第48話


「ただいま~!あれ?お兄ちゃん帰ってるの?友達も一緒?」


「やばっ!市菜だ!」


 家に入ってきたのは、妹の市菜だった。遊びに行っていたはずだが、今日は早く帰ってきたようだ。


「もう話は終わったし、私たちは帰ったほうがよさそうかな?」


「そうだね~!市菜ちゃんも帰ってきちゃったし!」


「じゃあ、帰るか!今日はありがとな、信護!」


「おう。また学校でな」


 俺たちはそう言い合い、俺の部屋から出る。そして一階に降りると、市菜と鉢合わせた。


「あ、やっぱり先輩たちもいたんだ」


「ああ。もう帰るけどな」


「そうなの?ありがとうございました~!」


 市菜が美保たちに礼を言った。俺と遊んでくれたと思っているからだろう。


「おーう市菜ちゃん!またな!」


「バイバーイ!」


「お邪魔しました」


 勝、照花、美保の順に美保に言葉を返していった。俺たちはその流れのまま、玄関へと向かった。


「じゃあまたな、信護!体育祭、お互い頑張ろうぜ!」


「私たちも頑張るし、応援してるよ~!ね?美保ちゃん!」


「うん。一緒に頑張ろうね」


「……ああ。よろしくな」


 俺はそう、3人に返事をした。体育祭には複雑な思い出があるが、頑張るのは変わらない。


「またね~!信護君!」


「またね。信護君」


「ああ。またな。皆」


 3人と俺は別れを告げ合った。そして3人は、俺の家から去っていく。


 送っていこうかと思ったが、1人ではないし大丈夫だろう。そう考えた俺は、3人を見送った後、家の中に戻る。


「今日は何して遊んでたの?おにいちゃん」


 家の中に戻ると、市菜がそう話しかけてきた。勝や桜蘭たちとは違い、女子を家に入れるのは初めてだったので、市菜が気になったのだろう。


「いや。少し話していただけだ。そこまで遊んでねえよ」


「そうなの?珍しいね」


「まあな。それより、市菜は何して遊んでたんだ?帰ってくるの、随分早かったけど」


 俺は市菜にこれ以上追求されないように、話を逸らす。だが、逸らすための内容は、俺が気になっていることでもあった。


「あー……。私も、ちょっと話すことがあって、ね……」


「そうなのか?誰と?」


「慕丹ちゃんと、かな……。他にも人はいたんだけど……」


 慕丹というと、伊野宮のことか。一体、何を話していたのだろうか。


 だが、ここで話の内容を聞いてしまうと、俺の話のことも詳しく聞かれてしまうかもしれない。そう思った俺は、これ以上市菜に聞くのは止めておくことにした。


「そうか。じゃあ、そこまで遊んでないんだな?」


「え?う、うん。そうだね」


「じゃあ、今から遊ぶか。ゲームでもしようぜ」


 俺がそう提案すると、美保は一度驚いた顔をした。しかし、すぐに笑みを浮かべて頷いた。


「うん!じゃあ、タッグマッチでオンライン行こうよ!」


「いいな。無双してやろうぜ!」


 俺は美保とそう話して、すぐにゲームの準備に取り掛かる。市菜が言ったゲームは、キャラを操作してそれで戦うゲームだ。


 このゲームは相手を吹っ飛ばせるので、勝てれば爽快感がある。体育祭のことをまた思い出した俺にとって、その爽快感は求めるものだったのだ。


 この時の俺は知らなかった。無双など出来ずに、市菜と一緒に苦戦し続けることを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る