第78話


「ん?信護?なぜここにいる?」


 俺が驚きながら父さんと言うと、父さんは少し目を見開いた。父さんも、俺が療心学園にいるとは思っていなかったのだろう。


「い、いや、それはその……」


「あ!あの時の~!」


 俺が父さんに説明する前に、まるちゃんが父さんを見て顔を輝かせた。どうやら、父さんのことを覚えていたみたいだ。


「ああ。久しぶりだな。まるちゃん」


「久しぶり~!」


 まるちゃんは俺に抱っこされながら、父さんに手を振った。父さんはそんなまるちゃんに手を振り返してから、俺の方を見る。


「それで、なぜ信護がここに?それに、なぜ信護がまるちゃんを抱っこしている?」


「あー……。えっと……」


 俺は目線を逸らして、言いづらそうにする。実際、言いづらいことしかなくて、どう言えばいいか分からないのだ。


「……はあ。まあいい。今はそれより優先すべきことがあるからな」


 父さんはため息を吐いて、そう言ってくれた。優先すべきこととは、恐らくまるちゃんのことだろう。


 だが、父さんがまるちゃんへの用とは、一体何なのだろうか。全く想像ができない。


「あの、小田君のお父さんなんですか?」


「はい。それで、まるちゃんに尋ねても?」


「あ、はい。まるちゃん。お巡りさんがね、聞きたいことがあるんだって。答えてくれる?」


「うん!いいよ!」


 父さんが長井さんに確認をとる。療心学園の職員である長井さんに、了承を貰う必要があったからだろうか。


 その父さんの確認に頷いた長井さんは、まるちゃんに答えてくれるかどうかを問う。それにまるちゃんは、笑顔で頷いた。


「よし。では――」


「あれ?信護君、なんで玄関にいるの?」


 父さんがまるちゃんに質問しようとすると、後ろから声が聞こえてきた。その声の主は、2階で心南と話しているはずの美保だった。


「み、美保!?美保こそなんで――」


「あ!ママ~!」


「……ママ?」


 美保の声に気付いたまるちゃんが、ママと呼びかけた。それを聞いた父さんが、戸惑ったように首を傾げる。


「えっ?け、警察?なんで……」


「このお巡りさんね!まるを助けてくれたお巡りさんだよ!」


「あ、そ、そうなの?」


 まるちゃんが父さんのことを美保に説明する。美保はそれを聞いて、父さんに向かってペコリと頭を下げた。


「うん!それでね、パパのパパなんだよ!」


「……え?信護君の、お父さん?」


「……何?信護が、パパだと?」


 まるちゃんが笑顔を浮かべながら、続けて事実を言った。その事実に、美保と父さんは驚く。


 美保はこの警察官が俺の父さんであることに。そして父さんは、俺がパパと呼ばれたことに。

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