第10話
「ち、違――!」
「そ、そうだったんだ……。なんでそんなに気付かなんだろうって思ってたけど、そういう事、だったんだね……」
美保が誤解したことに気付いた俺は、すぐにそれを正そうとした。だが、それを言い切る前に、美保がそう言ってくる。
「いや違う!桜蘭とは、美保が思ってるような関係じゃない!」
美保に誤解させたままではいけないと思った俺は、美保にそう訴えかける。だが美保には、俺の声が届いていないようで、ブツブツと何かを呟いている。
「そっか……。桜蘭君と、付き合ってたんだ……。でも、彼女はいないって言ってたのに……。あっ、そっか。確かに桜蘭君なら、恋人であっても彼女じゃないや……」
「み、美保!お、落ち着けって!」
このままでは美保に話を聞いてもらえないと思った俺は、美保の肩を掴んで語りかける。するとやっと、美保が俺の方を向いてくれた。
「し、信護、君……?」
「ああ。いいか美保。俺と桜蘭は、付き合ってないから」
「え、で、でも、坂本君が……」
美保はチラリと坂本の方を見ながら、俺にそう言ってくる。坂本は目を見開いて、俺と美保を見ていた。
「坂本君が勘違いしてるんだよ。多分、桜蘭を女の子だと思ったんだろ」
「……え?お、女の子じゃ、ないのかい?」
俺が美保に告げた言葉に驚いたのは、美保ではなく坂本であった。そんな坂本の反応を見た桜蘭が、苦笑いを浮かべながら坂本に説明する。
「あ、あはは……。僕、男、です」
「じ、じゃあ、そのプリクラは……?」
「これは、話の流れで……。ポーズは、カップルモードを選択してしまったからだ。それにほら、書いてあるだろ。ズッ友って」
俺は美保の肩から手を離し、坂本にプリクラを見せる。そのプリクラを見た坂本は、一応納得したようだ。
「ほ、本当だ……。つまり、恋人じゃないのか……。ご、ごめん森君。こんな勘違いをして……」
「う、ううん。よくあることだから。信護君とカップルに間違えられるのも、今日何回あったか分かんないぐらいだよ」
坂本の謝罪に、桜蘭がそう答えた。実際、桜蘭の言っていることに間違いはない。今日も何度も、間違えられた。
「じ、じゃあ、私も勘違い……?」
「ああ。そうだ」
美保もようやく、自分が誤解していたことに気付いてくれた。俺がそう言いながら頷くと、美保の頬が少しずつ赤くなっていく。
「ご、ごめん信護君!ほんと……!」
「い、いや。誤解が解けたなら、よかった」
美保は赤くなっていく顔を隠すように、顔を下に向けていく。俺がそんな美保にどう言葉をかけていいか分からずにしていると、坂本が声をかけてきた。
「じ、じゃあ、誤解も解けたから、言ってたように別れようか」
「う、うん。そうだね。じゃあ行こっ、信護君」
そんな坂本の言葉にすぐに頷いた桜蘭は、俺の手を掴んで引っ張っていく。俺は桜蘭に手を引かれながら、美保に手を振って別れを告げる。
「ま、またな。美保」
「え、あ、うん……。ま、またね。信護君」
美保も俺の方を向いて、別れの言葉を言ってくれた。詳しい説明をしたり聞いたりは、次に療心学園に行った時にでも話したらいいだろう。
俺はそう思いながら、桜蘭に手を引かれてプリクラコーナーから去っていった。
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