第四十話 星と太陽
「――そこに誰かいるのか? 俺たちは神殿を元に戻そうとしてるだけで、信徒に危害を加えるつもりはない!」
俺は大声でそう叫び、相手の態度に変化があるかどうか探るべくハスナとシルルのほうを見たが、いかにも残念そうに首を横に振られた。
ということは、相手はこっちの話を聞くつもりもないし戦う気満々ってことか。信徒たちが話も聞かないほど外部の人間に対して攻撃的になる理由がよくわからない。
まさか……いや、あいつらの可能性は低いはず。迷宮術士によってダンジョン化された神殿内ということもあり、勇者パーティーがどさくさに紛れて手負いの俺を殺そうとしているということも考えられるが、連中はそこまでバカじゃない。やはり信徒たちである可能性のほうが高そうだ。
「ハワード、どうするですか?」
「ハワードさん、やっちゃうー?」
「ハワード様、いかがいたしましょうか……」
「ああ……大体の目星はついたが、相手が誰だったとしてこうなったらもうやり合うしかない。もちろん、やり直しができる範囲でな」
「「「……」」」
無言だが、俺の後ろで三人がうなずいてくれてるのはなんとなくわかる。緊張してるのは俺だけじゃないんだ。モンスターがこの状況で出てきたらややこしいことになるし、さっさとこっちから出向いてやるか。
「今からそっちへ行かせてもらう! 何度も言うが、俺はハワードといってこの神殿を元に戻すために来た。お前たちの敵はモンスターであって俺たちではない!」
少し待ったものの応答はやはりなかった。仕方ない。気でも狂っているのか、何が彼らをここまで駆り立てているのかは知らないが、その闇を調べなくては……。
「――来たぞ、お前たちっ! やられる前にやるのだっ!」
「うおおおぉぉぉっ!」
「このクズどもめええぇぇっ!」
「決してただでは死なぬううぅっ!」
「――かっ……!」
「「「「はっ……?」」」」
襲ってきたのは、いずれも覆面姿をした四人の信徒らしき者たちだった。既に俺の心鎚のスタンのみの効果を受けて気絶してるが。起きてもしばらく目がチカチカして星が見えることだろう。
一体なんで彼らが俺たちを目の敵にしてくるのか……それを知るために起きるのを待っている猶予はない。神精錬で意識を鍛えてさらに興奮状態を折って、それから話を聞くとしよう……。
◆ ◆ ◆
「うふふ……シューラークさん、やっぱりここが一番落ち着きますねえ」
神殿の最奥にある至聖所、教皇ユミルが枢機卿シュラークとともに立つが、教皇の無邪気な明るさとは対照的に枢機卿の顔色は酷く優れなかった。
「ユミル様、残念ながらここも危ないかと……」
「あらあら、どうしてなのでしょう? ダンジョン化したとはいえ、至聖所ならモンスターさんは出てこないとそう言ったではないですかあ……」
「それはモンスターに限っての話。相手が人間であれば話は別なのです」
「どっ、どういうことなのでしょう……?」
「なんでも、この神殿がダンジョン化したということで勇者パーティーが乗り込んできたらしく――」
「――あらっ……勇者パーティーといえばハワードさんというお方がいて、リヒルさんが彼のことを気に入っているみたいで、よく楽しそうに私にお話してくれましたよっ?」
「ユミル様……今はそれどころではありません。ハワードという者の徳の高さは自分も存じておりますが、彼は力を失ったことで追放され、それ以降勇者パーティーはただの欲深き集団となったと聞き及んでおります」
「あらあら……」
「さらに、勇者パーティーは迷宮術士の作ったダンジョンを攻略するためであれば手段を選ばないとか。教皇様をコアだと見て、躍起になって探している可能性さえあるのですよ……?」
「まあ、怖いっ……」
「ユミル様の明るいお顔を見ていると、とてもそんな風には思えませぬ……」
「うふふっ。私は至って楽観的なのです」
「それもよく存じております……。人類の太陽であらせられるユミル様のためなら、自分を含めて信徒たちはいつでも死ぬ覚悟です」
ひざまずいた枢機卿の重々しい言葉に、教皇は一切の濁りのない笑顔で応える。
「わぁ、とっても頼もしいです。なるべく死なないようにはしてほしいですけど、そのときはよろしくお願いしますねっ」
「はい……では、ここはほかの信徒たちに任せて逃げましょう」
「でも、どこに……?」
「それはもちろん、あの子がいるところです」
「え、ええっ!? でも、あの子は……」
教皇ユミルの色違いの瞳がこの上なく見開かれる。
「仕方ありません。どうせここもいずれは探し当てられるでしょう。そうなるとやはりあそこが一番安全ですので……」
「私にとっては暗くて怖くてどうにも苦手な場所ですけど、仕方ないですねえ。わかりました、行きましょうっ」
「ではご案内――うっ……? ごほっ、ごほっ……!」
「あらあら、シュラークさん、風邪ですか?」
「……何かが喉に引っ掛かったようです。では改めて参りましょう……」
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