新年早々、びっくりだ(二回目)

『イプセン』のマスターは本当、見ての通りの世話好きだ。世話好きだからこそのマスター、とも言えるね、うん。事務所うちに用のあるお客さんをこんなふうに案内してくれたことだって、今まで何回もあった。最近だと、はしかみセンパイがここに初めて来た時もそうだったよね。

「な、なんだ、マスターじゃん」

「おはよ、由紀奈ちゃん! どう? お泊まり、楽しかった?」

「あ、う、うん……」

「ふうーん。楽しかったの。良かったわね。なんて羨ましいこと!」

 そう野太い声で言ったのは、マスターの後ろにいた謎の人物だった。マスターより頭ひとつ余裕で大きい。あたしとマスターは身長あんま変わんないんだけど、そこからすると淳ちゃんよりもかなりでかい。あたしから見て、淳ちゃんはそんな見上げるほどではない。

「ねえちょっと、ジャスミンちゃん」

「え、ジャスミンって」

「おっとごめんなさい。ワタシったら、初めましてだっていうのにとんだ嫌味から入っちゃったわ! で、あなたがユキナちゃんって言うのね? ふうーん。アキコから色々聞いてるけど。ま、普通ね」

「え、な、何」

「いーえ! 何でも! ワタシ、ジャスミン。よろしくね、ユキナちゃん!」

 彰子さんちのジャスミンじゃないよね。ジャスミン違いだよね。だって女の子って彰子さん言ってたし。振り袖とか言ってたし。このジャスミン、どう見ても男だし顔濃いしガタイいいし。ガタイよすぎて振り袖ってレベルじゃないし。縦にも横にも大っきいし。オネエ入ってるけど。オネエだからジャスミンって名乗ってるのかな? ん、名乗ってる? 芸名?

「あのね、ジャスミンちゃん、ここに用があったみたいなの。どこから入るのかわかんなかったみたいで外ウロウロしてたから、連れてきてあげたのよ」

「マスターの知り合い?」

「ううん? 違うわよ? あん、でも、前に一度お店に来てもらってるから知り合いね。うん、というか、というよりも!」

「んん?」

「彰子ちゃんのお友達!」

「ええーーっ! というか、やっぱり、っていうか、え、まじか。うっそ。まじか」

「何よ。何をそんな驚いてんのよ」

「だ、だって彰子さん、女の子って言ってたから」

「ふん。アキコはそう言ってたのね。まあ似たようなもんよ。でもワタシはワタシよ。マスターと一緒。あ、でもちょっと違うわね? マスターはどっちもイケるのよね?」

「ええ、もちろん!」

「そ、そうだったんだね……」

 マスターはバイ。そんでジャスミンはゲイ。つまりそういうことなんだね……。

「アキコがお世話になっちゃって、本当申し訳ないって思ってるんだから」

 まー、なんにしたって、ジャスミンが彰子さんとケンカしたってことは一緒か。

「てか何人なにじん? ジャスミン、日本人じゃないよね?」

 そう、日本人離れしてガタイいいし、顔濃いし。めっちゃ彫りが深い。睫毛も眉毛も濃い。ヒゲは剃ってるみたいだ。あと、肌の色もちょっと濃い。アラブ人かな? ってちょっと思った。

「ジャスミンちゃんはオーストラリア人よ」

「は?」

「インド系なんだって。ね?」

「まあね」

「え?」

 ちょ、ちょっと理解が追いつかない。色々濃すぎだって!

「え、ええーっと、に、日本では、何を……?」

「メイクのお仕事よ。メイクアップアーティストっていうの。ふふん」

「へ、へええ……ニホンゴオジョウズデスネ……」

「長いからね。日本に来てどのくらいかって? それは秘密。歳がバレちゃうじゃない」

「いくつなの?」

「だから秘密よ~。アキコと同い年! それだけ!」

 なんつーか、彰子さんちのジャスミンはとんでもない濃い人だった。『アラジン』のジャスミンなんかじゃ全然なくてむしろ、ランプの魔神みたいなインパクトだった。なもんだから、もう一回びっくりさせられた。おかげで「ジャスミン」のイメージ、完全に上書きされたよね。






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