第27話 「褐色の疾風」と呼ばれた女盗賊が子を生みたい男、それが俺!(その2)

 一週間後、オレの盗賊団では割と目端の利く「ネズミ」と呼ばれる男が来た。


「お頭、三日後に州都ティオーダに地方の宝物と税金を届ける荷馬車が、バークワ山地のチャジロ渓谷を通るそうです」


 オレはネズミを見た。

 コイツは確かに頭の回転が早い。

 筋肉バカが多いウチの盗賊団では貴重な存在だ。


 だがオレは何となく、このネズミが気に入らなかった。

 何かとこすいと言うか小ズルいのだ。

 声を上げて叱責する程ではないが、やたらと人の間を動き回って、自分が漁夫の利を得ようとする傾向がある。


「そうか。じゃあもう少し詳細な情報を集めて、イザルと計画を立ててくれ」


「お頭、もう十分な情報は集めています。それと荷馬車が通るのは三日後です。早く動いた方がいいと思いますが」


「わかった。それなら計画の方を立ててみろ。話はその後でもう一度聞こう」


「それも大丈夫っす。ゴラスと一緒に計画の方もバッチリでさぁ」


「ゴラスと?」


 オレは疑問に思った。

 ゴラスは実働部隊としては優秀かもしれないが、計画を立てるような頭脳労働は向いていない。

 そもそもネズミはゴラスと仲が良かっただろうか?


 だがその時のオレは、他の事に気を取られていた。

 この地方の領主たちが協力して、オレを的にかけた討伐対を組織したと言うのだ。

 そのために集めた宝を分散して隠す必要があったのだ。


「とりあえずその件はオマエに任せる。だが無理はするな。状況はキチンと報告しろ」


 胡散臭さを感じたが、その時のオレは思わずそう言ってしまったのだ。



 ネズミが持って来た計画は、次のようなものだった。

 盗賊団を三つのチームに分け、まずイザルのチームが前方から荷馬車隊の足を止める。


 次にネズミとゴラスのチームが荷馬車隊を襲って荷物を奪う。

 オレが率いるチームはバックアップだ。


 ネズミいわく「いま地方政府から狙われているお頭は、表に出ない方がいいです」という話だった。

 オレとしても盗賊団の信頼できるメンバーに宝を分散させている作業中なので、都合が良かった。


 ただしネズミのチームは襲撃を行っているので「荷馬車の警備隊に追われるから、途中で奪った荷物を引き継いでアジトまで運んで欲しい」という事だった。

 ヤツラは囮として警備隊を引き付けると言うのだ。


 普段はどちらかと言うと修羅場から逃げまくるネズミにしては珍しい意見だった。

 腕っぷしの強いゴラスと一緒のため、気が大きくなっているのだろう、程度に私は考えていた。


「その代わりと言っちゃ何ですが、俺のチームは腕の立つヤツを大目に配置されてください」


 とネズミは言った。

 その点についても、オレには異存は無かった。

 ウチの盗賊団は襲撃チームに腕の立つメンバーを入れるのは普通の事だったからだ。



 そして襲撃の日。

 オレは計画通り、荷馬車隊の襲撃箇所から離れた位置で、三十人の仲間と一緒に待っていた。

 約束の時間より十分ほど遅れて、ネズミのチームの連中が奪った荷馬車と共にやって来た。


「おい、ずいぶん人数が少ないな。いったいどうしたんだ?」


 やって来たネズミのチームを見て、オレはすぐに言った。

 ヤツラは団全体の半分・百人は率いて出かけて行ったはずだ。


「大丈夫です。念には念を入れて、ゴラス達が別方向に警備隊を惹き付けているんです。それで奪った荷馬車だけ先にお頭に届けようと」


 なるほど、そういう事か。

 確かにネズミらしい緻密な判断だが。


「それじゃあアッシらは、戻ってゴラス達に合流します。アッチはまだ警備隊に追いかけられているんで!」


 荷馬車だけ置くと、ネズミ達のチームは戻っていった。

 何か釈然としないが、ここでどうする事も出来ない。


 奪った荷馬車は二台だ。

 荷馬車は何を積んでいるのか、けっこうな重さがあった。

 オレ達はそれを引いてアジトに戻る事にした。


 しばらく経った頃


「お頭、ワシらを追ってくるヤツがいます!」


 古参のメンバーがそう告げた。


 言われた方向に小さな土煙が見える。

 望遠鏡で見ると、どうやら相手は一騎だけのようだ。

 オレは舌打ちをした。


「ネズミのヤツ、一人を見逃したな。まぁいい、相手は一人だ。オレが行って蹴散らしてやろう。みんなは先に進め」


 だが古参メンバーの男がそれを止めた。


「いや、お頭は先にアジトに戻ってくだせえ。どうも嫌な予感がする。ワシのカンと長年の経験が、警鐘を鳴らしてるんでさぁ」


 オレは男の顔を見た。

 オレが盗賊になる前から、この稼業についていた男だ。

 そのカンは馬鹿には出来ない。


 そしてオレ自身も何か不穏なモノを感じていた。

 今のところ計画通りだし、起こっている事も想定内で、普段の襲撃でもありうる事なのに。


「相手が一人ならお頭が出るほどの事じゃありません。それよりも早くアジトへ。何かがおかしい」


 古参の男は真剣な目でそう言った。


「わかった。それじゃあ頼んだぞ」


 オレはそう言って、馬を先に走らせた。


この続きは、明日7:18に投稿予定です。

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