◇◇◇
「「「……」」」
回復術師ラフェルの叩き出した異常な記録――討伐時間41秒――を目の当たりにして、クラーク、ケイン、エアルの三人はしばらく呆然自失とした表情だったが、まもなく周囲がざわめき出したことで気まずそうにお互いの顔を見合うのだった。
「し……信じられねえ、なんなんだよラフェルの野郎、変態かよ……」
「ぼ……僕もです、クラークさん。むしろ僕たちのほうが変態のような気もしますが、夢なんでしょうかね、これは……」
「あ……あたしも夢だって思いたいよ。なんで……なんであいつが一位なの……」
「いやはや、あんたたちが逃した魚はとんでもない大きさだったってわけだねぇ……」
「「「うっ……」」」
カタリナのひんやりとした言葉を浴びて顔をしかめる三人。これ以上なく嫌な空気が流れる中、クラークがはっとした顔で手を叩いた。
「そ、そうだっ、確か回復術師はアンデッドにつええはずだし、たまたま上手くいっただけじゃねえのか……!?」
「そ、それですよ、クラークさん……! そういえば、ターンアンデッドっていう手法だと一発で倒せるそうですよ、それじゃないですかねえ!」
「な、なーんだ、運がよかっただけだったんだあ。ホッ……」
「んー……あたいの考えはあんたらとはまったく違うんだけれど……」
「「「えっ……?」」」
カタリナは真剣な表情で持論を述べるとこう続けた。
「確かにあたいらのような回復術師がああいう生ける屍を一発で倒せるのは周知の事実だと思うんだけどさ、それだと詠唱時間が最低でも1分はかかるし、その間一切動けなくなるから壁役がいることが前提なんだよ。しかもそれが決まる確率は高くて5%くらいだからねえ……あっ……!」
「「「えっ……?」」」
すっかり打ちのめされた表情のクラークらは、カタリナが自分たちを見ながら青い顔で後ずさりしている事実に気付くのが遅れてしまった。
「あの……大変申し訳ありませんがそこにおられる蛆虫様方、ここは関係者以外、立ち入り禁止でございますよ……?」
「「「あっ……」」」
彼らが恐る恐る振り返ると、すぐ側には鬼の形相をした受付嬢が立っていたのであった……。
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