92話 理解
色んなことが解決しつつあるけど、難題はまだ残されている。
そのうちの一つがアルフレドの件だ。エオリアが真犯人だとわかっても、彼の顔には苛立ちが色濃く滲んでいた。
その理由はなんとなくわかる。大嫌いな僕に助けられてしまう格好になったからだ。この予想が当たってるなら、そろそろ会議室へと乗り込んでくるはず――
「――おい、ギルド長、いるか!?」
「いるよ」
やっぱり来た。僕の返事を待たずに、顔を真っ赤にしたアルフレドが入ってくるなり、テーブルをドンと叩いた。
「あんた……正気なのか? なんでチャンスを生かさなかった……?」
「チャンス?」
「しらばっくれるな! 俺を追い払う絶好のチャンスだっただろうが。真犯人がああだのこうだの、くだらねえことやりやがって……神様にでもなった気分なのか?」
「あはは……無実を証明してあげたのにあんまりだね」
「してあげた……? いらねえお世話だ。俺にとっちゃカイン、あんたがいる時点で居心地が最悪だからいつでもやめてよかったしな」
「……」
アルフレドがここまで僕のことを敵視するのは、相性が合わないっていうのもあるだろうし一番の要因はやっぱりあの件ぽいね。それに関しては譲るつもりは毛頭ないけど……。
「今だから教えてやるけど、あんたに対する嫌がらせで、A級の依頼をちまちま剥がしてたのも俺なのに」
「それについては薄々気が付いてたよ。そういう正直なところも頼もしい」
「はあ? あんた、どこまでお人よしなんだ? 見ててイライラすんだよっ!」
「……そりゃ、色んな人がいるんだから、アルフレドみたいに僕を嫌いな人だっているさ。それを好きに変えるのもいいけど、そうじゃなくてもその気持ちを理解し合えれば素敵なことなのかなって」
「……」
「僕はこういう人間が嫌いだ、俺はああいう人間が苦手だ……そういう気持ちで避け合うんじゃなくて、せめて理解し合えるような関係でいられたらなって思うんだけどね」
「はっ……そりゃ、あれか、人間観察みたいなもんか? 随分と高尚で嫌味な趣味だなぁ。ああ、そうさ、俺はお前が大嫌いだ、カイン」
「それなら僕もだ、アルフレド」
「「ははっ」」
お互いに笑い合う。とても乾いた感じの笑い方だけど。
「でも、カイン……あんたのほうが俺より大分大人だよ。ほんの少しは理解できた気がする。なんていうか……器用に見えるけど、実は意外と不器用なやつなんだな」
「うん、そうなんだ。僕は自分の気持ちを素直に表現できないことが多い。親に抑圧されていたから。顔色ばかり窺っていたから……だから、なるべく自由でいたいって思うのかな。そのために強くなりたい、色んな事を知りたいって――」
「――レインもそうだった」
「……」
「今思えばあいつもそういう性格だったな。俺はレインのことも大嫌いだったけど、尊敬はしていた。カイン、あんたのことも正直苦手だけどリスペクトさせてもらう」
「ありがとう、アルフレド」
「あと、気をつけろ」
「え……?」
「ほぼ間違いなく、前ギルド長様は次の手を打ってくる。レインにそうしたように、あんたを壊すための手段を取ってくる」
「……」
例の『破壊王』ってやつかな? その人を僕の元へ送り込んでくるんだろうか。確かレインってもその人に殺されちゃったんだよね……。
「あの人にとっては、みんなを守ろうとしているからこその行動だし、俺もその考えに同調していた。ほかの誰よりもな」
「そっか……」
「けど……なんか可哀想だなって。少しだけ思ったんだ、あんたのこと。あんだけ憎たらしかったのに、不思議だな。もうバレバレかもしれねえけど、俺さ、エリスのこと好きなんだ」
「……」
「あいつとは幼馴染で、昔から好きで好きで仕方なかった。ま、あちらさんは俺については幼い頃の顔見知りくらいしか思ってなかったみたいだけどな。ははっ……こいつ単純な野郎だなって思ったろ」
「い、いや。僕もそんなもんだよ」
「だから、エリスが好意を抱いてるカインが……あんたが消えてなくなればって俺はずっと思ってた。けど……そんな話を聞いちまったら、なんか……エリスが好きになるのもわかるなって。俺なんかよりずっと重いものを背負ってきてるっていうか」
「……」
「とにかくもう話は終わりだ。精々気ぃ付けてくれよ。あんたが死んだら、エリスが悲しむからな。できれば見たくないんだ、あいつの悲嘆に沈むような顔は……」
アルフレドは僕に背中を向けて右手を掲げたかと思うと、足早に立ち去っていった。
彼はならず者に見えるけど、根は凄くいい人なんだろう。きっとそういうので今まで利用されて苦しめられてきて、散々痛い目に遭ってきているからこそ、お人よしに見える僕を見て苛立っていたのかもしれない……。
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