第62話

 午前の部が終わり、昼休憩の終わりごろ。俺は、クラブ対抗リレーに出るために会場へと向かっていた。


 このクラブ対抗リレーは、絶対に負けられないものだ。必ず、リベンジしてみせる。


 そんな強い思いを持って歩いていると、前に車椅子が見えた。あの車椅子に座っていて、綺麗な黒髪をたなびかせている人は、俺は一人しか知らない。


「生駒先輩……。なんでこんなところに?」


「激励に来たに決まっているだろう?小田後輩。君にとっての、リベンジマッチとなるのだからな」


 生駒先輩はまた、俺を応援しに来てくれたようだ。俺は頭を下げて、生駒先輩に礼を言う。


「ありがとうございます。頑張ってきます」


「ふむ。頑張ってくる、では物足りんな」


 俺の言葉を聞いた生駒先輩は、ニヤリと笑いながらそう言ってきた。俺は困惑しながら、生駒先輩の方を見る。


「頑張ってくるではなく、勝ってこい。負けないだろう?」


 生駒先輩が言ってくれたことに、俺は体を震わせる。生駒先輩は、俺が勝つことを疑っていない。


 それが、どれだけの力になるか。俺は今度こそ、生駒先輩の期待を裏切らない。


「……はい!勝ってきます!必ず!」


「ふっ……。それでいい。では、君が勝つところを待っているとしよう。さて……」


 生駒先輩はそう言って、この場から立ち去ろうとした。だが、すぐに車椅子を止めて、顔をだけを俺の方に向けてくる。


「期待しているよ。小田後輩」


「っ……!はい!」


 そう言い終えた生駒先輩は、今度こそ俺の前から去っていった。俺は息を大きく吸い込んで、吐く。


「……よし!」


 生駒先輩のおかげで、気合が更に入った。もう負けられない。負けるわけにはいかない。


 先程まではそう思っていたのだが、今はもう勝つことだけにしか目が行かない。プレッシャーはあるにはあるが、生駒先輩の言葉によって自信も出てきた。


 俺はそのまま歩いて行き、ついに会場に辿り着いた。ここが決戦の地だ。


『ではただいまより、クラブ対抗リレーを開始します。第一走者は、前に出てください』


 まずは、運動部の方から行われる。俺がそれを見ていると、勝が声をかけてきた。


「よう信護。お前は何走なんだ?」


「去年と同じだ。1走だよ」


「おお!奇遇だな!俺も1走だ!今回も、負けねえぜ?」


「いや、俺が勝つ」


 俺と勝がそう言い合っていると、運動部のクラブ対抗リレーが終了した。次は、俺たち文化部のクラブ対抗リレーだ。


『第1走者の人はこっちまで来てください』


「……だってよ」


「いこうぜ」


 俺と勝は口角を上げながら、そう言い合った。そして、呼ばれた場所まで並んで歩いていくのであった。

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