11話 森の少女


 名前:カイン

 レベル:20

 年齢:16歳

 種族:人間

 性別:男

 冒険者ランク:B級


 装備:

 ルーズダガー

 ヴァリアントメイル

 怪力の腕輪


 スキル:

【削除&復元】

【鑑定士】

【ストーンアロー】

【武闘家】

【殺意の波動】


 テクニック:

《跳躍・小》

《盗み・小》


 ダストボックス:

 疲労15

 恐怖18

 眠気3

 空腹2

 頭痛10

 オーガの死骸


 凄い……レベルが14から一気に20まで上がってる。ダストボックスの中身を見てもわかるように、僕は改めてオーガがどれだけ強敵だったかを思い知らされた。


 そもそも、【削除&復元】で自分のものにした【殺意の波動】の効果が、自分の半径20メートル以内にいる者を全員麻痺させるものだって【鑑定士】スキルでわかったからね。恐ろしい効果だ。


 そんな格上のモンスターを倒した僕は、そのあと例の少女を連れて『鬼哭の森』の外へ脱出したんだけど、彼女を町まで送るつもりなんて毛頭なかった。これから森の奥へ行かなきゃいけないわけだしね。


「お、怒ってるの……?」


「そりゃそうだよ」


 彼女がまた危険な森の中に入るなんて、こっちはまったく想定してなかったからね。なんの反省もしてなかったってことだし、そりゃ頭にくる。


「ごめん……」


「謝って済むことじゃないよね」


「じゃあどうすればいいのよ! バカッ!」


「そっちこそバカだよ。なんで力もないのに森の中に入るんだ!?」


「そ、それは……あたしだってわからなくて……き、気が付いたらあそこにいたのよ!」


「はあ? ちゃんと正直に理由を話してくれよ!」


「そんなの知らないわよ――」


「――このわからずやっ……!」


「はうっ!」


 僕は彼女の煮え切らない態度に堪らず頬を張っていた。


「こんなことしたくなかったけど……僕の気持ちもわかってよ。君はもう少しで死ぬところだったんだ。もっと自分の命を大事にするべきだろ……」


「うぅ……ひっく……ごめん……」


「……理由を言いたくないならもういいよ。勝手にすればいい」


 泣き崩れる彼女を置いてその場を立ち去ろうとしたとき、僕は言いしれようのない違和感に襲われた。


 冷たい……。彼女の頬を張った手がとてもひんやりとしてるんだ。それだけ血の気が引いてたんじゃないかと思うも、何か違う。温もりみたいなものが一切感じられなかった。これはまさか……。


 名前:アルウ

 レベル:7

 年齢:16歳

 種族:幽霊

 性別:女

 冒険者ランク:D級


 装備:

 ペティナイフ

 レザーベスト


 スキル:

【商人】


 テクニック:

《料理・小》


「……」


 彼女の鑑定結果はあまりにも衝撃的なものだった。幽霊って……。


「ぐすっ……本当にわからないの。あたし、気が付いたらここにいて……。それ以前の記憶とかも曖昧で、依頼を受けてここに来たことくらいしかわからなくて……」


「そ、そうなんだね」


「うん……」


 僕はどうするべきなんだろうか。このアルウっていう少女はきっと森の中で恐ろしい死に方をして浮かばれずにいるんだ。それに対し、君は幽霊なんだって正直に話したほうがいいんだろうか? でも真実を伝えた場合、彼女は成仏するどころか恐ろしい体験を思い出して理性を失うかもしれない。それはあまりにも可哀想だ。


「ちょっと、聞いてる? まだ怒ってるの?」


「あ、いや、何かの病気かもね」


 嘘も方便ってことで僕は上手くはぐらかすことにした。


「病気……?」


「うん、夢遊病とかかもね」


「夢遊病、かぁ。ありそう……」


「だよね。あの枯れた花とかどんぐりとかもそれに効くかもしれないって思ったんじゃない?」


「じゃあ、それを集めに来て、途中で忘れちゃったのかもね! なんとなくイメージできたわ!」


「あはは……それじゃ、僕はそろそろ行くから」


「えっ……もう行っちゃうの? なんでよ!」


「なんでって、用事があるから……」


「本当はあたしのことなんてどうでもいいんでしょ!」


「そ、そんなこと誰も言ってないじゃないか!」


「「……」」


 気まずい空気が流れる。アルウが幽霊じゃなければ堪えきれずにもっと言ってたかもしれない。きっとそれだけ彼女は寂しいんだ。


「ごめん。何度も助けてくれたのに怒鳴っちゃって。でも、なんだか怖くて……」


「う、うん。というか、僕たちまだお互いの名前も知らないのに、喧嘩なんかしちゃって変だね」


「あっ……そ、そういえばそうだったわね。あたし、アルウっていうの。あなたは?」


「僕はカイン。よろしくね、アルウ」


「よろしく、カイン……ふわあ……あ、あれ、なんだか眠くなって……きちゃった……」


「……」


 アルウがあっという間に膝から崩れ落ちるようにして寝てしまった。彼女に僕が持ってる眠気を全部プレゼントしたんだ。また戻って来るからね。そう心の中で呟いて森の奥へ入っていく。


 彼女はもう死んでいるので死ぬ心配がない。とはいえ、後ろ髪を引かれる思いだった。苦しみのループの中にいることがわかったから……。

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