6話 最高級
冒険者ギルドで依頼の報酬――銀貨20枚――を受け取ったあと、僕が向かったのは馴染みのお肉屋さんだ。
元パーティーの荷物係だった僕が削除した肉をここで売り払ってたんだけど、それが新鮮なまま提供するからか凄く評判がいいみたいでいつも高めに買い取ってくれるんだ。
「リーネ、こんにちは!」
「おおうっ、カインどのではないか! こんにちはなのだっ!」
目を輝かせながら声をかけてきたのは、店主でドワーフ族のリーネだ。三つ編みの髪をしていて、幼女みたいに小さいけどこれでも成人で腕力が桁外れに強くて、横暴な客が理不尽なクレームをつけてきたときなんて片手で投げ飛ばしてたくらいだ。『今度来たら肉塊に変えてやるのだあっ!』って脅されてたからもう来ないだろうな、あの人……。
「――それじゃ、これでいいかな?」
「うむっ! 相変わらず質も量も最高なのだっ、さすがカインどの!」
「それはよかった! あと、これ……どうかな?」
「む……?」
リーネの前に差し出したのはゴブリンの死骸だ。この種族の肉は味がいいけど、特に内臓部分は空気に触れると腐りやすいって聞いたことがあるから解体せずそのまま持ってきたんだ。
「お、おおおっ……! これはゴブリンの肉ではないか! ううむ、いいぞ、いいっ。全てにおいてグレートなのだあ! うちの看板メニューになりそうだ……! よかったら、金貨10枚で譲ってもらえぬだろうか!?」
「うん、もちろん!」
金貨10枚って凄いや……。ゴブリンの肉が美味しいとは聞いてたけどこんなにするなんて。
「ありがたやっ!」
リーネがいつになく興奮した様子でゴブリンの死骸を氷漬けし始めた。彼女は腕力があるだけじゃなくて【魔術師】っていうスキルを持ってて、火風地水の属性を均等に扱える力を持ってるんだ。お肉屋さんにはうってつけだけど、それだけに留まるのはあまりにも惜しい才能だと思う。
「それじゃ、そろそろ行くね」
「カインどの……ま、また来てほしいのだっ!」
「うん、いいのが取れたらね」
「と、取れなくても来てくれないだろうか!?」
「ええ?」
「そ、そのっ、うちの料理を試食してもらいたいのだ……!」
「あ、うん。是非!」
「嬉しいのだ……」
リーネ、顔が真っ赤になってる。風邪でも引いたのかな? さて、周囲が暗くなってきたし閉まっちゃう前に次の店に向かわないとね。
「――あ、カイン君こんばんは~」
「ミュリア、こんばんはー」
僕は馴染みの武具屋に到着して早々、店の前で掃除していた兎耳の少女ミュリアに声をかけられた。あれは飾りじゃなくてれっきとした亜人の子らしくて、最近冒険者の間で流行ってる兎耳ブームの火付け役となった美少女だからファンも多いんだ。
「まだ店は開いてる?」
「そろそろ閉めようと思ってたけど大丈夫だよ~。お店の中に入ってね」
「うん!」
彼女は【鑑定眼】っていうスキルを持ってて、一見僕の持ってる【鑑定士】と同じに見えるけど実はまったく別物で、対象のクオリティを鑑定することができるものだ。たとえば人間とかモンスターだったらどれくらいの潜在能力があるのかを調べることができ、物であれば隠された効果とかを見つけ出すことができる。
「――兎の毛皮とゴブリンの棍棒、全部合わせて金貨5枚で買い取るね~」
「そ、そんなに?」
「カイン君が持ってくるものは傷とかなくて上質の物ばかりだから、サービスしちゃう」
「嬉しいなあ」
「ボクも嬉しいよ~」
ミュリアの笑顔を見てさらに嬉しくなる。【削除&復元】は荷物の中に突っ込むわけじゃなく、そのままの状態で仕舞えるから傷一つつく心配もないしね。
◆◆◆
「はぁ、はぁ……きちいぜ。誰か一人くらい手伝ってくれよ……」
都の商店街にて、ナセルをリーダーとするパーティーの後方で荷物を運ぶセニアの目は虚ろだった。
「おいセニア、もうちょっとで店に着くから頑張れよ! こんだけあるならいっぱい買い取ってくれるだろうし、その分報酬は弾むんだからよ!」
「そ、それなら頑張る、ぜ……ふぅ、ふぅ……」
パーティーが向かっているのは都で一番と目される肉屋で、そこにダンジョンで手に入れたモンスターの肉を売る予定であった。
「うふふ、今日も例の有名店でご馳走ね! 私、エクストラチーズケーキ楽しみー」
「うむっ……自分はだね、超ヴィンテージ赤ワインをご所望だ!」
「あたしはいつも通りマウンテンストロベリーチョコパフェにしますね!」
「俺は厳選仔牛のサーロインステーキだなっ!」
疲弊した様子の荷物係セニアを除き、取らぬ狸の皮算用で盛り上がるファリム、ロイス、ミミル、ナセルの四人だったが、肉屋に到着して早々、店主にダメ出しされて一様に青ざめることになる。
「――んー、見たところどれも状態が悪いのだ。全部で銀貨10枚ってところかのう……」
「そ、そんなわけあるかよ、おい! ダンジョンからすぐ戻ってきたってのによ!」
「そうよ! そうやって安く買いたたくつもりなんじゃないの!?」
「チッチッチ、自分らはその手には乗らないよ」
「そうですよ。ほかの肉屋に売ったっていいんですよ……?」
「それならそれで構わん。これを銀貨10枚で買い取るのはうちくらいなのだっ。他所の店じゃ銀貨5枚が精々だと思うぞ?」
「「「「……」」」」
ドワーフの店主の強気な態度を見て、ナセルたちの顔に焦りの色が浮かび始める。
「お、おい、なんでなんだよ。前はもっと高く買い取ってくれただろうが!」
「それは鮮度がとてもよかったからなのだ。カインどのがうちに持ってきたお肉はどれも劣化してなくて最高だったが、こんなものまで高く買い取るのは無理だ。そういえば今日、カインどのが一人でここにお肉を売りにきたが、なんで一緒じゃないのだ?」
「「「「……」」」」
「はあ……」
なんとも苦し気に顔を見合わせるナセルたちを見て、荷物係のセニアがすっかり呆れた表情で溜息をつくのだった……。
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