第20話

 純也君がいることに気付いた俺は、そのまま固まってしまった。美保は急に頭の動きが終わったのを疑問に思ったのか、俺に問いかけてくる。


「……どうしたの信護君。途中で止めちゃって。気持ちいいから、もっとしてほしいんだけど……」


「い、いや。そ、その……」


「……なにやってんだよ。姉ちゃん」


 俺がどう説明しようかと悩んでいると、純也君が美保に声をかけた。それによって美保はようやく、純也君の存在に気付く。


「え?じゅ、純也君!?こ、これは、その……」


 純也君に指摘された美保は慌てて弁明しようとしたが、自分の頭に俺の手がのっているのでどうしようもなかったのだろう。美保からそれ以上言葉が出てこない。


「なんだよ……。なんなんだよ……」


「あー……。じゅ、純也君?」


「あっ……」


 俺が純也君に声をかけて美保の頭から手を離すと、美保から名残惜しそうな声が漏れた。そんな美保の声は、純也君にも届いてしまったようだ。


「っ!」


「ちょ、ちょっと純也!」


「……妃奈子」


 純也君はこの場から去ろうとしたが、妃奈子ちゃんの言葉を聞いて足を止める。振り向いた純也君の目は、涙で潤んでいた。


「どこ行くの?一緒に遊べばいいでしょ?」


「……お前も、そいつの方に行くんだろ?」


 妃奈子ちゃんの提案を聞いた純也君は、答えになっていない言葉を返した。純也君がそう言いながら鋭い目つきで見てきたのは、他でもない俺である。


「……お兄さんのこと、そいつっていうのはよくないと思う。年上だし、せっかく来てくれてるんだし」


 純也君の言葉に対して、妃奈子ちゃんが目つきを鋭くして俺を擁護してくれた。だが、それは純也君にとって逆効果だろう。


「……ほら。やっぱり、そうじゃないか……」


 純也君はそう言い残して、今度こそ去って行ってしまった。そんな純也君を、妃奈子ちゃんはまた引き留めようとする。


「純也!……もう。ごめんね、お兄さん。純也が……」


「い、いや、仕方ないよ。これは。俺のせいでもあるし……」


「ううん。そんなことない。お兄さん、優しいし。そ、それに、カッコいいのに……」


 妃奈子ちゃんの謝罪を聞いた俺は、純也君が去っていった方を見ながらそう返した。すると妃奈子ちゃんは、俺の言ったことを否定して、俺を褒めてくれる。


 だが、純也君のあの態度は、間違いなく俺に原因がある。純也君との仲は、こじれてばかりだ。


「じゅ、純也君、一体どうしたんだろう……」


 純也君と俺の仲がこじれ続ける原因の美保は、純也君の気持ちを全く察していないようだ。これはもう、鈍感と言わざるを得ないのではないか。


「お外に遊びに行ったのかも!まるも行きたい!お姉ちゃんも行こ~!」


「え?う、うん。そうだね」


「じゃあ、パパとママはここで待ってるよ。それでいいか?美保」


 まるちゃんが妃奈子ちゃんと外に遊びに行くと言ったので、俺は美保とここで待つことを提案した。美保と2人で話したいこともあったからだ。


「うん。いいよ」


 美保も俺の提案に頷いて、賛同してくれる。まるちゃんと妃奈子ちゃんもまた、頷いてくれた。


「分かった~!行ってきまーす!」


「まるちゃんの事は任せて。い、行ってきます……!」


「おう。行ってらっしゃい」


「うん。行ってらっしゃい」


 手を振って外に行くことを告げたまるちゃんと妃奈子ちゃんに、俺と美保は同時にそう返した。そして俺と美保は、まるちゃんと妃奈子ちゃんの2人を見送ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る