第31話
お土産屋に入った俺たちであったが、まるちゃんはすぐにある商品に目を奪われた。その商品は、リス村にちなんで売っている、リスのぬいぐるみだ。
正直、リス村に行った後だから欲しがるだろうとは思っていた。だが、流石にこれを買うと即決するには早すぎるのではないか。
「……パパ!まる、このリス欲しい!」
まるちゃんはそう言いながら、棚から一つのリスのぬいぐるみを取って俺に差し出してきた。俺はやんわりと、もう少し考えないかと伝える。
「え、えっと、本当にそれでいいのか?他を見なくても……」
「いいの!このリスが欲しいの!」
「ま、まるちゃん?まだ、そこしか見てないし、もうちょっと見てから……」
「このリスがいいの!このリスじゃなきゃ嫌なのー!」
俺と美保が何度も確かめるが、まるちゃんは頑なにそう言った。そんなまるちゃんに、俺はため息を出す。
まるちゃんがそこまで言うなら仕方がないな。お金は大丈夫だし、買うことに抵抗は全くない。
俺が心配していたのは、そんなに即決して後悔しないだろうかというものだ。だが、まるちゃんがここまで言うのなら、そこまで心配しなくてもいいだろう。
「……分かった。このリス、買ってあげるよ」
「ほんと!?ありがとうパパ!」
「その代わり、もう少しお土産屋にいていいか?パパとママも買いたいから」
「うん!やったぁ!」
俺がまるちゃんにそう告げると、まるちゃんはリスのぬいぐるみを持ったまま、飛び上がって喜んだ。まるちゃんはそこまで、このリスのぬいぐるみが欲しかったのだと思う。
「美保も、何か欲しいものないか?せっかく来たんだし」
「そうだね……。強いて言えば、帰ってから皆で食べれるものが欲しいかな?」
「ならお菓子とかか。じゃあそっち行こうぜ。俺も何か買って帰るよ」
美保が買いたいと言ったものは、俺も家族へのお土産で買いたいものでもあった。皆で分けれるといえば、お菓子類が妥当なとこではないだろうか。
「うん。ごめんねまるちゃん。ぬいぐるみ買うの、もうちょっと待ってね」
「いいよ!パパとママも、買いたいもんね!」
まるちゃんも頷いてくれたので、俺たちはお菓子が置いてある方へと進む。そこまで行ってお菓子を見ていると、美保が急に物陰に隠れた。
「え?ど、どうした?美保?」
「し、信護君……!信護君もこっちに来て……!まるちゃんも……!」
美保は俺とまるちゃんも引っ張られ、美保の近くまで行く。そこは店の入り口から死角になっていて、少し顔を出すとこちらからは店の外を見ることができた。
なぜ急に隠れたのかと問おうとしたが、その前にある男子の集団が店の前を通った。年齢は、俺や美保と同じくらいか。
「せっかく来たし、岐阜城も行くかぁ!」
「そうだな。にしても残念だったな坂本。せっかく彼女出来たのに、デート出来ずか」
「仕方ないよ。これから少しずつ知っていきたいって言ってたし」
そんな話が聞こえてくるが、これ以上聞くことは出来なかった。その集団はそのまま、ロープウェイ乗り場に行ったからだ。
「い、行ったみたい……。危なかったぁ……」
「み、美保。さっきの、知り合いか?」
「あ、後で話すから……!今は、その……」
美保はまるちゃんをチラチラと見ながら、俺にそう言ってくる。まるちゃんがいると、話しづらいことなのだろうか。
そんな話、心当たりが……あったわ。恐らくあの中に、美保の彼氏がいたのだろう。
確かに彼氏の話は、まるちゃんの前ではできないだろう。まるちゃんは俺たちをパパ、ママと認識しているので、ママに彼氏がいるという話をするのはよくない。
「分かった。取り合えず、決まったもの買おうぜ。美保、決まったか?」
「う、うん。これにしようかなって」
美保がそう言って見せてきたのは、俺が買おうと思ったお菓子と同じだった。俺は棚から自分の分を取って、美保からもそれを受け取る。
「ちょ、ちょっと!なんで!?」
「え、いや、買ってやるよ。せっかくだし。ほら、まるちゃんも」
「うん!ありがとうパパ!」
俺がそう言うとまるちゃんも俺にリスのぬいぐるみを渡してくれる。俺はそれらを持って、会計に向かった。
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