18.引き上げ


 名前:アイシャ

 年齢:16

 性別:女

 ジョブ:錬金術師

 冒険者ランク:C

 所属ギルド:【正義の杖】

 ギルドランク:S


「し、Cランクになりまひた。嬉ひいでしゅううぅ……!」


 感動のあまりか、アイシャが自身のギルドカードを見て涙ぐんでる。この子の錬金術師としての高い能力から考えたらこれでも低いほうだと思うんだがな。


「おめでとう、アイシャ。よく頑張ったな」


「アイシャ、おめでとさん。俺も負けられねーぜ」


「あ、ありがとでふっ!」


 あれから俺たちは夕食後も二つ目のEランクの依頼を達成し、翌日の昼までにはDランクの依頼を四つ終わらせることで、アイシャの冒険者ランクを遂にCランクまで引き上げることに成功したのだ。これでようやく、ずっと気になっていたCランクの依頼をみんなで受けることが可能になる。


 ランク:C

 依頼者:ギルド協会

 期限:本日の夜八時まで

 報酬:銀貨5枚

 依頼内容:エスカディアの町において、【正義の杖】ギルドに在籍していながら同ギルドへの反逆を企てる逆賊が一定数確認されております。


 そこで不逞な輩どもを捕えるべく、見回りとなるための戦闘試験を期限日の夜八時から協会内にて執り行わせていただきます。なお今回の試験による合格枠は三つのみでございますが、【正義の杖】ギルドに在籍するCランク以上の冒険者の方々の参加を心よりお待ちしております。


 ※見回りでの成果次第では、【正義の杖】のギルドマスターを直々に護衛できる親衛隊になれる可能性もあります!


 探していた依頼の貼り紙が俺の目に留まる。これだこれ。報酬が美味しい上に期限が間近に迫ってたから急いでたんだ。何より俺たちは見回りになる必要が絶対にあって、そこで成果を出して【正義の杖】ギルドマスターの親衛隊になることで、エスカディアの町に蔓延る病巣の根源に最接近できる可能性があったからだ。


 S級の依頼を受け続けることで自分たちの力をアピールするっていう方法もあるが、こうしたギルドへの忠誠心を試すような依頼をこなしたほうが親衛隊になるには最も近道だと思う。


「アイシャ、ルアン、試験が始まる時間まではまだちょっと余裕あるし、飯でも食べながら作戦会議といくか」


「おー、それはいいですねっ!」


「うおー、飯だあぁっ!」


 今までみんなよく頑張ってくれたからな。リラックスすることも頑張ることと同じくらい重要だし、そこら辺の喫茶店にでも入るとしよう……。




 ◇◇◇




「「「――はっ……」」」


 クラークらが目覚めた場所は、エスカディアのギルド協会裏にある薄汚いゴミ捨て場であった。


「ち、ちっくしょう、受付嬢なんかにやられちまった……ってか、ギルド協会なのにほかのギルドお断りとかありえねえだろ……」


「ホントだよ。町全体を一つのギルドが支配するのはいいとしても、公正なはずの協会まで買収してるとか独裁にもほどがあるでしょ……っていうかあの受付嬢なんなの? 強すぎ……」


「気が付いたときにはやられてましたからねえ。僕もお手上げでした……」


 クラークの発言にエアルとケインが同調する。


「このままじゃやりきれねえし、あの受付嬢ともども【正義の杖】とかいうクソギルドをぶっ潰してやろうぜ。あと、逃げた巨乳お化けのカタリナの代わりにラフェルの野郎を呼び戻そう。やつは回復術に関してだけは役に立たねえわけでもねえし――」


「――あんたたち、ようやくお目覚めみたいだねえ」


「「「えっ……」」」


 そこに現れたのは、忽然と姿を消したはずのカタリナだった。


「カ、カタリナじゃねえか! おめー、どこに逃げてたんだよっ!」


「そ、そうよ、カタリナッ、あなたそれでもあたしたちの仲間なの!?」


「どういうことなのか説明してくださいよ、カタリナさん!」


「はあ……あんたたち、怒りのあまり頭がまったく回ってないんじゃないのかい……?」


「「「はあ……?」」」


「あたいまであの女にやられてたらさ、一体誰がボロボロのあんたたちを回復術で起こせたっていうのさ」


「「「あっ……」」」


 カタリナの発言でクラークたちが一瞬はっとした顔になるも、まだ納得がいかない様子でブツブツと何やら言い合っていた。


「まあ今回はあたいも悪かったわ。けれどもね、逃げたことで面白いことがわかったんだよ」


「「「面白いこと……?」」」


「あぁ、そうさ。逃げて無事だったからこそを手に入れることができたんだからさ、少しは感謝して頂戴」


 一様に呆然とした顔のクラークたちに対し、カタリナはさも意味ありげに薄笑いを浮かべてみせるのであった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る