第68話
レースはどんどん進んで行き、2年生の中盤まで来た。もうすぐ俺たちの出番である。
俺と勝は屈伸するなどして、準備を進める。するとついに、俺の前の人がバトンを受け取って走り出した。
ちなみに、現在の順位だが……。トップは我らが赤組で、その後に青組、黄色組、緑組と続いている。
「信護!」
俺が並ぼうとすると、後ろから勝が名前を呼んできた。俺が振り向くと、勝がグッドサインを出している。
俺は頷いて、グッドサインを送り返した。そして、一列に並ぶ。
並び終えた俺は、美保の方を見た。そろそろ、美保へとバトンが繋がる。
1位でバトンを受け取った美保は、良いペースで走っていた。このままいけば、俺も1位を守るための走りになりそうだ。
だが、そう思ったその時。美保がカーブの所で躓きかけてしまった。幸いこけることはなかったが、青組に抜かされてしまう。
「っ!」
やはり、心南の事への不安を募らせてしまって、このレースに集中しきれていなかったのだろうか。そうだとするなら、俺のせいだ。
俺があの場で言わなければ、もう少し集中できていたのかもしれない。いや、そもそもバレてさえいなければ、俺がもっと気を付けていれば、美保が不安になることもなかったのに。
俺は責任を感じながら、美保がここに来るのを待つ。美保は何とか2位で、俺にバトンを渡してきた。
「ごめんっ!信護君!」
美保は謝りながら、俺にバトンを繋ぐ。俺はそれに、言いたいことが山ほど出てくる。
美保のせいじゃない。不安にさせてしまった俺が悪いんだ。美保が不安なことを、俺は理解できていない。謝りたいのは俺の方だ。
だが、その言葉の全てを伝えることは、この一瞬では出来ない。俺がこの瞬間で言えたのは、一言だけだった。
「大丈夫だ!」
俺はバトンを受け取った瞬間、その一言だけを告げる。そして、美保を置いて全速力で走り出した。
今俺ができることは、全速力で走って1位を取ること。それしか、できることはない。
前を走る青組の同級生に並ぶ。必ず抜く。何としても。
カーブを抜けた辺りで青組の同級生を抜いた俺は、照花めがけて走っていく。そして俺は、照花へとバトンを繋げた。
「信護君!ナイス!ありがとう!」
「行け!照花!」
バトンを渡す時、照花がそう言ってきた。俺はそんな照花の背中を押すように、そんな言葉をかける。
俺の言葉を背に、照花は勝に向かって走り出した。俺は何とか、1位でバトンを繋ぐことができた。
後は、この後の人たちに任せるだけだ。走り終えた俺は、息を整えながら走る照花とそれを待つ勝を、それぞれ見比べたのだった。
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