Fixe et Actif（固定と活動）

1乾杯

　コルクを掴み、反対の手でビンの底をゆっくりと回転させる。

　発砲音と共にコルクが弾け、抑えた手を押しのける程の反動が来る。

　コルクだけを鼻に近づけ、発酵した葡萄の香りを確かめる。

　フレッシュな香り——ダメージは無し。

　未だ白い靄の漂うビンの口回りの香りを確かめる。

　硝煙の匂い——気のせいか。

　銃口の様な黒い穴を見つめる。ただ、熟れ過ぎて程よくなった葡萄の香りだけがする。

　今年も、この日が来てしまったせいだろう。

　3つ有るシャンパングラスに一つずつ、桜色の液体を注ぐ。

　泡を立てないように、そうっと、少しずつ。

　よく磨かれたグラスの中で透き通ったピンク色の液体が泡を立てる。

　パチパチと囁き出す。

　もう一脚にも注ぐ。注意深く。

　囁き合う発砲音。

　撃ち合うのはここだけにしてくれれば良かったのに。

　あの人が好きだったボルドーの発砲ワイン（クレマン・ド・ボルドー）。シャンパーニュのような高価なのは出せないけれど、それでも決して安物では無い。

　３脚の内の一脚を手に取り、クープ部分を目の高さに上げる。

　発砲ワインの寺院（カテドラル・ド・クレマン）のステンドグラスに視界が酔いしれる。

　ロゼの中での撃ち合い。あるいは、自傷行為としての上等なワイン。

　鼻に近づけワインの香りに集中する。

　華やかで、奥深く、ラズベリーを思わせるような香り。

　鼻孔に感じる弾ける泡と葡萄の香り。

　もう、いいのかも知れない。

「乾杯（サンテ）！革命の興奮と、再びこの日が来た悲しみに（ア・ル・フト・ド・ラ・レヴォルシオン・ネ・ラ・ペンヌ・デュ・ジュール・キ・ヴィエン・ナンコール）！」