終わらない不幸の物語

渋谷かな

第1話 不幸1

「ハッピバースデー!」

 水月蒼は16才の誕生日を家族で祝っていた。

「おめでとう!」

「おにいちゃん! おめでとう!」

 蒼はお父さんとお母さん、妹から祝福される。

「蒼! おめでとう!」

 彼女の白月姫からも蒼は誕生日を祝ってもらう。

「ありがとう! みんな!」

 その日、蒼は幸せな気持ちでいっぱいだった。


「私の名前は魔王オボロ! この地球の全世界は私が頂いた! 邪魔する人間は皆殺しだ! ワッハッハー!」

 突如、現代に魔王が現れた。そして世界征服を企むというのだ。

「ああ!? 自由の女神が!?」

「エッフェル塔が!?」

「ビックベンが壊れる!?」

「万里の長城が崩れる!?」

 魔王軍は全世界に侵攻した。

「地球は私のものだ! ワッハッハー!」

 魔王は高らかに笑う。


「物騒ね。魔王ですって。」

「そんなもの要る訳ないよ。こんな平和な時代に。」

 水月家ではテレビを見ながら笑っていて幸せそうだった。

「ドッカン!」

 その時だった。巨大な爆発音がしたと思うと爆発した破片が飛び散り窓を破壊する。

「なんだ!? はあ!? 父さん!? 父さん!?」

 即死だった。蒼の父は割れた窓ガラスが突き刺さり一瞬でこの世を去った。

「キャアアアアアアー!」

 次に母親の悲鳴が聞こえてきた。

「母さん!? なんだ!? こいつらは!?」

 蒼の家に割れた窓から赤鬼や青鬼などのたくさんのモンスターが乱入してきた。

「ガオー!」

「キャアアアアアアー!」

 鬼は金棒を振り下ろし蒼の母親を殺し周囲に血が飛びまくる。

「母さん!?」

 もう蒼は何が起こっているのか分からない。

「助けて!? お兄ちゃん!?」

「澪!?」

 蒼が振り返ると妹は大きな化けガエルに丸呑みされた。

「ウワアアアアアー!?」

 目の前で妹が食べられた蒼は気が狂いそうだった。

「ガオー!」

 たくさんのモンスターや魔物が蒼に迫ってくる。

「やめろ!? 近づくな!?」

 恐怖に怯える蒼。

「ドカーン!」 

 その時だった。また大きな爆発が起こり、蒼の家は吹き飛ばされる。


「いててててっ!?」

 蒼は爆風で家の外に吹き飛ばされ難を逃れ命拾いした。

「そうだ!? 姫は!?」

 蒼のお隣に住んでいる彼女の姫を心配して、姫の家に向かう。

「姫!?」

 蒼は魔物に連れていかれる姫を目撃する。

「蒼! 助けて!」

 姫は必死に蒼に助けを求める。

(この娘はもらっていく。魔王様がご所望なのだ。)

 鎧を着た魔物が姫を担いで連れていく。

「ヒイイイイイ!?」

 蒼は恐怖に支配されて腰が抜けてしまい動くことができない。

「蒼!? 蒼!? 蒼ー!?」

 姫は蒼の名前を何度も何度も叫びながら連れ去られてしまう。

「姫・・・・・・。」

 無力な蒼は何もできなかった。

「なんなんだ・・・・・・なんなんだ・・・・・・なんなんだよ!?」

 蒼の世界は一瞬で変わる。幸せだった日々は過去になった。


「ドカーン!」

 蒼の住んでいた渋谷の街は炎に包まれ壊滅した。

「バカーン!」

 攻め込んできた魔王のモンスターと戦うために、自衛隊が出撃したのである。

「ドドドドドドドドド-!」

 戦車の砲撃、戦闘機の空爆。

「キャアアアアアアー!」

 渋谷で生きている人々に人権はなく、魔王軍殲滅のために無差別に殺されていった。


「なんなんだよ・・・・・・。」

 蒼は絶望の中、隣の原宿にたどり着いた。

(お兄ちゃん! アハハハハー! 早く! こっちこっち!)

 妹と一緒に来た原宿の思い出がよみがえる。

「澪!」

 欲しいぐらいに手を伸ばす蒼。

(いやああああー!?)

 直ぐに妹がカエルに丸呑みにされるシーンに書き換えられる。

「ウワアアアアア!?」

 頭が痛いくらいに発狂する蒼。

「お父さん・・・・・・お母さん・・・・・・澪・・・・・・。」

 そのまま蒼は気絶して道端で眠ってしまう。


「はあっ!? ここは!?」

 蒼は目を覚ました。

「大丈夫ですか? ここは渋谷難民用代々木キャンプですよ。」

 戦争は家族や家の無い人々を生み出した。

「うえええーん! お父さん! あ母さん!」

 難民キャンプには泣き叫ぶ子供たちや、負傷した人々で溢れていた。

「難民!? 俺が!? ふざけるなよ!? ここは日本だぞ!? 難民なんて、もっと貧しい国の話だろうが!?」

 自分の境遇を受け入れられない蒼は外に飛び出す。 

「街が燃えている!?」

 建物の外に出てみた蒼は南の渋谷の方向が赤く燃えているのを見つめ立ち尽くす。

「なんなんだ・・・・・・なんなんだ・・・・・・なんなんだよ!? 何が起こっているんだよ!?」

 自然に目から涙がこぼれ膝から崩れ落ちる蒼。

「もう何が何だか分からないよ・・・・・・。」

 蒼は現実に負けた。

「お父さん・・・・・・お母さん・・・・・・澪・・・・・・。」

 悲しみに浸る蒼は家族の名前を呼ぶことしかできなかった。

「ドッカン!」

 一瞬だった。難民キャンプに大きな岩の塊の魔物ゴーレムが現れ、一瞬で難民キャンプを踏み潰した。

「な、な、な!?」

 たまたま外に出ていた蒼はゴーレムのプレスに合わなくて良かった。建物から赤い搾りたての血が流れてくる。

「キャアアアアアアー! 魔王軍よ!」

 魔王軍が渋谷から原宿に北伐を開始したのだ。

「ガオー!」

 モンスターたちが人々を襲い始めた。

「嫌だ!? 死にたくない!? 死にたくない!? やめろ!?」

 蒼は誰も助けることなく全力で、その場から逃げ出した。


 世界は魔王に支配されていく。


 つづく。

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