3.完全墓穴なタイムパラドックス
指を立てる俺に、三人の少女が注目をする。
その視線に少し緊張しつつも、俺は意を決して本題に入ることにする。
「まず、一つ目。もし、煉獄寺が本当に魔王の生まれ変わりだというのなら……チェルシー、君のいた世界では、もうヴィルルガルムは復活しないんじゃないか?」
俺の指摘に、チェルシーは「あ……」と声を漏らす。
煉獄寺曰く、魔王は"光の勇者"によって二度とあちらの世界に復活できないような呪いをかけられたらしい。それで、こちらの世界に転生してきたのだ、と。
「つまり十年前、君の両親が命懸けで魔王を滅ぼした時……既にそういった呪いをかけ、復活できなくした、という可能性はないか?」
「それはないと思う」
俺の仮説を否定したのは、正面に座る芽縷だった。
「だって、チェルシーちゃんのパパとママが魔王を滅ぼしたのは十年前なんでしょ? でも、薄華ちゃんは既に一五歳。この時点でもう時間の計算が合わないじゃん」
「そ、それはそうだが……ほら、異世界だから流れている時間が違う的な……」
という俺の都合のいい解釈を、今度は頷き肯定する芽縷。
「そう。あっちの世界とこっちの世界では、時間軸にズレがあるの。それも、
「わたくしも、そう思います」
芽縷の意見に、チェルシーも賛同する。
「わたくしのお父さまが"光の勇者"と呼ばれていた事実はありませんし、魔王の永久追放を成功させたとは聞いていません。だから、やっぱり……」
──ぽっ。
と、チェルシーは急に頬を赤らめて、
「……こ、これから先の未来で、わたくしと咲真さんとの間に生まれる子どもが……"光の勇者"になるのではないでしょうか……?」
…………そっ。
そうかぁぁあそういう解釈になるのかぁぁああ!!
くそっ……結局チェルシーとの子作りルートの必要性を高めただけじゃねーか……!!
そこで、芽縷がニヤニヤと笑い出し、
「ていうか咲真クン、やばくない? このままだとチェルシーちゃんと薄華ちゃん、二人と子作りするルート確定じゃん。だって、チェルシーちゃんと子ども作んなきゃ"光の勇者"は生まれない。そうしなきゃ、魔王の生まれ変わりである薄華ちゃんは生まれてこない。そして、薄華ちゃんと子ども作んなきゃ、あたしは生まれてこないんだよ?」
うっ。こいつ……俺があえて口にしなかった"可能性"をサラリと言いやがって……!!
「んで、あたしと子作りしなきゃ未来の世界の秩序が乱れちゃう。魔王という絶対的支配者を失い、各地で戦争が勃発。罪のない子どもたちが苦しみながら命を落とすことに……」
「うわぁああやめろ! 重い! 重すぎる!!」
「ね? だからやっぱり『よんぴぃ』が最適解だって。いいじゃん、ハーレム系学園ラブコメ。望んでいたんでしょ?」
「うるせぇ! 俺はギャルゲーやる時でも一人のキャラに愛を貫くタイプなんだよ!!」
「……ふーん。じゃあ」
じり……、と。
「……この中の…………誰と、
纏わり付くような三人の視線を一斉に浴び、額から汗がたらりと流れる。
その、あまりのプレッシャーに、俺は……
「……は、はは…………では続いて、二つ目のお題!」
芽縷から「あー、逃げたー」という野次が飛ぶが、無視無視!
「……君たちが言う、俺の"魔力"についてだ」
……そう。俺が今日、三人を集めたもう一つの目的が、これだ。
「そもそもだが、俺自身にはその"魔力"ってやつを持っている自覚がまったく無い。そんなあるかもわからないもので、その……子作りをせがまれても、正直困る。そこで、だ。君たち三人にそれぞれ、俺に魔力があるということを証明してもらいたい。まずは」
俺は、正面に座る芽縷に視線を向け、
「……芽縷。君は昨日、俺が魔力を得るに至った経緯を知ってると言ったが……本当か?」
尋ねる。
すると彼女は、クスリと笑って、
「うん。知ってるよ。ちゃんと、見てきたもん。忘れているなら、教えてあげようか」
と……落ち着いた声音で語り始めた。
「今から七年前……咲真くんが小学二年生だった年の、夏休み。学校のプール帰りに、妙なカッコした男の人に会ったこと、覚えていない?」
「妙なカッコした、男……?」
「ほら、公園で。水を飲んだ時」
俺自身が思い出せるよう、少しずつヒントを与える芽縷の言葉に……俺は腕組みをして必死に記憶を探る。
そして……
「……あ。そういえば……あったな。全身真っ黒で、ボロボロな、妙なおっさんに話しかけられたこと」
「そうそう! で、その時、そのおじさんに何された?」
えぇと……たしか、何かをもらったような…………
そうだ。
「…………飴玉だ。飴玉をもらった」
絞り出した俺の答えに、芽縷はパチンと指を鳴らし、
「そう! その飴玉こそが、ヴィルルガルムから取り出した魔力そのものだったんだよ!」
………………おん?
「ま、待ってくれ。随分と話が飛躍していないか?」
「ありゃー。本当に覚えていないの? あのおじさんから、『これはヴィルルガルムだ』って言って渡されていたじゃん」
それを聞いて、俺は……その時の記憶が、一気に蘇る。
そうか、ヴィルルガルム……あの時一度耳にしていたから、聞き覚えがあったのか。
「……あたしが思うに」
芽縷は、テーブルの上に顎肘をついて俺の瞳を覗き込む。
「あの男の人こそ、キミとチェルシーちゃんの子ども……"光の勇者"だったんじゃないかな? 鎧や長剣を携えたあの装い、どう見てもこっちの世界の人間じゃないでしょ。魔王との死闘の末、魔力だけを抜き取ることに成功し、それを咲真クンに託した、と……」
「な……何のために、俺に……?」
「そこまではわかんないよ。けど、『これで因果が繋がった』とかなんとか言って去っていったよ? キミが『咲真クン』だってことも、ちゃんと認識していたし」
そ、そんな……
じゃあ俺は、あの飴玉を……魔王の魔力の塊を飲み込んでしまったことで、力を手に入れたっていうのか……?
「で、でも、その後特に身体への影響はなかったぞ? 本当に俺の中に、魔力なんか……」
「……あるよ」
震える俺の声に、被せるように言ったのは……芽縷の隣に座る煉獄寺だった。
「……落留くんは自覚ないかもしれないけれど、あなたはたしかに魔力の影響を身体に受けている。その証拠に……一昨日、私のガチ歌を聴いても、全然平気だった」
なんてことを言うので、俺は「は……?」と目を丸くする。
煉獄寺は続けて、
「……私は、魔力こそ持たないけれど、魂に引きずられる形で、とても"破壊的な肉体"を持っている。見て」
と、テーブルの隅に置かれたカトラリーケースから銀色のスプーンを一本取り出すと。
──くにゃん。
……と。
いとも簡単に、それを曲げてみせた。
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