第79話
それは、二人とも驚くだろう。だが、ここで説明するには話が長くなりすぎる。
なぜなら、ここは玄関なのだ。そんなに長居できるような場所ではない。
「あー……。その、まずは美保。言った通り、俺の父さんだ。父さん。美保は俺のクラスメートだよ」
俺はそう、簡潔に説明する。すると、今度は父さんが美保に頭を下げた。
「そうか。息子が世話になっております」
「い、いえそんな……!私の方が助けてもらってますし……!あ、私は斎藤美保といいます」
父さんがそう言うと、美保は首を横に振りながら否定した。すると、父さんは顔を上げる。
「斎藤、美保?君が……?」
父さんはそう小さく呟いて、美保を少しの間眺めていた。なぜ、父さんが美保を知っているのか。
だが、俺のその疑問が口からでることはなかった。父さんがその後首を少し横に振り、俺の方を向いて話しかけてきたからだ。
「……それで信護。パパにママとは?」
「あ、ああ。まるちゃんがそう呼びだしたんだ。別に、俺と美保が付き合ってるわけじゃないから」
毎度毎度誤解を生んでいるので、今回は先に事実を言っておいた。俺の言葉を聞いた父さんはピクリと眉を動かしたが、すぐに元の表情に戻る。
「そうか。まるちゃんが……」
父さんはそう言って、まるちゃんの方を見た。父さんに見れたまるちゃんは、キョトンと首を傾げる。
「それで、父さんがまるちゃんに聞きたいことって?」
俺はそう父さんに尋ねながら、抱っこを止めてまるちゃんを立たせる。その方が父さんが質問しやすく、まるちゃんも答えやすいと思ったからだ。
なぜ父さんが、美保のことを知っているのかは気になるところではある。だが、それは後回しだ。
「ああ。まるちゃん。パパの苗字、言えるかい?」
「みょうじ?何それー?」
「そうだな……。名前の前につく名前か、上の名前か……」
「あー!それなら、おだ、だよ!」
苗字の説明に苦労していた父さんだったが、まるちゃんはそれで分かったようだ。パパの苗字を聞かれたまるちゃんは、俺の苗字を答える。
「いや。そっちじゃなくて、本当のパパの苗字を――」
父さんがそう言いかけた時、長井さんが動いた。まるちゃんを抱きしめたのだ。
「……なんのつもりですか?」
「……捜査に必要なんです。こちらとしても、心は痛みますが……」
「止めてください。まるちゃんが悲しむでしょう」
「……まるを捨てた人なんて、知らないっ!」
長井さんに抱き着かれながら、まるちゃんはそう言って父さんから視線を逸らした。俺としても、まるちゃんを悲しませるのはいただけない。
「父さん。それは、本当に捜査に必要なのか?」
「ああ。必要だ。そうだな……。聞き方を変えるか。まるちゃん。君の苗字は何だい?」
父さんは聞く内容を変えて、なぜかまるちゃんの苗字を尋ねた。ますます、父さんが何を知りたいのかが分からない。
本当にこんなことが、捜査に必要なのだろうか。失礼だとは思うが、信じられなくて疑ってしまう。
「まるのみょうじ?それなら、いまみず、だよ!」
「……え?」
まるちゃんの苗字を聞いた長井さんが、小さくそう呟いた。そんな長井さんの顔は、信じられないことを聞いたような表情をしていた。
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