異世界転移した少年は今日も頑張って生きています ~拝啓 父さん、今日も元気に過ごしていますか?~

自由人

第1話 プロローグ1

 2人の人物がテーブルのイスに座り、紙切れを挟んで向かい合っていた。


「もう私のところは書いてあるから、あとはあなたが書いて提出するなりなんなりしておいて。あと、親権はいらないから、あなたがあの子の面倒を見てね」


「もう、どうしようもないのか?」


 深刻な面持ちでそう聞き返す者に対して、女性はあっけらかんとした表情で言葉を返した。


「悪いけど、もうあなたのことを愛していないの」


 男性に対してそう告げた女性は席を立ち荷物を持つと、この場にはいない息子の部屋へと行く。


 その場に残された男性は頭を抱えており、思考の中身は今までの生活が走馬灯のように繰り返されていた。


 ところ変わって、息子の部屋へと到着した女性は、ノックもなしに部屋に入ると、そこで勉強をしていた息子の名を口にする。


泰次やすつぐ


 母親から呼ばれたことで泰次が振り返り視線を向けると、今から旅行にでも行きそうな荷物を持った母親を見てしまい訝しむ。


「母さん、荷物なんて持ってどうしたの?」


「私、誠さんと離婚することにしたから」


「……は?」


 唐突に母親から告げられた内容に理解が追いつかず泰次が唖然としていたら、母親はそれに構わず話を続けていく。


「他に好きな人ができて、もうお父さんを愛していないから離婚するの。私はその人と幸せになるわね。あなたのことはお父さんに任せてあるから、これからはお父さんと2人で暮らしなさい」


「意味がわからないんでけど……僕たち家族だよね?」


「離婚届が受理されるまではね。それ以降は家族じゃないのよ。だから街中で不意に見かけても話しかけてこないでね。迷惑だから」


「え…………めい……わく……」


「そうよ。私は好きな人と新しい生活を送っているのに、あなたが話しかけてきたら迷惑でしょう?」


「僕……母さんの息子じゃ……」


「だからよ。相手の人は私が人妻の子持ちだって知っているけど、自分の子じゃない子供なんて見たら、その人が気分を害するでしょう?」


 その後も淡々と告げられていく母親の言葉に、泰次は呆然としたままその言葉を聞き、耳には入っていくが理解ができず、気がつけば母親の姿はもうなかった。


「何で? え……え……?」


 堪らなくなった泰次が勉強そっちのけで父親のところへ向かう。


 そこには頭を抱えている父親の姿があり、泰次の足音に反応して顔を上げた父親の表情は、悲しみに包まれているのが目に見えてわかるほどだ。


 そして、泰次がことの次第を確かめると、テーブルに置かれている紙切れとともに、母親の話が間違いでないことを告げられてしまう。


「僕が勉強を始めるまでは普通に会話をしてたよね? 何でいきなり離婚とかになるの?」


「……すまない、泰次……お母さんの浮気はずっと前から繰り返しあったんだ。その都度話し合ったが、お父さんではお母さんの心を繋ぎとめておくことができなかった。不甲斐ない父親ですまない……」


「え……ずっと前から……繰り返し……?」


 父親から告げられた衝撃の事実に泰次は呆けてしまった。それも無理からぬこと。勉強をしていたところに母親からいきなり離婚すると伝えられ、父親の所へことの次第を確かめに来てみれば、その母親はずっと前から浮気を繰り返していたと言われてしまったのだ。


 泰次はもう何がなんだかわからない。泰次が幸せな家庭と思っていた家族の団欒は、既に破綻していたのだ。


「な……何で!? どうして!?」


「すまない……すまない泰次……」


 声を荒らげる泰次にただ謝ることしかできない父親の前には、“離婚届”と確かに書かれている紙が置いてある。


 泰次がそれに視線を移すと母親の名前が既に書いてあるのだが隣は空欄のままなので、そこに父親の名前を書くであろうことは、経験がなくとも何となく理解してしまう。


「意味がわからない……」


 茫然自失となった泰次が部屋に戻ろうと踵を返して歩き出すと、その背中に父親からの声が届く。


「明日からはお母さんの弁当はない。お金を置いておくから、それでお昼ご飯を買うんだよ」


 父親がそう言うも泰次は何を答えるでもなく無言のまま自室へと戻る。だが、勉強なんてする気にもなれなくてそのままベッドに身を投げ出すと、色々な思考が頭をよぎっていき、そのまま寝落ちしてしまうのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 翌日、ふと目が覚めると僕はぼーっとした頭で辺りを見回してみる。すると、時計が目に入ってその時間を見ていたら、登校する時間を遥かに過ぎていることに気づき、一気に頭が覚醒してガバッとベッドから跳ね起きる。


「ヤバい! 遅刻だ!」


 そのまま僕はバタバタと着替えては学校へ行く準備を済ませると、そのままリビングに向かい、起こしてくれなかった母さんに一言言おうとして口を開く。


「母さん、何で起こし――」


 だけど、リビングにはそこにいるはずの母さんの姿はなく、テーブルの上にはお金と置き手紙があるだけだった。


 そして僕はそのテーブルに近づき、置き手紙に視線を落とす。


 ――泰次へ


 学校に行くのが辛いならそのまま休んでも構わない。一応学校には体調不良ということで連絡をしてある。お昼ご飯はここに置いておくお金で好きな物を食べなさい。いいか? 好きな物を食べるんだぞ。遠慮はしなくていい。泰次が食べたいと思った物を食べるんだ。お寿司でもいいし、ピザでもいい。これが食べたいと思った物を食べるんだ。お父さんは仕事に出かけるが、帰りはなるべく早く帰るようにする。夜ご飯は久々に2人で外食をしよう。美味しい物を食べに行こうな。


「父さん……僕は母さんの手料理が食べたいよ……何で……何でこんなことに……」


 父さんからの置き手紙によって、僕は昨日のことが夢ではなく現実であったことを認識させられてしまった。


 その後の僕は結局のところ学校へ行く気にもなれず、初めてズル休みというものをしてしまう。かと言ってどこかに遊びに行こうとも思えず、ただ部屋でぼーっと過ごしては何でこんなことになってしまったのかと、そればかりが頭の中を支配していく。


 昨日の母さんとのことを思い出してみても、父さんに浮気をされるような悪いところなんてない。母さんは父さんが真面目でつまらないと言って、最初は誠実なところに惹かれたけど、段々とつまらなくなってきたのだと喋っていたからだ。


「何で浮気なんかするんだよ……家族のために働いている父さんの何が悪いんだよ……」


 ずっと同じことを考えていたからか、僕の思考は次第と浮気を繰り返していた母さんが悪いんだと、それだけで頭の中が占められていく。


 そして、それがどんどんと膨れ上がっていき、僕の中では父さんが被害者で母さんが悪者だという結論に至るのだった。


 その日以降、僕は段々と浮気を繰り返していた母さんが許せなくなり、本人がいないのでやり場のない怒りをうちに溜め込んでいくこととなる。


 そして夏のある日のこと、とうとうそれが爆発してしまうことになるのだった。


 その日はいつも通り学校に通い、時間が来たら下校していただけだったのだが、不運にも帰り道に同校の不良がたむろしているところに出くわしてしまう。


 僕は絡まれないように気をつけるため、不良たちと目が合わないように視線は足元に向けて、早歩きで前を通り過ぎる作戦に出た。


 だいたいこうしておけばビビってる僕を嘲って満足するはずだから。よく漫画とかに描いてあるこの作戦をとったのだ。


 だけど、不運というものは続くらしい。


「おい、ちょっと止まれや」


 最悪だ。漫画とは違う展開になり引き止められてしまった。


「な……何でしょうか?」


 さすがに僕以外の他の人がいないので僕に話しかけているとは思わずに、素知らぬ振りをして逃げてしまおうという作戦はとれない。


 だから仕方なく返事を返すことにしたのだが、どうやらこの人はお金が欲しい人みたいである。


「な? 持ってる金を貸してくれよ?」


「返してくれるのでしょうか?」


 今現在僕の持っているお金は、父さんが一生懸命になって働いて得た収入の一部だ。1円たりとて無駄にはできない。


「そのうち返すからよ」


「このお金は大事な物なので、そのうちでは貸せません。明確に返してくれる日付とあなたの名前と連絡先を教えてくれませんか?」


 ぼ、僕凄い……足がガクガクしているのに、ちゃんと要件を伝えられた。だけど、不良の人には効果がないらしい。


「あ? なに言ってくれちゃってるわけ?」


 あ、ヤバい……チラリと見てしまった襟章は1こ上の3年生を表しているピンだ。


「つぅかよー俺が貸せって言ってるんだから、素直に出しとけや」


「で、ですから、僕の持つお金は大事な物なので返す宛のない人には貸せません」


 その瞬間、僕の左腕に痛みが走った。そこを見てみれば不良の人に蹴られたようだ。痛い……


「マジうぜぇから、とりあえずボコってから金もらうわ」


 意味がわからない。というよりも、不良の頭の中では『お金を貸して』から『お金をもらう』に変わったようだ。理不尽この上ない。


 それから僕はその上級生に殴られたり蹴られたりしたけど、財布だけは渡さないように亀のようになって頑張った。


 だけど、不良がこの人だけじゃないことを失念していたから、僕は亀の状態からひっくり返されて押さえつけられてしまう。


 そして上着の内ポケットに入れていた財布を抜き取られてしまい、その中身を確認される。


「お、結構持ってんじゃねぇか。こいつは当たりだな」

「とりあえずガソリン入れるか?」

「余った分はパァーっと使おうぜ」


 ガソリン……? ああ、あそこにあるバイク? 原付って言うんだっけ? あれの燃料を入れる金がないのか。


「か……返せ……」


「誰が返すか、バーカ。お前の金は俺の金なんだよ。これからもちょくちょく借りに行くからな? ちゃんとたんまり親にもらっておけよ? もらえなかったらしれっと盗んででも用意しろ」


「無免許運転って学校にバラすぞ」


「あ? バラしたきゃバラせよ。そのかわりお前はボコボコにするけどな。金を持ってこなくてもボコボコだ」


 僕は何がなんでも父さんのお金を守るために不良に掴みかかって財布を奪おうとするが、中々に上手くいかず殴られてしまう。


「しつけぇな。お前はこれからも黙ってママから金をもらってこいや」


「それは父さんのお金だ。あんなクソアマの稼いだ金じゃない!」


「何だぁ? お前、自分の母親をクソアマ呼ばわりしてんのか?」


「他の男のところに行く母親なんかクソアマで充分だ! あんなやつは母親じゃない!」


「ハハハハハ! 聞いたかよ? こいつ、母親がよそに男作って捨てられてやがるぜ。どうせ父親がしょうもない男なんだろ? しょぼい男だったから別の男の方がマシだったんだよ」


 ゲラゲラと笑うその上級生が口にした言葉を聞いた僕は、何かがプツンとキレてしまった。そして僕は、子供の頃以来である久しぶりの喧嘩をすることになる。


「黙れ、不良が!」


 不良たちから父さんを馬鹿にされたことで、僕は溜まりに溜まった母親への怒りをその不良たちにぶつけていった。


 どれだけ殴られようとも蹴られようとも、僕は止まらずに上級生3人をがむしゃらになって殴っていく。


 殴って、殴って、時には蹴って。そして殴るのに疲れたら蹴りばかりを続けていき、殴る方よりも威力があることに気づくと、その後は倒れた上級生をどんどんと蹴っていく。


 立っている上級生たちが制止するような何かを言ってるけど、耳に入ってこない。僕が蹴っている上級生の動きがなくなったので、次の上級生に向かっていき同じようにしていく。


 そして気づけば上級生3人は、倒れたまま動かなくなった。そこでようやく僕は奪われた財布を取り返すと、腹いせに上級生たちの原付かどうかわからないけど、置いてある原付から鍵を抜いたら帰り道にある近くの小川に投げ捨ててやった。


 そのあと家に帰りついた僕は思いのほか気持ちが昂っていて、中々落ち着くことができない。だけど、何故かスッキリしたような気持ちを感じていた。


「クソアマに対するムカつく気持ちが、不良たちに八つ当たりできたからかな?」


 兎にも角にも汚れてしまった制服を洗うついでに僕はお風呂にそのまま入ったけど、シャワーがしみる……ボディソープなんて、更にしみる……


「くそっ……もっと蹴っておけばよかった」


 顔だけは痣とかになってしまうと父さんに心配をかけてしまうのでなんとか守ってたけど、手や腕とかの擦り傷やらがとにかくしみる。殴られたり、蹴られたりしたところはズキズキする。


 恐らくこの程度なら、体育の授業でコケたと言えば何とか誤魔化せる範囲だ。


 その日の夜に父さんが帰ってくると目ざとく怪我を発見されてしまい、用意していた作り話で納得してもらうことができた。


 そして翌日になり登校すると、何やら噂話があちこちで囁かれていた。


「昨日の夕方に3年生が病院に運ばれたんだってよ」

「ああ、それ知ってる。救急車が来て大事だったみたいだぜ」

「しかも警察まできて事件かと思ったら、原付の無免許運転をしてたらしいぞ」

「本人が病院送りになったのに、よく無免許運転ってわかったよな?」

「原付を乗り回していた時の目撃者がいたんだってさ」

「逮捕か?」

「未成年だから罰則はないんじゃないか? しかも義務教育中の14、5歳だぜ?」

「……お、ククってみたら初犯なら不処分か保護観察処分になる可能性が高いってよ。まぁ、あくまでも一般例だな」


 うん、ヤバい……思い当たる節があり過ぎる。まさか病院送りになるとは……まぁ、自業自得だな。人の金を巻き上げようとするのが悪い。僕悪くない。


 結局のところその日はその噂話で持ちきりとなり、あの不良たちは芸能人になったかのごとく、注目度がダントツになっていた。このまま黙っていれば僕がしたなんてバレないだろう。人の噂もなんとやらだ。


 だけどそれは、叶わぬ夢となってしまうのだった。1週間ほど経過して予想通りに噂話は下火となったのに、あろうことかあの不良たちがお礼参りとやらで、僕の帰り道に待ち伏せていたのだ。


「よお、よくもやってくれたな?」


「え? 何のことですか? 僕はあなたたちを知らないのですけど」


 僕と喧嘩した先輩のうち1人は松葉杖をついており、思いのほか酷い怪我をしていたみたいだ。そこまでした覚えはないんだけど……多分……


「てめぇのせいでこちとらお巡りの世話になって、親から退院後に殴られたんだよ」


「無免許運転なんてしてるから自業自得では?」


「しかも先輩からもらった愛車まで勝手に処分されてしまって、先輩に合わせる顔がねぇ」


「それも自業自得ですね」


「とにかく慰謝料払えや。新車が買えるくらいにな」


「お断りします。それならこちらは警察に行って被害届を出しますよ? 恐喝されたって。そうすればまた警察のお世話になりますね」


「この人数相手によく大口が叩けたもんだ。その根性だけは認めてやる」


 松葉杖先輩の周りにはこの前の先輩2人に加えて、更に追加で3人増えて計6人となっている。


「えっと……また病院送りにされたいのですか?」


 とりあえずこういう時はハッタリをかますしかないと思い、この前のことを口にしてみたら松葉杖先輩以外の2人はビクッと反応してくれたので、これはイケると手応えを感じた。


「あまり調子こいてんじゃねぇぞ」


 松葉杖先輩には効果がなかったみたいだ。それとも松葉杖をついているから、自分は対象外とでも思っているのだろうか。


「ここは穏便な対処法として、お互いになかったことにしましょう」


「っざけんな! お前らやっちまえ!」


 松葉杖先輩のその号令によってビクついていた先輩2人は動かなかったけど、助っ人で来ていた先輩3人が襲いかかっていた。


 それにより僕はまたしても殴られたり蹴られたりしたのだけれど、いい加減うんざりだ。あの女が出ていってからろくな事がない。


 父さんは明らかに元気がなくなるし、それでも僕に心配をかけないためか明るく振る舞っていて、それを見ていたらとても居た堪れない。


 更には今まで絡まれたこともなかったのに、ここにきて不良たちに絡まれてしまう。絶対にあの女が僕の運を盗んでいったに違いない。


「さっさと詫びを入れて、しょぼい父親から金を盗ってこいや」


 あ……こいつ、また言いやがった。頑張っている父さんを馬鹿にしやがって……


 その言葉を聞いた僕は反撃に打って出る。とりあえず周りで寄って集って暴行を加えてくる先輩たちをどうにかするため、1人の脚を掴むと思い切り上げてそのままもう片方の脚を払った。


 するとその人は、不意のことで上手く受け身を取れずに頭を地面で打ったようだ。その先輩が痛がっている間に、僕はもう1人の先輩の脚も払ってコケさせる。


 そこまでいくと立っている先輩は1人になるので、その先輩に今までの暴行分を数倍返しでお返ししていく。


 そして、ただコケさせただけの先輩が立ち上がりそうになったので、とりあえずお腹に思い切りトウキックを入れたら苦悶の表情を浮かべていた。それに対して僕は手応えを感じたので、この先輩はしばらく放置。


 それから頭を打った先輩にもトウキックをプレゼントして同じように苦しませると、さっきまで相手をしていた先輩の続きを再開する。


 その後、その先輩が動かなくなれば次の先輩へ。それが終わればまた次の先輩へ。そうこうしていたら残ったのはこの前の先輩3人組だった。


「お、おい、ヤベェって! あいつ、いかれてやがる」

「お礼参りなんかしなくていいだろ!」

「ざけんな! こんなやつにいいようにされてたら、先輩にシバかれちまうぞ!」


「ビクつき先輩2人が松葉杖先輩を見捨てて逃げるなら見逃すけど? 逃げないのならまた病院に行ってもらう」


「「ひっ!」」


 僕のハッタリが効いたのかビクつき先輩2人は、じわじわと松葉杖先輩から距離を取り始める。


「てめぇら、先輩からシバかれてもいいんだな!」


 どうやら3人の知る先輩とやらが怖いのか、ビクつき先輩たちは中々逃げることができないようだ。だけど、松葉杖先輩からの距離は充分に離れたので、僕は松葉杖先輩をお礼参り返しすることにした。


「松葉杖先輩、まさか自分は怪我人だから何もされないなんて思ってないよな? お礼参りをしにきたんだから、そのお返しのお礼をするのが礼儀ってもんだよな?」


「て、てめぇ! 俺に手を出したら先輩が黙っちゃいねぇぞ!」


「手を出して病院送りにしたのに、その先輩とやらがここにはいないけど? それとも、カツアゲしようとした後輩からボコボコにされましたって、報告できなかったからいないのかな?」


 僕がじわじわと距離を詰めていくと、松葉杖先輩はそれに比例してじわじわと距離を取っていく。


 そして松葉杖先輩が壁に行きあたってしまい、それ以上うしろに下がれなくなったところで、いよいよ持って松葉杖先輩の視線が他の2人に向かうと、その目で「助けろ!」と訴えるのだがビクつき先輩たちが動くことはなかった。


「覚悟はいいか? 松葉杖先輩」


 それから僕は松葉杖先輩をボコボコにして動かなくなったところで、お礼参りのお返しのお礼をやめるのだった。


 やっぱりこの前みたいに喧嘩をすると、幾分かあの女のせいで溜まったフラストレーションが解消されているみたいだ。


「ビクつき先輩」


「「ひっ!」」


「もう帰ってもいいよね? まさかまだ何か用事があったりする?」


「「ありません!」」


「それじゃあ帰るから、ゴミの片付けよろしく」


「「はい!」」


 ビクつき先輩たちにノビている先輩たちの後処理を押し付けたら、僕は昂った気持ちを抱えたままこの前みたいに家へと帰るのであった。

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