88話 苦情と同情


「カイン様、おかえりなさいませっ」


「カイン、おかえりだぜっ!」


「あ、うん、エリス、セニア、ただいまっ――」


「「「「「――ギルド長様、おかえりなさいませー!」」」」」


「た、ただいま……」


 今日も時間に余裕があったこともあって冒険者ギルドの入り口から入ったわけなんだけど、エリスやセニアだけじゃなく、係員が一人を除いて総出で出迎えてくれた。


 なんだか気持ちいいなあ。まだしてくれないけど、それは今後の楽しみに取っておこう。さて、ペルゼン伯爵のサインが入った紙と引き換えに報酬を貰わないとね。


 名前:カイン

 レベル:58

 年齢:16歳

 種族:人間

 性別:男

 冒険者ランク:S級


 能力値:

 腕力SS

 敏捷A

 体力SS

 器用A

 運勢SS

 知性SSS


 装備:

 ルーズダガー

 ヴァリアントメイル

 怪力の腕輪

 クイーンサークレット

 活力の帯

 エンシェントロザリオ

 宝珠の杖

 聖書


 所持金:

 金貨843枚 銀貨1256枚 銅貨2239枚


 スキル:

【削除&復元】A

【鑑定士】A

【武闘家】A

【殺意の波動】B

【擦り抜け】B

【偽装】B

【瞬殺】C

【亜人化】C

【難攻不落】C

【混合】C

【維持】D

【進化】E

【分離】F

【二重攻撃】F


【精神世界】F

 効果:

 自身の半径2メートル以内にいる対象(自分を含める)を、精神世界に送り込むことができる。


 オフの状態で自他ともに現実世界に切り替えられるが、一度取り込んだ相手ならいつでもオンで精神世界に閉じ込めることが可能。そこでは一切のスキル、テクニックを使用することができず、使用者から10メートル以上離れることはできない。


 使用者が自身で精神世界を壊すと判断するか、あるいは強い精神力によって壊されることで効果は消失する。


【ストーンアロー】B

【ウィンドブレイド】B

【ファイヤーフィスト】E

【アイススマッシュ】E

【サンダースピアー】E


 テクニック:

《跳躍・大》

《盗み・大》

《裁縫・大》

《料理・大》


 ダストボックス:

 アルウ(亡霊)

 ファラン(亡霊)

 髑髏1956

 疲労6

 頭痛3

 眠気5

 重圧2

 緊張3


 ようやく目標の金額に届きそうなこともあって、僕は所持金も表示することにした。これでダンジョンで散った冒険者用の新たな墓地や、孤児院を建てる費用が集まった。


 両親に捨てられた僕自身もそうだったように、フィラルサの村で親を失ったルインやユリイ、それにアリスのような不幸な境遇の子を一人でも救うためになんとかしたかったんだ。


 あと、行き場を失くした髑髏たちも墓場なら安らかに眠ってくれるはず。これらは都内に既にあるものだけど、数が不足してるっていうしね。それに僕の場合、お金がなくなってもすぐに貯められる自信があるのも大きい。


「「「「「――いただきますっ!」」」」」」


 いやー、今日も食事が美味しい。これも、みんなが褒めてくれるからって食事係の人がはりきってくれるおかげだね。


「……」


 ん? なんか一人だけ様子がおかしいと思ったら、いつも点呼に応じてくれないあの男の人だった。スプーンを持った手が震えてる上に目が泳ぎっぱなしで、これじゃとてもじゃないけど食事どころじゃない。


 声をかけようかと思ったら、彼は夕食を半分以上も残したまま、フラフラとした足取りで退席してしまった。一体何があったっていうんだろう……。




「――ギルド長様、クレーム報告書が入ってきております」


 片眼鏡が特徴の受付嬢、エステルが会議室に入ってきた。主にクレームを担当している子で、愛想はよくないけどギルドじゃエリスと並んで優秀で、冒険者からの人気も高い子なんだ。


「あ、うん……って、えぇっ……!?」


 僕の座る奥の席に置かれたのは、とても分厚い書類の山だった。


「こ、これが全部クレーム……?」


「はい」


「……」


 こんなの今まで見たことがない。


「――こ、これは……」


 しかも、そのクレームは全部に対してのものだった。


 アルフレド……この係員はギルドの古参の一人で、仕事はそこそこできるけど勤務態度が悪く、僕に対して特に反抗的な人であり、前ギルド長にとても懐いていたことでも知られている。


 んで、今回彼に対してどういうクレームが入ってるかっていうと、なんとギルドの経費が入っている金庫から金を盗んだという衝撃的なものだ。それというのも、アルフレドは盗賊上がりで、《開錠》テクニックを持っている可能性が高いからというものだった。


 まあ確かにあの人は普段から態度が悪すぎるし、そういう経歴もあるから真っ先に疑われてもおかしくない。でも、だからといって犯人だと決めつけるのもよくないんじゃないかな。ちゃんと調べてから対処しないと――


「――ギルド長、話がある」


「あ……」


 こ、この声は聞き覚えがある。アルフレドのものだ……。


「どうぞ」


 僕が反応してすぐ、アルフレドが目を吊り上げて明らかに怒った様子で入ってくる。おそらく無実を訴え出るつもりなんだろうけど、僕だけは信じてあげないとね……。


「これを読んでくれ」


「えっ?」


「それじゃあ――」


「――ま、待ってよ、アルフレド!」


 アルフレドが僕に渡してきたのは辞表だった。


「なんで辞めるんだ……?」


「は……? なんで辞めるって、その苦情の山を見りゃわかるだろ。別に俺はやってねえけど、ただでさえギルド長が嫌いなあんただから居心地も悪いし、もう俺がやったことにしておいてくれ。それにカイン、あんたも俺みたいな害虫がいなくなってせいせいするだろ。んじゃ、達者でな――」


「――待ってくれ!」


「……はあ? まだ俺に用事があんのか……?」


「逃げるのか……?」


「……へ?」


「僕はこの辞表を断固として認めない。君がやったっていう確固たる証拠が出て来るまで、絶対に逃げさせない……!」


「……はっ。黙って聞いてりゃ、クソガキが偉そうに……」


「そうだよ、僕はクソガキだ」


「……」


「僕は君たちのような係員がいなければギルド長としては何もできないし、人間としても未熟だ。だからこれからも力を貸してほしいし、逃げさせない……」


「はあ……勝手にしろ、バーカ」


「……」


 アルフレドが呆れた様子で口元を引き攣らせて両手を広げながら出ていくと、エステルが眉をひそめながら近づいてきた。


「ギルド長様、あのようなならず者につきましては、この件に関係なく追い出したほうが賢明かと思われますが……?」


「いいんだ、エステル。僕に考えがあるから……」


 ここで折れるわけにはいかないんだ。アルフレドは確かにならず者なのかもしれないけど、最初から立派な人なんていないと思うし、少しは傷があったほうがわかりあえるような気がする。


 ギランやジェリックと違って、あの人はそこまで腐ってる人には見えない。だから、この難題をクリアして彼と仲良くなりたいっていうより、せめてお互いを理解し合える関係になりたいと思ってるんだ……。

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