スイーツ娘ざっはとるて!アニメ原案

ザッハトルテが受精卵として母の子宮にいる時、宇宙から地球に落ちてきた暗黒物質が細胞に命中した。正確に言うと、暗黒物質が細胞内でイオンを発生させそれが遺伝子を傷つけ、修復不能なダメージを与えた。

暗黒物質は地球を貫通する程に物質と相互作用しないのだが、ごくまれにイオンを生じさせる。そのイオンがザッハトルテの遺伝子を書き換えたのだ。


幸いなことにその書き換えは致死的ではなく、無事スイーツ娘「ザッハトルテ」として生まれることになる。ザッハトルテはその遺伝情報に従ってすくすくと成長した。

とても元気だったのだが、1つ両親を心配させたことがある。物心ついたころに宇宙に興味をもつ時期があったのだ。


まさか、自身の遺伝子が宇宙由来の物質に書き換えられたことを知っていたのか?


もちろん違う。

ザッハトルテが生まれた年、1996年はエクレアという1人のスイーツ娘が宇宙飛行士になって冥王星飛び立った時だった。彼女は量子テレポーテーションの実証実験のため地球から離れていった 。スイーツ娘に生まれたのに、スイーツダンスを生業にしなかったのは、歴史上彼女だけである。

その歴史的な事件と自分の間にロマンチックな縁を感じていたのだ。


そんな非科学的な理由で、ザッハトルテは科学にのめりこんだ。

両親はいい顔をしない。


「お願いだから、普通の人生を歩んで」

と、聡明な目をした母は言った。

「ザッハトルテ、スイーツ娘として生まれたことを自覚しなさい」

と、普段温厚な父は顔をしかめていた。

自分たちの娘はスイーツ娘として異常なのではないか?

我が子を病院に連れて行くべきなのでは?

ザッハトルテの両親は、心配でたまらなかったのだ。


だが、結果的に杞憂だった。

11歳になった日、ザッハトルテはかわいいダンスを踊ったのだ。

長いスカートとおさげの髪をなびかせてクルクルと回る。

そのダンスは見ている両親の口にチョコの甘さとケーキのフワフワ感を与えた。


これがスイーツダンスというスイーツ娘だけが持つ特殊技能だ。この世界にスイーツはないが、代わりにスイーツ娘とスイーツダンスがある。スイーツダンスを見た人は、甘くておいしい体験をする。そしてスイーツ娘にとってスイーツダンスは本能であり、理性であらがえない物だった。


ザッハトルテはスイーツ少女としての自分のアイデンティティー疑問を感じながらも、パティシエ学園に通うことにした。もしかしたら、科学者になりたい自分を押し殺してスイーツダンスを練習していたら、いつか違和感がなくなるかも。

ただ、そうならなかった時のために、自殺用の拳銃を寮の自室に持ち込んでおいた。


いつでも死ねる。そう思うだけで、スイーツダンスの練習の苦痛もマシになった。


しかしパティシエ学園に通うようになってから違和感は日に日に強くなっていた 。そんなある日教室の端に髪の長い少女が見えた 。

賢そうな目つきが印象的だが、休み時間もずっとうつむいて座っているのでよく見えない。

友達がいないように見える。同級生の元気なツインテールのプリンちゃんにそのことを話すとプリンちゃんは「あの子、うつつちゃんっていうんだけど、全然スイーツダンスしないキモい奴だから、みんなでシカトしてるの」と言って笑っていた。

そして「ザッハトルテちゃんも現ちゃんのことキモいと思うよね?」と聞いてきた。

当然ながらこの質問にNoと答えることはできなかった。


その日から、ザッハトルテは無理してスイーツダンスを踊るだけでなく、無理してクラスメートの現をイジメなければならなくなった。


現がザッハトルテに話しかけてきたのは、寮の自室の中、クラスのラインで「どうやって現をさらにイジメるか」議論している時だった。

学校から寮に帰っている時も、このグループはラインで繋がって、現のイジメのことを考えている。しょうもない情熱に心の中で呆れた時。だった。


「本当はやる気ないんでしょ」と囁いてきたのだ。

さっきまで一人だったのに、である。


しかしこのあり得なさで、逆にザッハトルテは確信した

今話しかけてる女の子はうつつではなく私の内なる声なのだと思ったのだ。あるいは現に対する罪悪感から見る幻。


だってここは寮の個室だ。いきなり、音もなく入って来れるわけがない。

「心の声黙ってて」ザッハトルテがそう言うと少女は私は心の声じゃないのに、と首を横に振った。

「私の名前がなんでうつつっていうかわかる?」

現はザッハトルテに語りかけた。

「私は現実にアクセスできる存在で、キミみたいな変曲点を二つみつけて現実に帰ることを目的にしてるから。そのために科学者によって作られたスイーツ娘なの 」



「私の心の中にこんな中に心があったんだな」

ザッハトルテは無理矢理納得しようと、自分に言い聞かせた。

「だからお前の別人格じゃないその証拠に、ほら」

これでザッハトルテは内なる声ではないと信じた。信じざるを得なかった。


「へー」

現はザッハトルテの顔をじっくり見つめた。興味深そうな表情だった。

「すんなりと信じるんだね 」

「私は科学的な考えが好きだから。科学は反証可能だから科学なの。反証が見つかったら仮説を撤回しなければならないし」

「とても科学的な素晴らしいよ。そんな考えだったら、本当は科学者になりたいんじゃないの 」


私の心の奥の悩みをそんな簡単に言わないでよと思いながら「そうだよ。でも基本的には例外がないんだ。唯一の例外が量子テレポーテーション実験のために地球を出た人だけ」と、恨めしそうな目つきで吐き捨てた。

「それは辛いよね。ほんとにこんな世界くそくらえだ。それでさ、この世界を壊す方法があると言ったらどうする」

「それは科学的に」

「そうだよ」


自分が大好きな科学が自分が大嫌いなこの世界を壊すだって?もしそれが本当なら…。


「最高じゃん」

「 まず私がと言うより私たちが見つけたこの世界のルールを教えてあげるそのルールを知れば私現は何なのかどうやってこの世界を壊すのかがわかると思う」

「いいよ」

そう言って現の手を握ったザッハトルテの顔は、興奮で少し赤みがかっていた。

「じゃぁ理論を聞かせてよ」


「前のめりな割に、結論から言えよとか言わないんだね」

「うん」ザッハトルテは頷いた。「だって現と科学的な話をするのが楽しいから。今まで誰もいなかったから」

「なるほど。じゃあまず スイーツってわかる」

「スイーツ娘とか、スイーツダンスのスイーツ?」

「そう。でも、それはスイーツ娘であってスイーツじゃない」


なるほど。そういう質問か。

一生懸命考えてみたけどわからない。

「スイーツと言う単語はない、よね?」


「じゃあ、アフォーダンスって言葉を知ってるかい」

「いいえ」ザッハトルテは首を横にふった。

「哲学者の言葉だよ。例えば屋根は下で休むことをアフォーダンスする」

「何となくわかった。その理屈で言えば ベンチは座るをアフォードするって感じ 」

「そう。じゃぁスイーツ娘は何をアフォードする?」

「甘くておいしいって感覚」

「そうその感覚は娘とは関係あるかな」


ザッハトルテは少し考えて、

「ないよ。スイーツ娘じゃない娘は甘くておいしいと言う体験をもたらさない 」

「じゃぁそれは甘くておいしいと言う体験はスイーツ娘の中の娘じゃない部分だ 。だからスイーツ娘とはスイーツをアフォードする存在なんだよ」

ザッハトルテは現を見ながら、首を傾げた。「あれ、でもそれだと」

「そう不自然だ」

「この不自然さを覆すのが現ちゃんのいう理論ってこと?」

「そう。端的に言ううと、この世界は現実じゃない」

「じゃあ何」

「スイーツを擬人化したアニメの脚本だよ」


あまりの突拍子のなさに、口がぽかんと開いて、言葉を次げなかった。

「えっと、私がアニメの登場人物ってこと?」

にわかには信じられない。


「正確に言うと、現宇宙で作られてフィクションこの宇宙の物理法則になっているってことなんだけど」

「そう言い換えられても…」

「じゃあさ、ザッハトルテという名前の由来は?」

「それは、1832年当時16歳のザッハーという人が、作って…あれ」


言っていておかしいと気づく。じゃあ、自分は何なのだろう。そしてなんで今まで疑問に思わなかったのだろう。


「別に驚かなくていい。スイーツ娘の存在に疑問を持てないような思考形式を人間は持ってるから。まぁこれを読んでみてよ。また明日」

と言いながら現はどこからともなく10冊ほどの本格的な物理学の本を取り出し、ザッハトルテの部屋に置き、そのまま消滅した。


言われるがままに読み始める。

量子力学には波動関数という概念があること。暗黒物質がWIMPSという粒子であること。

次から次へと現れる美しい理論に興奮して、ページをめくる手が止まらない。

世界はこんなに美しいのか。

ザッハトルテは初めて見る本格的な科学の知識を貪欲に読みこんだ。


次の日ザッハトルテは、いつもより2時間前に起きて学校へ向かった。

もしかしたら、現ちゃんに会えるかも。もし会えなくても、現ちゃんの講義の予習をしようと思っていた。

「おっ、ザッハトルテちゃん。早いね」

物理学の教科書で重いカバンを持って教室のドアを開けると、現ちゃんが待っていてくれていた。


「ねぇ」挨拶もせずに、ザッハトルテは現に詰め寄った。「スイーツダンスって脳の扁桃体に作用するんだよね?」

「そうだよ」

「そして、スイーツ娘に関連する現象は全て暗黒物質の干渉を受ける」

「その通り」

「じゃあさ、人間の脳は暗黒物質に対するセンサーになるんじゃないかな」


一瞬の沈黙。


「すごいね」予想以上に成長が早い子供を褒める親のような口調で、現はザッハトルテを見て笑った。

「的外れだった?」

「違う。その逆。これみてごらん」現は髪を手で持ち上げた。

すると現の頭に棒が刺さっているのが見えた。


「何この棒?痛くないの?」

「脳は痛みを感じないからね。この棒はセンサーで脳のパラベルト領域という領域に先端がある」

「そこが、もしかして」

「そう。暗黒物質センサーってこと」

「そっかー」

「落ち込むことなんてないよ。もう発見されていることだったとしても、ザッハトルテは自力でたどり着いた。その思考は無駄じゃない。科学者として素晴らしいよ」


科学者として素晴らしい。

その短文だけで、ザッハトルテの鼓動は早くなった。

なんて斬新な誉め言葉だろう。自分をスイーツ娘としてしか見てくれない世界と比べて、なんて暖かいのだろう。


ザッハトルテは感激した。もう、スイーツ娘なんかやめて、現ちゃんとずっと一緒に科学を論じていたいと願わずにはいられない。


そこから1週間。プライベートの時間の全てを科学の学習に費やした。

人間を量子テレポーテーションさせるには、超巨大なコンピュータで制御された人間を量子でスキャンして情報をゴールに送る必要があること。何かを観測することで波動関数が収束すること。暗黒物質は全てを透過すること。


それはちょうど、ダイエットのあとにお菓子をほおばってリバウンドする時に似ていた。

ザッハトルテは知識に飢えていたのだ。


クラスメートのスイーツ娘たちは、ネガティブなことを言ってきた。

プリンは「もっとスイーツダンスの練習したら」と心配してきたし、ザッハトルテを勝手にライバル視していたチョコパイは「お前が落ちこぼれたら許さないぞ」と怒っていた。でもそんなの知ったこっちゃない。


そしてついに現ちゃんの語る基礎科学の知識は十分に積み重なり、それを土台にして、「この宇宙がなぜ別の宇宙のアニメの物語とリンクしているのか」ところまできた。

「明日最後の説明するね」

「お願いします」

挨拶をして別れた。

本来なら喜ぶべきだ。勉強の成果が明日でるのだから。

なのに嬉しい気持ちの中に、何故か小さい影があった。




喉に魚の小骨が刺さったような違和感が抜けず、素直に喜べない。

ザッハトルテは部屋の引き出しから拳銃を取り出し、自分の頭に向けた。

自殺しようとしているのではない。そこまで追い詰められてはいない。そもそも、明日の授業は楽しみだ。

ただ、この危険行為はザッハトルテにとってルーティーンだった。


拳銃を頭に付けて、危険な状態になると、頭がクリアになる。その状態で現のことを考える。


初めてスイーツ娘ではない尺度で見てくれた存在。科学と言う新しい世界を見せてくれた。

こうして現のことを考える時、ザッハトルテは鼓動が早くなることに気づいた。

これは知的興奮じゃない。

私にとって大事なのは科学じゃない。現の存在だったのだ。


明日現からのレクチャーが終了したら、その後何するのかは聞いていない。

もし可能なら、最後のレクチャーが終わった後も現とおしゃべりができる時間がずっと続けばいいのに。




しかし、そんなささやかな願いは叶わなかった。



翌日クラスに行っても現ちゃんがいないのだ。

風邪かとも思ったが、そもそも教室に机も椅子もない。

「現の存在を無視するという新手のイジメか?」と思ったがそうではない。

クラスメートへの質問や出席簿をみて確信する。

現ちゃんは初めからこのクラスにいなかったことになっている。


皮肉なことに、この現象によって、ザッハトルテは現の言っていたことを理解した。暗黒物質WIMPSは、全てを透過する。つまり隣の宇宙とこの宇宙の壁をも超える。

そして隣の宇宙では、フルーツ娘というアニメの脚本が書かれた。その脚本を読むと、その行為は観測なので波動関数が収束する。その収束がWIMPSを介してこの宇宙に伝わっていたのだ。


つまりWIMPSがこの宇宙がフルーツ娘の宇宙であるように改変する。そのせいで宇宙を壊そうとする現は消された。しかし、希望はある。


それはザッハトルテは消えていないこと。

そしてザッハトルテの記憶の中の現は消えていないこと。

つまりWIMPSによる宇宙改変をザッハトルテには来ないということであり、これこそが「ザッハトルテは変曲点」という言葉の意味にちがいない。


スルスルとすべてが理解されていく。その感覚にザッハトルテは興奮した。

まるで、いなくなった現が助けてくれているように感じたから。

実際は前提条件から結論が導かれるという論理の結果でしかないのだが、そんな野暮な指摘はどうでもいい。

なぜザッハトルテにはWIMPSが作用しないのかはわからないが、そんな些細な疑問もどうでもいい。


大事なのは、「もう一人の変曲点を見つけ出してこの宇宙を終わらせる」という当初からのミッションだ。

この宇宙を壊せば、現に会えるかもしれない。そのためだったら、何でもしようと思えた。


ザッハトルテは寮の自室に保管していた銃を学校に持ってきて、クラスメートを全員殺害した。

ザッハトルテはクラスの中心的な立ち位置の娘にくっつく、金魚の糞的立ち位置であり、クラスの影は薄かった。だからこそだれも殺気に気づかず、殺戮は手際よく15分で終了した。

現を苛めていたから殺したのではない。

実験で使う脳が欲しかったからだ。

1個体として死亡しても、その個体を構成する細胞は死後数時間は生きている。

例えば、目、視神経、脳細胞。


だからザッハトルテは死亡したばかりのクラスメートに、自分のスイーツダンスを見せた。

もちろん計測器をつけて、である。

現の脳に刺さっていたのと同じ機械を現と同じ個所に刺した。WIMPS測定装置だ。


スイーツ少女に関する物理現象は、WIMPSによる干渉を受ける。その干渉を予測する理論モデルを作ろうとしたのだ。


そして理論は完成した。ザッハトルテはクラスメートを殺してから警察が来るまでの間に、スイーツダンスとWIMPSの関係を記述する微分方程式を編み出していた。


そして彼女は「ありがとう!現!」と叫んでいた。銃を持った警察に囲まれた時も、連行されている間も、パトカーの中でもずっと。


気味悪がった刑事の一人が、「大人しく連行されろ」とパトカーの中でザッハトルテをこずいた時、全てが手遅れになった。ザッハトルテは突如として体をくねらせスイーツダンスを踊り始めたのだ。


それを見た警官たちは皆、同じスイーツダンスを踊り始めた。



これがWIMPS微分方程式の力だ。ザッハトルテは「任意のWIMPSの挙動を実現するスイーツダンス」を作ることができるようになった。そこで「そのスイーツダンスを見た人がどうしてもマネしたくなるように脳神経を書き換えるようにWIMPSが動く」ようなスイーツダンスを作ったのだ。


つまり、感染するスイーツダンス。見ただけで感染し、感染者は廃人になるミームのウイルス。

これを止めることなどできない。微粒子という実体のあるコロナウイルスすら人類は防げなかったのだ。一方でザッハトルテが作成したスイーツミームウイルスはSNSで動画を見ただけで感染してしまう。

人類が対応できるわけがない。


その結果、1年で全人類が廃人となった。

だれも邪魔しなくなったところで、「ザッハトルテの命令をなんでも聞くようになるスイーツダンスミームウイルス」を再感染させた。


そして人形となった全人類に「北京に集合して自らの手で外科手術をし、隣の人間と神経回路を接続せよ。コンピュータとして最適になるように繋がれ」と命じた。


命令の2年後、ついに全人類、全スイーツ娘は一体化した。効率的な神経接続を実現するために皮膚を取っ払い、内臓を癒着させる必要があったからだ。

全人類の命と引き換えに作り出されたその肉塊は、並列された神経回路により高度な計算を行えるコンピュータだった。


そしてそのコンピュータの目の前で、ザッハトルテは宇宙の崩壊を待った。


…何も起こらない。現が予言した世界の崩壊が起こらないのだ。


第二変曲点が存在しなかったのか?全人類の誰かは第二変曲点なのだから、この肉塊とザッハトルテがいれば、変曲点2つという条件をみたすはずなのだが。

理論の誤りを脳肉塊コンピュータに起算させてみよう。肉塊となった人類に計算を命令する。


「あなた何してるの」

計算命令作業が忙しくて、背後から声がかけられた時、ザッハトルテは心底驚いた。

しかし1秒で落ち着きを取り戻し、余裕の笑みを作って振り返る。

「初めまして。あなたと話せて光栄です」

考えればわかることだ。唯一残った人類は、宇宙船に乗って地球から離れているスイーツ娘のエクレアなのだから。


「ザッハトルテ、お前は屑だ。死に値する」

エクレアは外宇宙から、通信機を使って、ザッハトルテを非難するメッセージを送ってきていた。


しかし、今更ザッハトルテが悔い改めるわけもない。それよりも・・・

「…そうか!エクレアが第二変曲点だったのか」

「何の話?」

「エクレアって名前、雷から来ているんだよね」

「あぁ」エクレアはザッハトルテの質問に、戸惑いながら頷いた。「エクレアの表面にできるギザギザの割れ目が雷の形に似ているって辞書に書いてたな」

エクレアは、辞書の内容がスイーツ娘とは別にスイーツが存在することを示していると気づいていない。しかしそれよりも、だ。

「つまり!雷がギザギザしていないと、エクレアという名前にならないんだ!!」

「…全人類殺しただけあって、お前は本当に狂人だな。何言ってるかわからんぞ。雷はじゃないか」

そう。そうそこなのだ。


やっとわかった。スイーツ娘の世界は、スイーツ娘を存在させるために現実宇宙より暗黒物質が多い。そうすると地球を貫通する暗黒物質も多い。暗黒物質はごくたまに、空気や水の中にイオンを発生させる。

そして雷はそのイオンを伝うように流れる。なぜなら空気は絶縁体だから。

その結果この世界の雷は暗黒物質の通過した軌跡をなぞるように、真っすぐ落ちる。それを当たり前だと思っていた。でも違う。

本来の宇宙では雷はギザギザに落ちるのだろう。だからエクレアはこの世界のバグとなった。エクレアが第二の変曲点なのだ。


ザッハトルテはすぐに自身を量子もつれ状態にある粒子でスキャンした。量子もつれを崩さないような、繊細な設定が必要だったが、そのやり方は人類肉塊コンピュータに計算させた。そして対になる粒子はエクレアの宇宙船の中にある。

量子テレポーテーションの原理により、エクレアの隣にザッハトルテが出現した。

その瞬間。


宇宙が。



崩壊した。




セカイが崩れていく。その破片の中に、確かに、現がいた。


「ゴメン」現は空中で開口一番、ザッハトルテに謝罪してきた。

「どうして謝るの?」

「スイーツ娘を作った宇宙にも暗黒物質が存在したんだ。つまりここもまだ現実じゃないんだ。宇宙はマトリョーシカみたいになっていたんだ」

「そんなことどうでもいいんだよ」ザッハトルテは現を抱きしめた。「だって現の存在が私にとってのリアルだから」

現もザッハトルテを抱きしめ返




(ここでこのアニメ原案は途切れている。この文章は原因不明の変死をとげた、アニメ脚本家A氏の死体のとなりにあったパソコン内の文章であり、この文章が途切れたところでA氏が死んだため文章が途切れていると考えられる。なお、この原案はアニメ会社のもとに届いたが、内容が不気味すぎたので却下となり、ふつうのスイーツ美少女化アニメが放送されることになった)

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