第73話

 手を洗い終えた俺たちは、そこで一度別れた。美保と心南は階段を上がって2階へ向かう。


 美保が言っていた通り、美保の部屋へ向かったのだろう。一方俺は、まるちゃんに長井さんと共に、1階に残った。


 1階に残った俺が何をしているかというと……。なぜか、多くの子供たちと共に、療心学園の中にあるグラウンドに出ていた。


 なぜこんなことになったのか?それは、まるちゃんと遊ぼうとしたら、他の子供たちが外で遊びたいと言ってきたのだ。


 それにまるちゃんも同調したので、俺もグラウンドに出ることになったのだ。……さっき、手を洗ったばかりなのに。


「パパ~!鬼ごっこしよ~!」


「お、おう。いいけど、誰が鬼をやるんだ?」


「お兄ちゃんだよ!」


「僕たちを捕まえてみてー!」


「10数えてからだからね!」


 そう言って、まるちゃんを含めた子供たちは走り去っていった。俺は一瞬、呆気にとられたが、すぐに10数え始める。


 このグラウンドは、そこまで大きくはない。相手は子供だし、すぐに捕まえることができるだろう。


 ……いや待て。そんなすぐに、捕まえまくってもいいものだろうか。相手は子供だし、俺が本気で行くと大人げない。


 ならば、どれぐらい手加減すればいいのだろうか。ずっと捕まえなくてもつまらないだろうし……。


 そんなことを考えている間に、10秒がすぐに経ってしまう。俺は取り合えず、小走りで走り出した。


「お兄ちゃん、遅ーい!」


「全員捕まえるまで、終われないよー!」


 そんなことを、離れている子供たちから言われる。全員捕まえなければいけないなら、少しづつ捕まえていくしかないか。


 そう考えた俺は、まずは一番近くにいた小学校ぐらいの女の子の元まで走り出した。といっても、もちろん全力じゃない。


 その女の子は俺が近づいてくるのを見て、笑いながら逃げ出した。俺はそんな女の子に少しずつスピードを上げて近づいていく。


 そして、少しだけ時間をかけてその子を捕まえる。するとその女の子の顔が、驚きに包まれた。


「……私、クラスで一番早いのに。お兄さん、足速いんだね」


「まあ、君たちよりは年上だしな。でも、君も速かったぞ」


 これはお世辞ではなく、本当のことだ。この少女の足の速さは、小学生の女子にしてはとても速かったと思う。


「そ、そう……?」


 俺の言葉を聞いたその少女は、頬を赤らめながら俺に聞いてくる。俺がそれに答えようとしたとき、後ろから声をかけられた。


「おい。お前」


 その声には、聞き覚えがあった。俺が振り返ると、そこには俺が思った通りの少年がいた。


「……純也君?」

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