水の王の蒼

渋谷かな

第1話 水王1

「ウワアアアアア!?」

 水月蒼は16才の高校1年生。今時の少しやさぐれた性格だった。

「溺れる!? 死ぬ!?」

 子供の頃にプールで溺れて死にかけたらしい。

(もうすぐあなたを迎えに行きます。水の王よ。)

 少女の声で蒼に呼びかける声がする。  

「はあっ!? はあはあはあ・・・・・・。また同じ夢か!?」

 それ以来、水に溺れる夢を見てうなされるようになった。


「おはよう。蒼。」

 蒼が学校に登校していると一人の少女がやって来る。

「はあ・・・・・・、姫か。」

 少女は白月姫。姫も16才の高校1年生。蒼のお隣さんで幼馴染である。

「こら! 人を見てため息をつくな! 傷つくでしょう!」

 姫は天真爛漫で純粋だった。

「いいな。おまえには悩み事が無くて。」

「あるわい! 私にだって悩み事くらい!」

「はいはい。」

 姫はじっと碧を見つめる。その視線に蒼は気づかない。


「あ、おはよう! 朧!」

 そこに一人の少年が現れる。

「おはよう。姫。」

 少年は魔月朧。朧も16才の高校1年生。姫のお隣さんで幼馴染である。

「蒼、また姫をいじめているのか?」

 朧は生徒会長タイプの優等生だった。

「その通り! うんうん!」

「バカを言え。いじめられていたのは俺の方だ。」

「蒼の嘘つき!」

 なんやかんやで蒼、姫、朧は幼馴染でお隣さんということで長い付き合いなのでバカも言いあいながら仲良しだった。

「遅刻するからいくぞ。」

「わ~い! 三人で登校だ!」

「おお。」

 少し照れながら朧は姫を見つめていた。


「分かった! 教えてくれてありがとう! 朧は天才だね!」

 朧に勉強を教わっている姫。

「これぐらい当然だよ。」

 大好きな姫に褒められてまんざらではない朧。

「キャアアアアアアー!?」

 どこからか姫に向かってボールが飛んでくる。

「パチッ!」

 姫に当たる寸前で蒼がボールをワンハンドキャッチ。

「危ないだろうが!」

 蒼はボールを遠くに投げ捨てる。

「助けてくれて、ありがとう。蒼。」

 姫は蒼が好きだったのでときめいている。

「ボーっとしてるな。お姫様。」

 蒼は普通に姫に接している。

「クッ・・・・・・。」

 その様子を朧は面白くなかった。


「ああ~疲れた。」

 蒼が学校から帰ろうとすると急に降った雨が止んでいた。

「なんだ?」

 道には水たまりがあった。

「今、水たまりが動いたような!?」

 蒼には水たまりが動いたように見えた。

「気のせいか? 水たまりが俺の跡をついてくるはずがない。」

 しかし蒼が歩くと水たまりは後ろからついてくる。

「な、なんで!? 水たまりがついてくるんだよ!?」

 蒼は水たまりが動いていると認識してキレた。

「ウワアアアアア!?」

 次の瞬間、蒼は水たまりに襲われて水の中に沈んでいく。


「水!? 溺れる!? 息ができない!?」

 カナヅチの蒼は水の中で溺れていた。

(大丈夫ですよ。目を開けて下さい。)

 どこからか少女の声が聞こえてくる。

「な、なんだ!? これはどうなっているんだ!?」

 恐る恐る目を開けると蒼は水の中にいた。

(ここは水の世界。現実でもあり、現実ではない場所です。)

 また少女の声が聞こえてくる。

「水の世界!? そういえば呼吸も苦しくない!?」

 不思議と水の中にいるのに碧は溺れなかった。

(それはそうです。なぜなら、あなたは水の王になるのですから。)

 一人の少女が姿を現す。

「誰だ!?」

(私は水の妖精ウンディーネ。あなたにお仕えする者です。)

 現れたのは水の妖精のウンディーネだった。

「水の妖精!? 俺に仕える!? いったい何を言っているんだ!? 俺が水の王になるとはどういうことだ!?」

(あなたは水に選ばれし者。この世の水を邪悪なる者から守らなければなりません。)

「俺が水に選ばれた? 邪悪ってなんだ?」

 いきなり分からないことだらけで理解できない蒼。

(水の世界の言い伝えがあります。この世に邪悪が甦り世界に危機が訪れた時、水に選ばれし者が世界を救うと。)

 水の世界に伝わる伝説である。

(あなたは水の王なのですから。)

「俺が水の王!?」

 未だに話が飲み込めない蒼

「んん? この声、どこかで聞いたことがあるような。」

 でも蒼は、少女の声に聞き覚えがあった。

「そうだ! 夢だ! 夢で俺に呼びかける声と一緒だ!?」

 蒼は夢の少女のことを思い出した。

(はい。それは私です。アハッ!)

 夢の少女の正体は水の妖精ウンディーネだった。

「おまえか!? 俺を夢で何度も苦しめていたのは!?」

 蒼は悪夢の正体を見つけた。

(ち、違います!? 私はマスターが水の夢を見て溺れないように助けていたんですよ!?)  

 水の妖精ウンディーネの言い分である。

「そうなの?」

(はい。私はマスターをずっと見守ってきたんですから。)

「あ、ありがとう。俺を助けてくれて。」

(どういたしまして。)

 なんとなく距離が近づいた蒼とウンディーネ。


(早速ですがマスターには水竜と戦ってもらいます。アハッ!)

「はあ!? なんで俺がそんな化け物と戦わないといけない!?」

 いきなり水の妖精は蒼に水竜と戦えという。

(水の王になるためには、水竜に水の王の候補者として認めてもらう必要があります。)

「いや、俺は水の王になりたいと思わないんだが。」

(そんなことは関係ありません! これは水の運命なのです!)

 一歩も引かないウンディーネ。

「無茶苦茶な!? 俺のいうことは無視か!?」

(心配しないで下さい。ちゃんと水竜と戦う武器を差し上げます。えい!)

 水の妖精は碧の腰に刀を装備させる。

「ウワア!? なんだこれは!?」

 蒼の腰に刀が装備されていた。

(普通に剣でも良かったのですが、この国では剣は刀に、魔法は忍法に置き換えられているみたいなのでお国柄に合わしておきました。)

 意外に気が利く水の妖精。

「おい!? 俺は刀なんて使ったことはないぞ!?」

 今時の普通の高校生は刀や忍術など使ったことはないのだ。

(大丈夫です。私がサポートします。)

「うっ!?」

 ニッコリ笑い反論を受け付けないウンディーネ。

(水竜を従わせるだけの力を示さなければ、水の王にはなれません。)

「だから! 誰も水の王になるなんて言っていないだろうが!」

(これも運命です。)

 全ては運命の一言で片付いてしまう。

(この国では刀を使う人を侍といい、忍法を使う人を忍者というんですよね。)

「そうだ。」

(マスターには侍と忍者を極めてもらいます。)

「拒否はできるのかな?」

(できません。これも運命ですから。)

 魔法剣士みたいなものである。

「で、水竜はどこにいるんだよ?」

(はい。マスターの目の前に。)

「え?」

「ギャオオオオオオオオオー!」

「りゅ、りゅ、竜!?」

 竜の雄叫びが聞こえてくると共に巨大な水の竜が蒼の前に姿を現す。

(おまえが新しい水王の候補者か?)

「竜が喋った!?」

 蒼は竜に驚き、言葉を発したことにも驚く。

(水王になりたければ、汝、我に力を示せ!)

「力を示せって言われてもどうやって!?」

(戦うんです。水竜と。)

「そんな無茶苦茶な!?」

 蒼はウンディーネに助けてもらいながら、水竜と戦うことになった。

(まずは刀を抜いて構えてください。)

「こうか?」

 蒼は腰の刀を抜いて構える。

(いくぞ!)

「ギャオオオオオオオオオー!」

 水竜が強烈な水を口から放つ。

「し、死ぬ!?」

 一瞬で蒼は死を悟った。

(水忍法! 水化の術!)

 水の妖精ウンディーネが忍術を唱える。

「ウワアアアアア!? ・・・・・・あれ? 死んでない?」

 水竜のウォーター・ブレスを食らっても蒼は平気だった。

「なぜ? 俺は死んでいない? ・・・・・・何!? 俺の体が水になっている!? 」

(マスターは忍術で水になったのです。)

 手と手を触れた蒼の体は水になった。

「これが忍術!?」

(そうです。マスターは水の王になられるお方。雨を降らしたり、水の上を歩いたり水の忍法は何でも使えます。)

「すごい!? まるで魔法みたいだ。」

 魔法使いになったような気分の蒼。

(マスターなら何でもできますよ。きっと水竜にも水の王だと認めさせることができるはずです。)

「よし! やってやるぞ! 俺ならできるはずだ!」

 ウンディーネに励まされた蒼は刀を構え正面から水竜と向き合う。

(やっと私と戦う気になったか、そうでなければな!)

「ギャオオオオオオオオオー!」

 再び水竜が水を吐き出し攻撃してくる。

「俺は水の王になる男だ。なら水くらい斬れるはずだ。」

(マスターの心が水と一体化している!?) 

 蒼は刀と心を共鳴させ一つになろうとしている。

「水よ! 俺に従え!」

 刀が水竜の水を吸収していく。

(バカな!? 我が竜水を吸ったというのか!?)

(やはりマスターは水の王になられる方だ。)

 その光景に水竜、ウンディーネは衝撃を受ける。

「刀の形が変わった!?」

 水刀が水竜の力を得て水竜刀に進化する。

「俺の刀に水の力が宿ったみたいだ!? これなら勝てるかもしれない!」

 蒼の刀に水竜の力が湧いている。

「くらえ! 水竜斬!」

 水竜刀から水の竜が現れ斬撃として水竜に襲い掛かる。

「ギャオオオオオオオオオー!?」

 水竜に水竜をぶつける。

「やったか!? ・・・・・・なに!?」

 しかし水竜は平然としていた。

(おまえの力は見せてもらった。いいだろう。おまえを水の王の候補者と認めよう。)

「水竜、ありがとう。」

 蒼は水竜に水の王の候補者と認めてもらえた。

(良かったですね。マスター。)

「ありがとう。これもウンディーネのおかげだよ。」

 嫉妬深い水の精霊ウンディーネに感謝する蒼。

(マスターはこれから、剣術、忍術を鍛えて一流の侍忍者にならなければいけません。そして水の全てを司る水の王になり、悪しき者から世界を救うんです。)

「ああ、がんばるよ。」

(はい! 全て運命の導くままに!)

 水月蒼は水の王への道を進み始めた。

 (きっと大丈夫です。私がずっと見守ってきたんですから。)

 これも水の妖精ウンディーネの運命と共に。

 つづく。

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水の王の蒼 渋谷かな @yahoogle

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