「おねがいしまーす」
芳村アンドレイ
第1話 八月 二日
下校中にティッシュ配りと遭遇した。
高校二年最後の日だっていうのに、俺は特に楽しい事もせずに一人で道を歩いていた。いつも一人って訳ではないんだけど。
帰宅部の顧問である親には嘘を吐いて「サッカー部のキャプテンやってんだよ」といつも言っている。そして、学校後の時間を友達と一緒に持て余していた。カラオケに行ったり、自転車を乗ったり、などなど。別に何もさぼっていないからいいし、優等生でありながらも無害な悪ガキ遊びも楽しめる。
その頃はめっちゃくちゃ楽しかった。
しかし、今になって少し後悔し始めた。実際にサッカー部に入ればよかったとつくづく思ってしまうのがウザい。まだその機会があった頃は部活なんて面倒くさいとと思っていた。今戻れたとしても、同じくそう感じると解っているのに、機会がすぎてしかたない今だからこそ後悔の気持ちが湧き上がる。
ドラえもんがタイムマシンをくれても
「余計な真似すんなよ」、だから。
なんだこのよく噛み合わない態度のずれは?
今日は従順に帰っている。部活がない日なんだ。それに加えて弘樹はレストランでバイトを始めたからいない。裕也は従妹とどっかにいるからいない。ゴンザレスはマウンテンバイクを乗りながら調子にも乗ったからいない。大輔は好きな子に告白しているからいない。
よって俺は一人。
そんな俺が下校中にティッシュを貰ったんだ。
俺と同い年ぐらいの可愛い子だった。笑顔で「おねがいしまーす」と言っている。ブラジャーのクーポンつきのティッシュを目線を下げて少し見た後ポケットにしまった。
「元気ー?今暇ー?」とその子は聞きながら次の客にティッシュを渡そうとした。
家に帰るとお母さんが玄関で待っていた。
「ねえ、今夜はすき焼きにする?それともココスに行きたい?それとも、ハンバーグがいい?卒業式は泣けたよねー」
「なんでもいいよ」
この二年間サッカー部のユニフォームを一度も持ってきていないのによくも俺の嘘を信じ続けたものだ。
ちょっとだけ罪悪感に駆られた。
多分それが原因なんだろうけど、どうして俺はこう言ってしまったんだ?
「あのさあ、夏の間バイトするよ」
そのまま部屋に向かい、パソコンを開き、「バイト」と検索してみた。
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