16.名案
俺たちが次に受けたのはEランクの依頼だ。
それは、郊外に生えている特定の植物を100本集めてきてほしい、合計1000本集まり次第終了する、というもので報酬は銀貨1枚と銅貨5枚だ。
俺がSランクでルアンがAランクなのに、何故Eランクの依頼を受けるのかというと、Eランクのアイシャの冒険者ランクをCランクまで底上げするという目的があったからだ。これはCランクの依頼で気になるものがあって、それをみんなで受けるためでもあるんだ。
「――これが全部そうなのか?」
「ですねっ」
「すげー生えてる……」
だだっ広い荒野で目立っていたのは、既に枯れてしまってるかのように十字の形で横倒しになった灰色の草だった。
アイシャが言うにはこれは乾燥地帯によく見られる蘇生草というもので、水をかけるとまたたくまに青々とした姿になって立ち上がることからそう名付けられたという。栄養があるだけでなく味も良いことからポーションのほか料理の材料にもなるそうで、彼女は足りてるが定期的に欲しがる人は結構いるのだそうだ。
「うっ……?」
早速引き抜こうとしたんだが、全然抜けない。こりゃかなりの力がいるな――
「――それっ!」
「「あっ……!」」
俺とアイシャの上擦った声が被る。ルアンが軽々と引っこ抜いてしまったからだ。さすが一瞬に超威力を出せる拳聖。
「私も負けてませんよー!」
「「なっ……!」」
今度はルアンと俺の驚いた声が重なってしまった。アイシャが何か液体の入った試験管を取り出して蘇生草にかけると、またたくまに青々とした姿に変化していったんだ。それだけじゃなく、彼女は力感もなく次々と引き抜いていた。
「ほんの少しだけ塩が入った軟水を蘇生草にかけるだけで、こうしてあっさり引き抜けちゃうんですよ!」
「なるほど……」
「すげーな……」
塩分の濃度が高いといくら蘇生草なんて呼ばれてても本当に枯れてしまいそうだが、ほんの少しってところがポイントなんだろうな。恵みの水に対して植物が喜んだところでの塩だから、虚を衝かれる感じで緩むんだろう。
俺も回復術で全快させると見せかけて寸前で抑えるというやり方で刈り始めると、ルアンやアイシャほどあっさりじゃないが引き抜くことができた。よーし、この調子で頑張るとするか……。
◇◇◇
「――あ、いました。あそこにラフェルさんがいますよ……!」
エスカディアの町の郊外にて、索敵係のケインが声を上げたことがきっかけとなり、クラークたちは枯れ木に素早く身を隠した。
「あいつら三人でなんか刈ってるみたいだけどよ、もしかしてあれって植物採集の依頼なのか……?」
「なんか子供のお使いみたいなしょぼすぎる依頼よね。回復術師らしいっていえばそうだけど、あんなのに付き合わされるあの子たちが可哀想……」
「しかもですよ、連れの女のほうが刈り取るのが早いって、足手纏いにもほどがあるでしょう……」
「「「プププッ……」」」
クラーク、エアル、ケインが口を押さえて笑い合う。
「ん、その彼なんだけど、コツを掴んだみたいでもう普通に採取してるみたいだけれど……?」
「「「……」」」
カタリナの言う通り、ラフェルは連れの少女たちに負けじと植物を刈り取っているところだった。
「また変な回復術でイカサマ紛いのことをやったんだろうよ、クソが……って、そうだ、俺らもあの植物を刈り取ろうぜ!」
「「えっ……?」」
「あいつらがやってる以上、そういう依頼が実際にあんのは確実なんだからよ、前倒しで済ませりゃいいだけの話だろ! それに、こんだけいっぱい生えてるなら依頼主もそんなに沢山いらねえだろうし必ず限界が来る。つまり、俺たちが先に済ませたらあいつらが持っていっても報酬を貰えなくなるってわけよ!」
「「おおっ……」」
「しかもあの受付嬢によ、君に絡んでたラフェルに恥をかかせる目的で集めたって打ち明けりゃあ、惚れられてイイことできるかもしれねえぜ……?」
「ご、ごくりっ……クラークさん、それは実に名案です。楽しみですねえ……」
「ったく、クラークもケインもバッカじゃないの? あんな受付嬢なんかよりあたしでしょ!」
「……よく知らないけどさあ、あんたたち採取しなくていいのかい……?」
「「「あっ……!」」」
カタリナの冷めきった声によって、クラークたちは思い出したように猛然と植物の採取を始めるのであった……。
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