第69話

 照花は何とか1位をキープして、勝へとバトンを渡した。勝もまた懸命に走り、トップのまま走り終える。


 走り終えた勝は、俺の元まで歩いてきた。そして息を整えてから俺に話しかけてくる。


「なんとか、1位で繋げたな……!」


「おう。お疲れ、勝」


 俺は勝に、労いの言葉をかけた。すると勝は、視線を走り終えた女子たちがいる方に向ける。


「美保のやつ、躓きかけたよな……。やっぱり……」


「……ああ。俺のせいだ」


「いや、信護のせいってわけじゃ――」


「俺のせいなんだよ。後で、謝らないと……」


 勝は俺のせいじゃないと言うが、俺はそれを否定した。間違いなく、俺に責任があることだからだ。


「ま、そう思うなら謝ればいいじゃね?多分、美保の方も謝ってくると思うが……」


「ん?なんでだよ?」


「すぐに分かるって。多分」


 勝は美保が謝ってくると言ってきたが、その理由がよく分からない。俺が悪いのだから、俺が謝らなければ。


「……にしても、見ろよ。まだ1位だぜ?」


 勝にそう言われてレースの方を見たら、確かにまだ赤組がトップを走っていた。走っている人は、もう3年生になっている。


 もうそろそろ、このレースも終わりが近づいてきているということだ。だが、まだまだどうなるか分からない。


「そうだな。まだ1位でゴールできるか分からないが……」


「そうなるように、応援しようぜ?」


「……ああ」


 俺たちがそう言い合っている間にも、レースはどんどんと進んで行く。まだ赤組は1位をキープしているものの、2位との差は僅差だ。


 青組も追い上げてきている。優勝争いは、この2組に絞られたのかもしれない。


「青組との、一騎打ちになったか?緑組と黄色組はもう厳しいかもな」


「そうだなぁ……。まだ分からないが、冷静に見たらそうなるか」


 勝とそう話していると、3年生の後半の方へと突入した。もう間もなく、勝者が決まる。


 今日やってきた競技、頑張ったもの全ての結果が、これで決まる。このレースで。


 そしてやっと、最後の走者へとバトンが繋がった。この時点での順位は、赤組、青組、緑組、黄色組である。


 アンカーの走者たちが、必死に走っている。俺たちはそんな走者たちに、必死に応援を送った。


 それはどの組でも同じで、会場は最高潮だ。そこら中から、声が響いている。応援の声が、会場を揺らす。


 ラストスパートに入り、会場は更に盛り上がった。赤組と青組の、デッドヒートだ。


 歓喜の声は、たった一つの組にしか起きない。その歓喜の声を上げるため、アンカーの人は懸命に走り、俺たちは応援の声を出す。


 そして、俺たちの目の前にあるゴールテープが、ついに切られた。その瞬間、俺たちは、歓喜の声を上げたのだった。

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