異実〈パラリアル〉

真雁越冬

柩の社

「本日はご多用にもかかわらず亡き妻・寿の最後のお別れの式にお越しいただき、まことにありがとうございます」

 喪主の誠司は一礼した。妻がどう生きて老いて衰えて最期を迎えたかを短くまとめて、式は無宗教で営むこと、墓は建てないで散骨する旨を、合間に思い出を挿んで述べた。語り終えたら式は献花へと移る。誠司ははじめの一輪を手向けたのち、集まったひとりひとりが花を手に寿江に別れを告げるのに、ひとつひとつ礼をかえす。

 人は衰えて壊れて生きられなくなって終わる。世に聞く霊魂やあの世のことは経験に照らせばいかにも作り事としか思われない。誠司と寿江、ふたりの道行きは終わった。何年もつづけた在宅介護で、悲しいこと、怖いこと、悔やんだこと、厭なことはいくらもあった。でも、かけがえない小さく大事な欠片かけらもまたそこにあった。

 式のあと、何度か問われた。

「柩の隅におさめておられた小さなおやしろは……何でしょうか」

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