第3話 八月 四日



こんなバイトでも面接をしなければならない。正直相当面倒くさいんですけど...

そして、そう思うとサッカー部の事を思い出す。

最初の面接は勿論寿司のためのやつで、近くのスシローに行くように指示された。朝早くて客はまだいない。階段を上ってドアを開け...閉まっている。

何度かガシャガシャと開けようとするが鍵がかかっている。それもそうだ。まだオープンしていないんだから。

俺はバイトをしたことがない。どうすればいいのかが分からなかった。ここで待つべきなのか、それとも俺は来る場所を間違えてしまったのだろうか。

面接が始まるまであと二分。

ドアの前でうろちょろしていると二分があっという間にすぎた。

ここで初めて「怖い」という気持ちが湧き上がってきた。今まで俺は他人に迷惑をかけた事がないから、ここで遅刻するのがすごく罪に感じた。サッカー部の事だって他人に迷惑をかけている訳じゃないから。

何もせずに八分ぐらいがすぎる。

やっと階段を下りたらすぐに裏口への階段を見つけた。

俺は神の速さでそれを駆け上がった。その先には細長いオフィスのような部屋があって、何人かの店員も支度をしていた。

「あのー、今日面接があって来ているんですけど」

「マネージャーまだ来てないからそこで待ってて」

「はい」

俺は十分ぐらい椅子に座って待った。

マネージャーが来たらさっそく面接は始まった。

「十時の中林さんですよね?」

俺は九時半予定の宮本だ。

「はい」

「じゃあ、いくつか質問があるから答えといて」

マネージャーはタブレットを渡して、そこにあるバイト経験や住所の質問に俺は答えた。

自分が中林ではない事をいつ言えばいいのだろうか。

ふと寒気がして肩の後ろを見た。中林が怖い眼で俺の振り向く姿を見下していないかチェックする。

いない。このまま来ない事もあり得るのか?

適当に自分の住所などを入力したらタブレットを返した。

「中林君、これでオーケーだな。研修には一週間ぐらいかかるけど、明日、いや、明後日開いてる?」

「あ、はい」

「じゃあ、その時...」

「いや、ちょっと待ってください、俺は中林じゃないです。面接も九時半のはずだったんですけど、遅れたので、すみません」

マネージャーが少し驚いた顔をした。

「九時半の宮本さん、ですか」

「はい」

また困った顔をする。

「悪い、やっぱここは諦めてくれないか?」

後ろで中林が階段を上る音がした。


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