第三九話 お見舞い


『『『『『グオオォォッ――』』』』』


「――かっ……!」


 俺が一喝とともに心鎚を発動させると、信徒姿の紛らわしい異形どもは現れた途端に叩き潰され、白い覆面や衣服ごと跡形もなく消えていった。


「うがっ、ハワードさすがですっ」


「ひぐっ、ハワードさん素敵なのー」


「本当に、ハワード様は惚れ惚れする技を持っておられる……」


「師匠直伝の技なんだけどな、これでもまだ未完成なんだ」


「「「えぇっ……!?」」」


 実際、ウェイザー師匠の心剣に比べると話にならないくらい未熟といっていいだろう。あれは予備動作を一切感じさせないほどスピーディーに、なおかつもっと大勢のモンスター相手に通用するものだからな……。


 俺の場合はスタン効果が付随するといってもまだ一呼吸置かなければならないから、ハスナやシルルが索敵役をしてくれなかったらこうはいかなかった。


 その上、シェリーが騎士団にいた頃に神殿で見回りを何度もしたことがあるらしく、死角のある通路前で左側を歩くべき等、前もって忠告してくれるから見知らぬ構造に足を取られる心配もなかったんだ。


「うが……ハワード、敵が複数いるです」


「くんくんっ……ハワードさん、不吉な臭いがするのお」


「ハワード様、道の途中の窪みに三名ほど隠れるスペースがあるゆえ、ご注意を」


「ああ、みんなありがとう」


『『『――グガアァァッ!』』』


 シェリーの言う通りモンスターが三匹隠れていて、やつらが飛び出してくる瞬間を見計らってハンマーをお見舞いしてやった。


 こういう感じで、俺は仲間たちの力を借りることでほとんど苦労せずにモンスターを撃破することができていた。一人だけでもやろうと思えばやれそうだが、それだとどうしてもいずれは限界が来るだろうからな。


「うがっ……」


「ん、ハスナ、どうした?」


「近くに敵がいる……と思ったですが、モンスターじゃなくて人間たちがいるです」


「ひぐっ……!? ホ、ホントだあ。ハスナさんの言う通り、モンスターの臭いが全然しないのー」


「人間か。神殿ならおそらく信徒たちだろうから助けないとな――」


「――行っちゃダメです、ハワード」


「え?」


「人間たちからを感じるです……」


「ひぐっ。なんだかとっても怖いのー……」


「「……」」


 俺はシェリーと驚いた顔を見合わせる。まさか、信徒じゃなくて俺がよく知ってるじゃないだろうな……。




 ◆ ◆ ◆




「う、うぅ……ゴホッ、ゴホォッ……」


「それでは女王様、どうかご自愛なさってください……」


 副女王リヒルが眠る寝台前にて、神妙な面持ちでひざまずく大臣。そこに使者がやってきて耳打ちで一報を受け取ると、彼はおもむろに立ち上がって顔を大雑把に手で覆いながら満面の笑みを浮かべてみせた。


(遂にハワードと勇者パーティーがユミルの神殿に入ったか……。今のところ何もかもが私の思い通りで怖いくらいだ。あとは勇者たちが漁夫の利によってコアもろともハワードを抹殺し、リヒルが勇者の子を宿して我が傀儡とするか、あるいは死んだとしてもあのルシェラとかいう女を影武者にして操るか……いずれにせよ、この国はもう私の手にあるも同然――)


「――あ、あのっ、大臣様っ」


「な、なんだっ、驚かせるな、この馬鹿者めがっ!」


 現れた主治医に対し、顔に大量の唾がかかるほど怒鳴りつける大臣。


「あ、あひっ……そ、それがそのっ……」


「なんだ、用事ならば早く言わんかっ!」


「あ、あのっ、なのですが……いつ貰えるのかと……」


「ん、ああその件か。あいわかった、ただちに手配させる」


「あっ、ありがたき幸せっ……!」


 大臣が指を鳴らすと、まもなく奥から黒い覆面姿の者たちが現れ、あっという間に主治医を取り囲んだ。


「え、え……? だ、大臣様、これは一体……?」


「もうお前なんぞ現世ではとっくに用済みだからな。あの世でお前が望むものをとくと味わうがよいぞ」


「ひ、ひいいぃぃっ! た、たたっ、助け――ぎぎっ……!?」


 主治医は酷く慌てた様子で逃げようとしたものの、覆面の者たちにすぐに捕まって羽交い絞めにされたのち、間髪入れず首を掻き切られて絶命した。

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