第29話

 岐阜城を見終えた俺たちは、昼食を取りに展望レストランに来ていた。展望レストランは、岐阜城からロープウェイまで戻る道中にある。


 俺たちは、もうすでに席に座って注文を済ませていて、料理も届いている。ヒロ君たちとも、一緒に食べることになった。


 それほど、まるちゃんとヒロ君が仲良くなったからだ。詳しい経緯は知らないが、仲良くなれたのはとてもいいことだと思う。


 展望レストランというだけあって、窓からは岐阜市が一望できる。こんな景色を見ながら豪華な食事をとれるのは、本当に嬉しい。


 俺が注文したのは、飛騨牛を使ったハンバーグだ。せっかく来たのだから、豪華なものを食べようと思ったのだ。


「そのハンバーグ、美味しそうですね」


「いやいや、飛騨牛の焼肉丼も美味しそうじゃないですか」


 ヒロ君のお父さんがそう言ってきたので、俺はヒロ君のお父さんが注文したものを指差して言葉を返す。ヒロ君のお父さんが注文したのは焼肉丼で、飛騨牛が敷き詰められている。


 それだけの物なので多少値が張るのだが、そこはやはり社会人ということなのだろう。全く躊躇なくそれを選んでいた。


「パパ~!カレー、美味しいよー!ねえ?ヒロ君にママ!」


「うん!すっごく美味しい!」


「ふふっ。そうだね。とっても美味しいよ」


 まるちゃんとヒロ君はお子様カレーを食べており、美保はビーフカレーだ。3人とも、とても美味しそうに食べている。


「お、よかったな。こっちも美味いぞー」


「そうなの?じゃあパパの、一口ちょうだーい!」


「おう。いいぞ。あーん」


 まるちゃんが欲しいと言ったので、ハンバーグを切ってまるちゃんに差し出す。すると、まるちゃんも口を開けてハンバーグを食べてくれた。


「んー!美味しい!ママも食べたい?」


「う、うーん……。私は、大丈夫かな……」


 まるちゃんの質問に、美保はそう答えた。正直、そう答えてくれて助かった。そうじゃないと、流れ的に美保にもあーん、をすることになっただろうから。


「マ、ママ。僕も、ママの食べたい」


「いいわよ。はい」


「……うん!美味しい……!」


 ヒロ君は自分のお母さんから味噌カツを貰い、喜んでいた。ヒロ君のお母さんは迷うことなく味噌カツを選んでいたので、もしかしたら好きなのかもしれない。


「ヒロ君、いいなぁ……」


「うふふ。まるちゃんも食べる?」


「いいの!?食べたい!」


「ちょっ、まるちゃん……!」


 まるちゃんがヒロ君を羨ましそうに見ていると、ヒロ君のお母さんがそう提案してくれた。そんなまるちゃんを、美保が止める。


 俺も止めようと思っていたが、美保が止めてくれたので何も言わずに様子を見る。恐らく、ヒロ君のお母さんは問題ないと言ってくれるだろうが、それでも止めておかなければ。


「いいんですよ。ほらまるちゃん」


「ありがとう!……美味しい!」


「でしょう?」


 ヒロ君のお母さんからもらった味噌カツを、まるちゃんは美味しそうに食べる。そんなまるちゃんを見て、ヒロ君のお母さんは嬉しそうに笑った。


「す、すいません。本当に……」


「いえ。私が好きな料理を、まるちゃんに知ってもらえましたから」


 美保の謝罪に、ヒロ君のお母さんはそう答える。それを聞いたまるちゃんも、嬉しそうに美保に向かって言った。


「まるも、これ好きー!」


「そ、そう?じゃあ、また今度食べようね」


「味噌カツなら、是非名古屋に。美味しいですよ」


「名古屋!パパ!名古屋行きたーい!」


 名古屋に行けば味噌カツが食べれると思ったまるちゃんは、俺にそう言ってくる。だが当然ながら、今から名古屋に行くことはできない。


「お、おう。今からは無理だけど、またいつかな」


「その時は、案内しましょうか?」


「……名古屋から来られたんですか?」


 俺のまるちゃんへの返事にそう返してくれたヒロ君のお母さんに、美保が問いかけた。俺も思ったことだったが、名古屋から岐阜に旅行にきたのだろうか。


「あ、はい。息子が退院したばかりなので、近場でということで……」


「あっ……。す、すいません……」


「いえいえ。……でも、ここに来てよかったです」


 ヒロ君のお母さんはそう、笑いながら呟いた。その目線の先には、楽しそうなヒロ君とまるちゃんがいる。


 俺もまるちゃんを見て、今日、ここに来てよかったと思った。まるちゃんがこんなにも、楽しそうにしているのだから。


 次のリス村も楽しんでくれるだろうか。俺はそう思いながら、まだ残っているハンバーグを食べ始めた。

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