第41話
ゴールデンウィークが終わり、学校が再開した。とは言っても、明日にはもう日曜日なので、今日である土曜日の午前中だけ行けば、それでいい。
……だが、そうは言っても、連休の後たった1日のために学校に行くことが、どれだけきついか。どうせなら、全部休みにしてくれればいいのにと思う。
これが、土曜日も午前中だけ授業がある私立高校の嫌なところだろうか。それ以外は、不満など全くない。
「はあ……」
俺は自分の席に座りながら、ため息を吐いた。すでに全ての授業が終わっているが、多くの生徒がこの教室に残っている。
なぜなら、まだホームルームが残っているからだ。その時間までは、もう少しといったところだろうか。
「どうしたん?ため息なんか吐いて」
「いや、なんで1週間の内1日だけ来なきゃいけねえんだと思って……」
「アハハ!なにそれ!今更じゃん!」
「確かに、そうなんだけどさ……」
それでも、だるいものはだるいのだ。たとえ今、すでに授業が終わっていても。
「……そういや、今日は予定あるんだよな?」
「うん。家族の予定があって」
「じゃあ、今日の放課後は遊べないか。仕方ないな」
俺は高畑に今日遊べないことを確認する。遊べない高畑には申し訳ないが、俺もこの後用事がある。
今日はこの後、勝と羽木に話をするのだ。いずれ高畑にも話さないといけないのは分かっているが、それは美保が決めることであって俺が言えることじゃない。
「ま、気にせずに遊んできなよ」
「ああ。悪いな」
俺は高畑に謝罪する。遊びに行くこともそうだが、秘密にしていることも含めて、だ。
俺は高畑に向けていた視線を、チラリと美保の方に向ける。美保は俺の視線に気づかずに、せっせと片付けをしている。
今日は、美保のことを美保、と呼びそうになることが多々あった。美保も美保で、俺のことを信護君と呼びそうになっていたと思う。
だって美保、俺の名前を呼ぶときに、しん……まで出ていたのだ。あの時は本当に危なかった。
どうにかして、学校でも美保のことを名前で呼べないものだろうか。いちいち使い分けていたら、いつかボロが出そうなのだ。
だが、急に呼び始めたら不自然でしかないだろう。どうにか自然に、学校でも名前で呼べるようにしたい。
……駄目だ。何も思いつかない。というか、そんなすぐに思いつければすぐに美保に言って実践している。
美保も、何も思いついていないようだった。そのことは、これから話す勝と羽木に聞いた方がいいかもしれない。
いつからかは分からないが、恐らくある一定期間は隠してきているのだ。コツを聞くか、対処方を聞いてみたい。
「はい皆~!席についてね~!」
そんなことを考えていると、先生が来て俺たちに声をかけた。生徒たちは自分の席に戻り、先生の次の言葉を待つ。
「もうすぐ、体育祭がありまーす。メンバーとか決めていかなきゃいけないから、来週から決めていきましょうね。各自、考えておくように。去年もやってるし、大丈夫だとは思うけど」
そうか。体育祭か。
ウチの学校の体育祭は、高校生全員が参加するので、かなりの人数での体育祭になる。中高一貫の高校生に、高校から入学した組も入り混じっての、大きなイベントだ。
体育祭があるなら、クラブでも確認しなければ。文化部ではあるが、クラブ対抗リレーには毎年出ているので、今年も出ることになるだろう。
部員全員で話さなければいけないので、次のクラブ活動日に召集がかかるだろう。恐らく、部長から。
だが今は、勝に羽木との話し合いのことが最優先だ。体育祭のことは、ひとまず後回しでいいだろう。
……それでも、脳裏にチラつくのは、部長の事。俺はそれを振り払うように少し首を振り、勝と羽木に話す美保のことに集中した。
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